イシイのミートボールの石井食品が、75年で変えたこと変えなかったこと

イシイのロゴ

グローバル企業を中心に加速しつつあるのが、「SDGs(持続可能な開発目標)」に向けた取り組み。気候変動対策やサステナビリティ、経済格差是正など17の項目を包括的に達成するアプローチを考えたうえで、商品開発や事業開発に取り組む企業が増えています。

日本でも少しずつその考え方に関心が集まりつつあるものの、企業としてはコーポレートブランディングやCSR活動の範疇にとどまることも多く、仕事として携わる人はごくわずか、主にはソーシャルベンチャーやNPO法人が社会課題解決に取り組んでいるのが現状です。

そんななか「イシイのミートボール」で知られる1945年設立の石井食品は、ここ20年ほど積極的に環境問題に取り組み、CSRの一環ではなく、「経営方針」として社会課題解決を掲げています。

全国各地の地域とコラボし、農家がより良い野菜を持続的に栽培し、消費者に良質な商品を提供するサステナブルなビジネスモデルを開発。また、2021年までにパッケージの代替プラスチックへの切り替えを表明するなど、新たな取り組みを始めています。

今回はそれを主導する石井食品株式会社代表取締役社長の石井智康さんに「事業から始める社会変革」について伺います。

石井智康さん

創業者から受け継がれた「社会のために」という思い

——石井食品が環境問題に積極的に取り組むようになったきっかけは何だったのでしょうか。

会社として明確に取り組み始めたのは父(石井健太郎会長)の時代からです。僕自身は2017年に当社へ入社するまで、エンジニアやアジャイルコーチとしてソフトウェア開発やチーム作りに携わっていました。

石井健太郎会長

企業理念に「地球にやさしく、おいしさと安全の一体化を図り、お客さま満足に全力を傾ける」を掲げたのが2000年のこと。1997年から製造過程で食品添加物を使用しない取り組みを始め、地球にやさしい食品製造のあり方を追求してきました。

2005年に工場への太陽光発電を導入し、東日本大震災後も省エネやトレーサビリティを考え、2004年からISO14001を取得し、2017年には2015年度版を再度認定取得しています。あくまで「地球にやさしく」をCSRの一環ではなく、事業の中心に据えて取り組んできました。

もとはと言えば、当社の創業者……祖父と祖母が「社会のために何ができるか」というマインドを強く持っていました。

祖父は戦前、電気工場を経営していたのですが、戦後の食糧難の時代、近海で獲れるアサリを佃煮にして売ることにしたのです。それから高度経済成長期、食の多様化を見据えて、洋食のハンバーグやミートボール、中華料理などを手がけるようになりました。

当時の写真

そしてバブル崩壊後、経済の転換期を迎え、効率性だけを求めるのはいかがなものかという会長の課題意識のもと、「無添加調理」やトレーサビリティに取り組むようになりました。会長は学生時代、カリフォルニア大学の農学部で食品加工や農業などを学んでいたので、そういった意識はかなり早くから持っていたのだと思います。

会長

——いま注力しているのはどういったことでしょうか。

これまで取り組んできたことは踏襲しつつ、いかにその裾野を広げていくかを考えています。

具体的には、1つは地域食材に着目し、生育環境や栽培法などを考慮した良質な食材を、生産者の方に伺ったその地域ならではの方法で調理した「地域と旬」という商品を提供しています。商品を通じて地域の「ファン」を増やして、生産者の方が持続的に良質な食材を作れるようなビジネスモデルを目指しています。

もう1つは、石灰石を主原料とし、原料に水や木材パルプを使用せず、また石油由来原料の使用量を抑えた、紙やプラスチックの代替素材である「LIMEX(ライメックス)」を開発・製造・販売されている株式会社TBMと共同研究開発を行い、主力商品の食品包装を2021年までにLIMEX製に切り替えることにしました。手はじめに2020年のおせち料理の一部にLIMEXのトレーを使っています。

LIMEXのトレー

——なぜその2つに着目したのでしょうか。

基本的には、「ご縁」なんですよね。何か戦略を立ててというよりも。

例えば、山梨県大月市で栽培された無農薬玉ねぎを使ったハンバーグを期間限定で販売しているのですが、生産者の方と話していたところ、新たな販路を構築したいとのことで、試しにコラボ商品を作ってみますか、とご提案したところ、生産者の方にも喜んでいただけましたし、お客さまからも好評でした。

こんなことを言うのもなんですが、東京で高価なフレンチのフルコースを食べるより、田舎へ行って採れたての野菜をシンプルに焼いて塩で食べるほうが、体に染みるほど美味しいときってあるじゃないですか。

そういう体験をすると、その土地その土地で食材を育てている方と出会って、その方々が健やかに働き続けられる環境づくりのお手伝いをしたほうが、本質的だと感じるのです。いろいろと論理的に考えるより、まずはこの美味しさをお客さまにも体験してもらうことが重要なのではないかと考えました。

