「DeNA最終赤字」は警鐘にすぎない。上場企業「スマホゲーム一本足打法」の逃れがたいリスク

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2019年8月に鳴り物入りでリリースされたDeNAのゲーム「ポケモンマスターズ」。バグやトラブルが相次いだ。

Screenshot of Pokemon MASTERS website

ディー・エヌ・エー(DeNA)が2020年3月期、上場以来初めての通期赤字を出す見通しであることが明らかになった。第3四半期(10〜12月期)にアメリカ子会社ののれん代など、減損損失493億円を計上した影響という。

株価は発表前(2月5日)の1769円から1555円(10日)へと10%以上下落した。

2018年8月、筆者はBusiness Insider Japanへの寄稿で、環境に合わせて柔軟な業態転換を図る「メタモルフォーゼ型」企業の経営手法を紹介し、その例としてモバイルゲーム業界を取り上げた。

今回、DeNAがゲーム事業の不振を報じられたことから、漠然とでも「ゲームビジネスはヒットタイトルが出ているときはいいが、それがなくなった場合のリスクが大きいのでは」と考えた方も多いのではないか。

それでも、ゲーム業界は高収益経営を続けてきたおかげでキャッシュが潤沢にあるから、他の業界に比べればいくらかマシかもしれない。ゲーム会社もそうした状況をただ指をくわえて眺めているわけではなく、戦略的「ゲーム離れ」を加速してリスク回避に取り組んでいる。

DeNAは最終赤字も、売上減に歯止めかかった

業界各社の直近の四半期決算と2019年度の通期決算を見比べてみよう。

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DeNAが2月5日に発表した2020年3月期第3四半期の業績。

DeNA 2020年3月期第3四半期「業績のご報告」

まずは赤字転落が報じられたDeNA。筆者の目には、減損損失を除くと、大きな問題はないように映る。直近四半期(2019年10〜12月)の売上収益は前年同期比2%減。スポーツ事業(プロ野球)の閑散期で、しかも旅行事業(DeNAトラベル)の売却があってこの数字だから、売上減には歯止めがかかった印象だ。

DeNAは、旅行事業の売却だけでなく、タクシー配車アプリのMOVを日本交通ホールディングスの子会社JapanTaxiと統合させるなど、事業再編にも積極的。プロ野球・横浜DeNAに代表されるスポーツ事業の売上収益も、前年同期比101%増(2019年4〜12月累計の前期比は19%増)と成長を遂げており、次の展開に期待感はある。

短期的には減損計上で騒がれているものの、後述するライバルのGREEに比べれば、業績と業態転換の両方で改善に向かっているように感じられる。

ゲーム事業の不振で苦しむグリー

それに比べて、だいぶ厳しい状況なのがグリー(GREE)だ。

グリー 決算 2019年

グリーの2019年6月期通期(2018年7月〜2019年6月)業績。2019年8月2日発表。

出典:GREE 2019年6月期第4四半期 決算説明会資料

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グリーの2020年6月期第2四半期(2019年10〜12月)業績。2020年2月3日発表。

出典:GREE 2020年6月期第2四半期決算説明会資料

2019年6月期通期の売上高は前年比9%減。直近の四半期(2019年10〜12月)も、子会社ポケラボの好調にもかかわらず前年同期比7.3%減。DeNAと違って、ゲーム・エンタメ関連の新規事業立ち上げやベンチャーキャピタル(VC)投資を積極的に行っているが、ゲーム事業の不振から売り上げを支えきれていない。

グリーはなぜ売上高、利益とも思うように伸ばせていないのか。業界の方々にとっては当たり前のことなのだが、アカツキやエイチームの決算と比べてみると分かりやすい。

体験型施設で話題のアカツキ、東京ヴェルディにも出資

アカツキ 決算

アカツキのゲーム/⾮ゲーム別収⽀推移(2016〜18年度)。非ゲームの収入・利益とも微々たるものだ。

出典:アカツキ 2019年3⽉期通期決算説明資料

まずはアカツキから。2019年3月期(2018年4月〜2019年3月)は収入の95%超、利益の100%をゲーム関連で稼いだ。『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』という強力なヒットタイトルが成長をけん引してきたが、直近の四半期(2019年10〜12月)ではゲーム関連収入の比率が91%まで低下している。

複合型体験エンタメ施設「アソビル」や体験型アミューズメント空間「うんこミュージアム」など、ライブエクスペリエンス(LX)事業と呼ばれるリアルな遊び場を提案する取り組みが好調で、2018年12月にはサッカー・Jリーグの東京ヴェルディに出資し、関連会社化している。

アカツキ 決算 2019年度

アカツキの2020年3月期第3四半期(2019年10〜12月)業績。2020年1月31日。

出典:アカツキ 2020年3月期第3四半期決算説明資料

こうした非ゲーム事業は、課金で高い収益を生み出すゲーム事業ほどの収益率は望めない。ゲーム比率が落ちた直近の四半期(2019年10〜12月)は、売上高が22.5%増と大幅に伸びたものの、事業ポートフォリオ変更に伴い投資がかさんだために営業利益が30.6%減となった。

