医師不足が指摘されていた武漢には、全国から続々と医師たちが終結しているというが(写真は2月10日)。
China Daily CDIC/Reuters
新型コロナウイルスの発生源とされる武漢市のある湖北省は2月13日、新たに確認されたに新型ウイルスによる肺炎の患者数が12日時点で前日比1万4840人増えたと発表した。省全体での患者数は4万8206人で、死者数も1310人となった。
新しく加えられた「臨床診断」項目
国営の新華社通信によると、湖北省は13日から、(中国)国家衛生健康委員会事務室、国家中医薬管理局事務室が配布した「新型コロナウイルスによって感染する肺炎についての診療方案(テスト運行第5バージョン)」に「臨床診断」の項目を入れたという。
臨床で診断した肺炎患者を新型肺炎の患者の数に入れるように変えたところ、患者数が急増した、と伝えている。
また、ロイター通信によると、湖北省ではこれまで日本でも検査方法として使われている「PCR検査」で陽性反応が出た場合のみ、感染と診断してきたが、この検査方法では時間がかかるため、治療の遅れにつながっていた。そこで、肺感染を特定するCTスキャンによっても新型肺炎と特定することにした。
同省はこれまで2種類の患者数のデータを持っており、それを合わせた結果、患者数が急増したと報じている。
今後、湖北以外のすべての都市・省でも同様に、「臨床診断」の項目に基づいて診療し、患者数を公表するとしており、さらなる患者数の増加が予想される。
教師や公務員が徹底した患者探し
湖北省での患者数が急増している一因は、診断の基準の変更と発熱があるなど疑わしい人たちを次々隔離しているという背景も。
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現在、武漢などの湖北省の都市では、公務員、教師が動員されて徹底的に患者を見つけ、治療施設に入れているという。感染を食い止めるために、少しでも熱があればすぐ隔離されるという徹底さから、新型肺炎の疑いのある人はほぼもれなく病院などに搬送され、それも患者数を増加させている一因と見られる。
2月13日以降、中国全土でこの「新基準」が診断に適用されるため、14日から急に患者数が増加することは間違いない。つまり急に感染が拡大しているというわけではない。
武漢市の戸籍人口は908万人で、2月13日現在の患者数は3万2994人だから、罹患率は1千分の3.63。中国国内でも突出して高い。日本の外務省は12日に、湖北省を渡航中止勧告とするレベル3にした。
これに比べ筆者のいる北京では、患者総数は13日時点で352人で死亡者数は3人。2153万人の人口を抱える北京での新型肺炎の罹患率は1万分の0.0016だ。
現在中国では“全中国”の力を結集して武漢、湖北省での新型コロナウイルスの封じ込めに躍起になっている。湖北でのこの疫病の戦い(このごろ中国では「戦疫」という)を制したら、なんとか制御できると思われている。
湖北省や武漢のトップが交代
2019年末から年明けにかけての情報の隠蔽などについては、今後厳しく追及されることが予想される。
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日本の都道府県では知事がトップだが、中国では省の共産党委員会の書記がトップで、その下に省長(知事)が位置する。それから一段低いのが市(市共産党委員会書記と市長)で、さらに市の下には県共産党書記、県長がいる。
省長や県長は人民代表大会によって選ばれるが、共産党書記は上の委員会で決めれば任命できる。共産党がすべての行政を指導しているのだ。
中国共産党中央委員会は2月13日、湖北省共産党委員会書記だった蒋超良氏を更迭、上海市長の応勇氏を同書記に任命した。さらに武漢市共産党委員会書記だった馬国強氏も更迭して、山東省済南市書記の王忠林氏をそこに据えた。
その前の10日には、日本の厚生労働省にあたる国家衛生健康委員会の副主任(副大臣)の王賀勝氏を湖北省共産党委員会常務委員に任命し、同時に湖北省衛生健康委員会共産党書記を兼任させることとした。
政治的に有能な人材を湖北省に集中させ、情報の隠蔽を防ぎ、新型肺炎のさらなる拡大を行政の側面からも食い止めようとしている。
武漢に終結した4000人の人民解放軍軍医
同時に中国全土から医療人材も湖北省に集中させている。
2月8日時点で、人民解放軍の1400人もの軍医が武漢に派遣されているが、13日に新たに2600人の軍医を追加派遣することになり、武漢だけでも4000人の軍医が直接医療に当たる。
民間の医療チームも2月以降続々と湖北省に到着している。新華社の報道では2月11日現在、中国全土から150の医療チーム、1万8000人にのぼる医師・看護師が湖北省入りしているという。
経験豊かな官僚、全国の医療人材や軍医、中国が出せる力を武漢と湖北省に集中させた、さながら総力戦の様相だ。
2019年12月時点で新型コロナウイルスによる肺炎の流行を認識しながら、情報をひたすら隠蔽し、肺炎情報を知らせようとした医師を公権力によって処分し、さらに1月18日には数万人の市民が参加する大宴会を中止しなかった湖北省や武漢市の行政トップの罪は非常に重い。
湖北省や武漢市の行政の無責任や、中国疫病制御センター担当者の感染についての判断ミス、注意喚起をした武漢の医師をデマを流した人と決めつけた中央テレビの番組など、一連の責任追及は湖北での“戦疫”がひと段落してから進められていくだろう。
陳言:在北京ジャーナリスト。1982年南京大学卒。経済新聞に勤務後、1989年から2003年まで日本でジャーナリズム、経済学を学び、2003年に中国に帰国。経済雑誌の主筆を務めた後、2010年からフリージャーナリストに。2019年から日本語月刊誌『人民中国』副編集長。