バーニャカウダセット

しかし、実を言うと、食品メーカーってほとんど生産者の方と関わる機会がないんです。食品製造において最も重要なのは、良質な食材を安定的かつ大量に手に入れることなので、たいてい農協や商社の方とやり取りしてきました。けれども「地域と旬」を開発するにあたり、それこそ会長の一声で「良い野菜を作っている農家さんを探せ」と、1から新たに関係を作ってきました。

これまで量販店やスーパーにルート営業していた社員たちが、ある人は道の駅の品出しを手伝いながら農家の方と仲良くなる方法を模索したり、ある人は市役所にアポなしで突撃して「農家の方を紹介してもらえますか」とお願いしたり……そうやって、少しずつつながりが生まれてきたんです。

社員の方々が農家の方々と交流される様子

農家の方と直接話していると、彼らが直面している課題や新たな発見がありました。例えば、「栗ご飯」一つ取っても、千葉、茨城、埼玉、岐阜、京都、熊本と6つの地域産の商品があるのですが、土地によって異なる栗の風味を感じるために地域ごとで味づけを変えているんです。

僕らのこれまでの考え方だと、食品メーカーとして、味がブレてはいけない。色もキレイに見栄えよくしなければならない……となるのですが、テスト段階でお客さまや百貨店のバイヤーの方に食べていただいたところ、「手作りってこうだよね!」「ちょっと渋皮が入っているくらいが味わい深いよね」……と、むしろ評価いただきました。そうやって、逆に僕らの価値観が変わったところがあります。

石井智康さん2

——確かに「安定して美味しいものを安く大量に作ろう」という考え方とは真逆ですね。

やっぱり、会社として長くビジネスをしていると、その中での常識が定まってしまう。当社には八千代(千葉)、京丹波(京都)、唐津(佐賀)の3工場があるのですが、基本的にはなるべく同じ味にしようとしています。でもたまにお客さまからこんな問い合わせがあるんです。「息子がミートボールの味が変わったって言うんですけど、本当ですか?」と。

よくよく聞いてみたら、九州にお住まいの方が地元スーパーで商品を買ったところ、たまたま京丹波製造の商品が流通していたようで。実際、鶏肉や調味料は地元で調達したものを使うので、微妙に味が違うんです。そう考えると、これからはむしろ「京丹波産」「唐津産」と、それぞれの違いを打ち出していったほうがいいのではないか、と。

ミートボール

——ビールにもそういうのがありますしね。

ですよね。より個性を際立たせることが、お客さまにも価値を感じていただける時代になってきました。当社では地域の味を大切にして、それぞれの地域で志ある野菜づくりをしている生産者の方にもしっかりと還元する。その思いに共感いただける事業者とともに販路を広げていき、お客さまにより良い商品を届けていこうと考えています。

身近な視点から社会課題を考える

—— LIMEXを導入しようと考えたのは、やはり最近、プラスチックの環境負荷問題に関心が集まってきたのも大きいのでしょうか。

前提として、社会課題に対して新たな解決策を見いだし、価値を生み出すことは創業以来ずっとやってきたことだと考えています。ただ、社会課題は時代によって、毎年刻々と変わっていきます。直近では、千葉での台風被害も記憶に新しいところですし。僕だけでなく、会社全体として社会課題に対して何ができるのか、常に考えています。

LIMEXはたまたま僕がきっかけだったのですが、以前から「加工食品って、使えば使うほどゴミが出てくるなぁ」とは思っていたんです。毎日ゴミ出しすると、包装紙やパックのトレーとかがたくさん入っていて、罪悪感がありました。なんとかならないかなと、ずっと思っていました。解決したい課題が身近にあったわけです。

そんなとき、エンジニア時代から出入りしているビジネス系のコミュニティで、知人から「こんな素材があるんだけど」と紹介してもらいました。きっと興味あるだろうから、と。それで、TBMさんに話を伺って、ぜひ一緒に取り組んでいきましょうとなりました。

石井智康さんとLIMEXの担当者

——前職からのつながりがきっかけだったんですね。

逆に、僕が武器にできるのはそういう部分なんですよね。IT業界にいたころからのネットワークやスキルを活かしながら、当社の文脈と合わせることによって、何か新しいことができないか、と。エンジニアって勉強会が頻繁に開かれているし、コミュニティへの出入りも多いから、自分の課題意識と近い人と出会えることも多いんです。

そういうコミュニティが身近にあって、ビジネス面でもさまざまな方と出会えるのは、僕にとって大きな強みだと考えています。IT業界では比較的、外部との協業が当たり前だけど、食品業界でもそういったことができればいいなと考えて、いろいろと仕掛けようとしています。

——ただ、食品業界は「安心・安全」を重視する分、保守的な文化もあるのではないでしょうか。

そこまで「攻める」業界でないことは確かです。僕が入社して一番感じたのは、社員たちはとても真面目で素直な人が多いということ。当社の成り立ちを考えると、電気工場から佃煮屋、洋食や中華料理、そして無添加調理と大胆な変化を遂げてこれたのは、祖父や父が強いリーダーシップでやってきたから……というのは否めません。

