ワクチンや特効薬のない感染症対策。まずは手洗いを徹底しよう。
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中国を発端に広がっている新型コロナウイルスにともなう感染症。2月14日段階で、中国全土での累積感染者数は6万人を超え、死者数も1300人を上回った。
2月13日には、日本でも80代の女性が肺炎によって亡くなり,その後の検査で新型コロナウイルスに感染していたことが確認された。日本で一連の感染症による死亡例が確認されたのは、これが初めてだ。
ウイルスの感染経路は主に2つある
現状では、すでに日本でも感染の広がりが起こっていると考えて、冷静に一人一人ができる対策を続けるほかない。
ウイルスの感染経路は主に2つ。
1つは、唾や咳などに含まれる細かい飛沫を吸い込むことで感染する「飛沫感染」。
もう1つは、飛沫が付着した手でドアノブやつり革、スイッチなどを触り、さらにそこに触った人の手を介して感染する「接触感染」。
こういった経路での感染を物理的に防ぐためにできる対策の基本は、手洗いだ。では、実際に手を洗う時には、どういったことに注意すべきなのだろうか?
石鹸と消毒液は「役割が違う」
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手を洗う際には、石鹸やハンドソープ、消毒液などを使う場合が多い。感染症制御の専門家である東京保健福祉大学の菅原えりさ教授は「実は、石鹸と消毒液では役割がちがいます」と話す。
WHOや厚生労働省によると、コロナウイルスはアルコールに弱いウイルスだ。濃度の高いアルコールには、コロナウイルスの表面にあるタンパク質を破壊して、ウイルスを殺す効果があるとされている(ほかのウイルスでは、効果がない場合もある)。
一方、石鹸やハンドソープには有効成分としてアルコールが含まれていないものも多い。
WHOでは、新型コロナウイルスへの対策として手洗いを推奨している。
出典:WHO
菅原教授は、石鹸やハンドソープを使った手洗いでウイルスを死滅させることはできないとしながらも、「石鹸などによる手洗いには、手に付着したウイルスを物理的に洗い流す役割があります」と話す。
つまり、一見すると同じ作業をしているように見える石鹸やハンドソープを使った手洗いと、消毒液を使った手洗いでは、その意味は大きく異なっている。
消毒液やハンドソープなどを販売するサラヤの担当者は、Business Insider Japanの取材に対して次のように話した。
「エタノールが含まれていたとしてもハンドソープはあくまでも『洗い落とす』ということに主眼が置かれています。基本的にはハンドソープなどを使って手洗いをしてウイルスを洗い落とした上で、さらにアルコール消毒をするのが望ましい」
なお、ハンドソープや消毒液の品薄状態が続いている状況に対して、サラヤ担当者は、
「石鹸(ハンドソープ)の在庫はまだあるが、消毒液については厚生労働省から『アルコールが効く』という話が出て以降、数が少なくなっています。生産は続けていますが、お客様にいつお渡しできるかは分かりません」
と語っている。
また、ハンドソープの「キレイキレイ」を生産するLIONの広報担当者は「直近の店頭での販売数の推移は、対前年比で約1.8倍となっています」と、ハンドソープの需要が高まっている様子を明かした。
手を正しく洗うには?
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「手を洗うことが対策の基本」と言われても、ウイルスは目に見えない。手を洗った時に実際にどれだけウイルスを除去できたのかを判断できない。
菅原教授は手洗いのポイントを次のように話した。
「手の甲、指の間、手首など、全体を15秒〜20秒くらいかけて洗浄するのが良いとされています。消毒液(アルコール)を使って手を消毒する際も、手の洗い方は基本的に同じです。その場合は、消毒液をケチらずにたっぷりと使用することが大事です」
厚生労働省も、外出先からの帰宅時や調理の前後、食事の前などに手洗いをするよう呼びかけている。
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「咳のエチケット」にも注意を
手洗いとともに、「咳のエチケット」も重要な対策とされている。
マスクの装着についてはさまざまな考えがあるが、基本的に予防効果は薄いとされている。ただし、すでに咳やくしゃみなどの初期症状が出ている人が、他の人にうつすリスクを減らす上では有効だという見方が強く、WHOなどでも推奨されている。
マスクを装着する際の注意点として、菅原教授は「マスクを装着するのは簡単なのですが、マスクを外す時には多少の注意が必要です」と話す。
マスクの表面(口に当たる布の部分)には、他人の咳やくしゃみなどで生じた飛沫が大量に付着し、ウイルスが溜まっている可能性がある。そのため、マスクを外す際には、マスクの表面に触れないように注意することが必要なのだ。
それに加えて、菅原教授は「マスクを取った後に手を洗うことも重要です」と話す。
マスクを外すときには、口に触れている布の部分に触れないように注意しよう。
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もし体にウイルスの侵入を許したら? 最後の砦は免疫システム
いかに注意して生活しようにも、多かれ少なかれ、鼻、口などを手で触ってしまうことはある。もし、手についていた新型コロナウイルスが口や鼻の中に侵入してしまった場合、新型コロナウイルス感染症になることは避けられないのだろうか?
「もし、ウイルスが口の中などに入ってしまっても、すぐに感染が成立するわけではありません。私たちの体には、免疫システムが備わっています。たとえば、いわゆる風邪やインフルエンザのウイルスが体の中に侵入しても、実際には症状が出ないことも多いのです」(菅原教授)
ウイルスが体内に侵入してきたとしても、体の免疫システムが問題なく機能すればウイルスを排除することはできるはず。
そういった意味では、手洗いなどでウイルス自体を取り込まないように努力することはもちろん、健康な体を維持できるよう、十分な睡眠を始めとした規則正しい生活やバランスの良い食事など、ごく当たり前の生活の積み重ねが、実は最も必要かつ効果的な対策といえるのかもしれない。
(文・三ツ村崇志)