2019年6月20日、スラックはニューヨーク証券取引所に上場を果たした。
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- 2月10日にIBMが全社でSlack(スラック)を導入したことが明らかになった。
- IBMは数年前にスラックを導入しているが、今回同社の全従業員35万人にアカウントを拡大する。
- 複数のアナリストによると、IBMとの契約によってスラックが巨大企業のニーズを満たすサービスを提供できることが示され、同時に、競合とされるマイクロソフト「Teams(チームズ)」と十分戦えることが証明された。
スラックが最大の顧客であるIBMとのさらなる関係強化に成功した。大企業から信頼と予算を得てビジネスを展開する能力を示したと言っていいだろう。2019年6月に上場したばかりの同社にとって、大きな一歩となった。
Business Insiderは2月10日、IBMが「全面的に(wall-to-wall)」スラックを導入すると報じた。IBMは以前からスラックを活用していたが、その範囲を35万人の従業員全体に拡大する。
マイクロソフトが展開するビジネスチャットTeamsとの競争が激化しており、スラックにとってIBMとの関係強化は非常に重要な意味をもつ。
スラックがマイクロソフトとの競争に勝ち残るためには、中小企業相手のビジネスだけでなく、マイクロソフトが長いこと牙城としてきた大企業との取り引きを開拓するしかない、というのが大方のアナリストたちの見解だ。
投資銀行ウィリアム・ブレアのアナリスト、アルジュン・バティアは投資家向けのレポートでこう評価している。
「IBMとの契約は、スラックの大規模展開の準備が整ったことを広く示す合図になる。契約に至ったのは、スラックの安全性、信頼性、統合性、広い有効性(言い換えれば、IBMの社員たちがスラックを使って問題なく仕事ができているという事実)が確認されたからこそで、そこに注目すべきだろう」
RBCキャピタルマーケッツのアナリスト、アレックス・ズーキンも同意して、スラックのプロダクトは「きわめてスケーラブル(=大企業でも十分使える)だ」と高評価。
マイクロソフトやシスコの競合がスラックの顧客に
米サンフランシスコのスラック本社。
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IBMは2014年から一部の部署でスラックを導入。16年には最初のパートナーシップ契約を結び、19年末になってついに全社的な導入を決めた。すでに30万人が業務に活用しており、残りのおよそ5万人もこれから加わる。
Bsuiness InsiderがIBMとの契約締結を2月10日に報じると、スラックの株価は約14%上昇。同社は直後に米証券取引委員会(SEC)に直近報告書(8-K)を提出したが、業績見通しについては特段変更なく、「IBMはここ数年当社にとって最大の顧客であり、同社内でのスラック活用は広がっている」と記載するにとどまった。株価は13日(日本時間)時点で数%、値を戻している。
前出のアルジュン・バティアによると、IBMの全社員35万人にスラックのアカウントが提供された場合、スラックの年間経常収益(有料プラン収入)は3000万ドル(約33億円)にのぼるという。
フトゥールム・リサーチのダン・ニューマンは次のように分析する。
「IBMとの契約はスラックにとって大きな成果だが、とくに驚くべきこととは考えていない。マイクロソフトとの競合を考えれば、IBMが直接の競合でない(スラックのような)企業の提供するツールを導入したいと考えるのは当然だ」
IBMは2018年10月、オープンハイブリッドクラウドの旗手であるレッドハットを買収。マイクロソフトやシスコ・システムズとの直接対決に向けて陣容を整えている。
前出のダン・ニューマンは、「マイクロソフトもシスコも、IBMがスラックと全面的に組む選択をするとは考えていなかったのでは」とした上で、今後も「IBM以外にマイクロソフト、シスコと競合する企業との契約を期待できる」との見方を示している。
(翻訳・編集:川村力)