ただ、「安心・安全」は大前提として、食の好みやトレンドは毎年変わるじゃないですか。タピオカの次に何が流行るのかは誰も分からない(笑)。毎年新しい味にチャレンジしなければならないところもあるわけです。そして安心安全の基準も下がることはなくて、むしろどんどん求められる水準は高くなるばかり。そういう意味では、会社も常にアップデートしていく必要があるんです。

陳列されたミートボール

ですから、僕としてはトップダウンというより、社員みんなでチームとして、誠実に美味しいものを作りながら、新しい情報をキャッチしていきたい。

ITと食品で違うのは、スマホを使わない人はいるかもしれないけど、食事をしない人はいないじゃないですか。自分で食べてみて、美味しいかどうか体験できる。だから、生活の中で「もっとこうしたらいいかも」とか「やっぱりおかしいんじゃないか」とか、自分たちの気づきからスタートしていけたらいいなと思います。

——そもそも、石井さんが前職でやってきたこと自体、アジャイルコーチとしてチームを機能させることですもんね。

そうですね。今のように刻々と時代が変わって、多くの人の多様なニーズに応えるには、やはりチームワークでなければ難しいんですよ。新しいことを始めるときは不安だけど、実際に出来上がったものを目の前のお客さまに食べていただいて「美味しい!」と言ってもらうと自信がつくんです。社員一人ひとりにスイッチが入るというか。

石井食品の従業員

「楽しい・心地よい」から無理なく続けられる活動を

——世界的な流れを受けて、日本企業でもSDGsに取り組もうとするところが少しずつ増えていますが、海外と比べるとまだ温度差があるのも確かです。もっと自分ごととして考えられるようになるためには何が必要だと思いますか。

日本各地での災害も、見方によっては気候変動の影響を受けていると言えるでしょうし、いくらでも自分ごと化しようと思えばできるのかもしれないけど、やっぱり実感が持てないとなかなか意識するのは難しいですよね。

ゴミ分別にしても、毎日ストイックにできるかというと難しい。当社が掲げている「無添加調理」なんかも、食物アレルギーのお子さまのいる親御さんや健康意識の高い方などは関心を寄せていますが、なかなかそれ以外に広がっていかない。

石井智康さん3

たぶん、「楽しい」と思えないといけないんでしょうね。健康診断でメタボに引っかかって、「食事に気をつけてください」なんて言われても、つらい食事制限だと続かないじゃないですか。「毎日〇km走る」と目標を設定しても、なかなか思い通りにはいかない。

例えば音楽フェスで意外とゴミ分別がきちんとされていたり、環境保護について考える機会があったりするのは、楽しみながら課題を共有できるからだと思うんですよ。そういう意味では、僕らもさまざまな地域の旬の味を紹介して、食の楽しみ方を提案していくことが、環境への意識にもつながるかもしれない。「美味しく食べて、気づいたら環境にもいい」くらいが無理なく続けられるのではないでしょうか。

——確かに、社会課題と大きく捉えると、ストイックに取り組まなければ解決できないというイメージもあります。

僕も環境問題に詳しいわけではありませんが、「食」って環境と密接に関わっているから、身近なものとして考えやすいのではないかと思います。ウィル・スミスと息子さんがプロデュースした紙パック入りのミネラルウォーターだって、水を買うだけで「環境に貢献している」気持ちになれる。それも1つの体験だと思うんです。

ですから、食品メーカーとして、食そのものに注力するのはもちろんのこと、その先の「体験」も作っていきたい。地域の味を食べているうちにその地域のことを思い浮かべたり、代替プラスチックの包装資材で環境貢献意識を高めたり、Webとも連動して顧客体験価値を高めていけたら。

「ていねいな暮らし」とか「愛情弁当」という言葉もあって、もちろんその良さもすばらしさもありますが、「忙しくて、そこまでキチンとできない」という自己否定につながっていることもあるんですよ。それがお母さん方を苦しめているのは、つらいなぁって。

だから、僕らは加工食品や冷凍食品でも栄養価が高くて、「美味しい」と思ってもらえる商品を作ることで、手料理でなくても、楽しく健康な食生活が送れるようにする。「こっちのほうが楽しくて、なんとなく心地いいよね」という体験を作っていきたいですね。

石井智康さん4


PROFILE:石井食品株式会社 代表取締役社長執行役員 石井智康

千葉県船橋市出身。2006年6月にアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ(現アクセンチュア)に入社。ソフトウェアエンジニアとして、大企業の基幹システムの構築やデジタルマーケティング支援に従事。2014年よりフリーランスとして、アジャイル型受託開発を実践し、ベンチャー企業を中心に新規事業のソフトウェア開発およびチームづくりを行う。2017年から祖父の創立した石井食品株式会社に参画。2018年6月、代表取締役社長執行役員に就任。地域と旬をテーマに農家と連携した食品づくりを進めている。認定スクラムプロフェッショナル。

[取材・文] 大矢幸世 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭

iXキャリアコンパスより転載(2020年2月7日公開の記事)

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