営業利益率も見ておくと、2017年3月期通期が48%、2018年3月期通期も48.5%ときわめて高い水準を維持してきたのに、直近の四半期には26.5%と一気に半分ほどまで低下している。

「引越し侍」ライフスタイルサポート重視のエイチーム

続いて、アカツキより先に東証一部上場を果たしたエイチームも見てみよう。

同社はゲーム事業がピークを迎える前から、事業ポートフォリオをメディア、ECへと積極的にシフトさせてきた。

エイチーム 決算 2019年度

エイチームの2020年7月期第1四半期(2019年8〜10月)業績。2019年12月6日発表。

出典:エイチーム 2020年7月期第1四半期決算説明資料

直近の四半期(2019年8〜10月)ではゲーム関連収入の比率が前年同期比で11.9%も減っている。決算説明会資料の内容も「ライフスタイルサポート事業」と呼ばれるメディア関連ビジネスの説明に多くのページが割かれている。

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エイチームの2019年7月期通期(2018年8月〜2019年7月)業績。2019年9月13日発表。

出典:エイチーム 2019年7月期通期決算説明資料

しかし、エイチームもアカツキと同じ問題を抱えている。つまり、メディアやECの利益率はゲームビジネスにはおよばないのだ。営業利益率は2018年7月期が12.5%、2019年7月期が7.6%と減少傾向で、ゲーム関連収入の比率低下が確実に響いている。

ここでは取り上げないが、Aiming(エイミング、東証マザーズ上場)やgumi(グミ、東証一部上場)といったゲーム会社も、直近の四半期では売上高が前年同期比で25〜30%減少しており、エイチームやアカツキのような道を歩まなければ生き残っていくのは難しい。

「高収益本業のジレンマ」

ここまで見てきたように、ゲーム業界は現在、ゲーム事業に売り上げを依存したままの会社群と、新たな事業分野の開拓に邁進する会社群とに二分されている。

ただ、「脱ゲーム」を進めたくても、新たな事業分野への先行投資と収益ミックスの変更によって会社全体の営業利益率が減るため、(当たり前ではあるけれども)業態転換は容易でないことも示唆された。

ひと言で言えば、ゲームを本業にしている企業では、このような「高収益本業のジレンマ」が生じる。

ここで参考にしておきたいのが、広告代理店業を本業とするサイバーエージェントだ。

サイバーエージェント 決算

サイバーエージェントの2019年9月期通期(2018年10月〜2019年9月)業績。2019年10月30日発表。

出典:CyberAgent FY2019 Presentation Material

同社はゲーム事業も手がけており、売上高の約3割、営業利益の約半分をゲームで稼いでいる(2019年9月期通期決算、除くメディア事業)。広告事業は媒体からの仕入れがかかる分、収益性は低い。しかし安定感はある。

営業損益で2年連続200億円の赤字を出しているAbemaTV事業は、投資が先行しているものの、今後黒字転換できれば「大手企業の広告収入+課金」というスタイルなので、ゲーム事業よりは安定感がある。高収益かつハイリスクなゲーム事業との両輪という意味では、バランスも優れている(あくまで概念的な整理で、現時点の見通しは不確定なので注意されたい)。

業態転換を検討するならまずはシンプルに

本稿の最後に、ゲーム業界に限らず、「一本足打法」からの脱却を目指して事業構造の変革に取り組んでいる、あるいは今まさに取りくもうとしている企業の方々にお伝えしたいことがある。

企業コンサルタントである筆者のところには、業態転換に取り組みたいが現在の状況を動かすのは難しい、新しい柱をどのようにつくるべきか、M&A(合併・買収)と新たに事業を始めるのとではどっちがいいか、といった質問が日ごろから数多く寄せられる。

非常に複雑なフレームワーク、数百ページにもおよぶ分析など、大手のコンサルティングファームが作成した資料を使って会社の現状や変革案の説明を受けることも多い。しかもそういうケースにかぎって、結局は何をどのように進めたらよいか分からない、という話に落ち着きがちだ。

筆者としては、担当者や社長ですら理解できていない複雑な資料を用意する必要はないと言いたい。実はコンサルティングファームがつくる資料も、一般的な考え方と成功事例をパターン化したものを整理しただけということが多々ある。皆さんの会社に必ずしもフィットするとは言えない。

まずは自社はどうなりたいのか。事業をどうしたいのか。事業ポートフォリオをしっかり見つめ直し、どこに収益の柱があり、それをどう変えるのかをシンプルに検討するところから始めることを強くおすすめしたい。


森泰一郎(もり・たいいちろう):森経営コンサルティング代表。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。戦略コンサルティングファームを経て、ITベンチャー企業にて経営企画マネージャーを担当。M&Aや経営企画、事業企画、業務改善に従事。中堅企業にて取締役CSOとして経営企画と戦略人事、新規事業開発を担当。現在は大手上場企業から中堅・中小ベンチャー企業まで、成長戦略の立案、M&Aコンサルティングを行う。

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