『ちはやふる』作者が語るネット時代の漫画家論 —— バズると買ってもらえるは違う

末次由紀さん

ストーリーも大詰めを迎えているかるた漫画『ちはやふる』。作者の末次由紀さんに、漫画家としてのキャリアの築き方を聞いてみた。

撮影:吉川慧

大ヒット競技かるた漫画『ちはやふる』作者の末次由紀さんが1月、かるたの普及と振興を目指す「ちはやふる基金」を設立すると発表し、話題を呼んだ。

そんな末次さんは、SNSで積極的に作品の魅力をファンに発信するなど、さまざまなツールを使って漫画を発表することでも知られている。そんな末次さんが語る「SNS時代のクリエイターの生き残り方」とは?

ボールペンでも“刺さる”作品は描ける

私は「紙で描く・読む」最後の世代だと思っています。私と同世代以上だと、まだ8〜9割が紙の本を買っていますが、若い作家はもう完全にデジタルに移っています。

連載の途中で漫画の見え方が変わってしまうのは良くないので、『ちはやふる』はアナログな手法で紙に描いていますが、最後の生き残り、化石みたいな感じかも(笑)。

作品の広め方もどんどん変わっています。2019年にTwitter上に公開したエッセイ漫画は、入院中にその辺にあったノートとボールペンで描きました(笑)。綺麗に仕上げをしなくても、人に楽しんでもらうことはできるんです。

でも、『左ききのエレン』のかっぴーさんとも話していたのですが、「バズること」と「買ってもらえること」は違う。私の考えでは、「お金を払ってまで欲しい」と思える作品になれるかは、愛着を持ってもらえるかどうか、だと思います。

作家としてもキャラクターとしても、「この子の未来がどうなるか知りたい」「友達や子どもにも見せたい」とどうやって思ってもらえるか。『ちはやふる』でいうと、43巻も出てるので、引越しのたびに選別にかけられる存在なんですね(笑)。新居にも持っていくか、電子に切り替えるか……。いつも戦っているんです。

もっとも女性差別のない仕事

ちはやふる

「漫画家は実力主義」と語る、末次由紀さん。(写真は滋賀・近江勧学館にて)

撮影:西山里緒

漫画家ほど、性差のない仕事ってないと思います。

新人作家だと少年誌と少女誌では原稿料のスタートラインがちょっと違うという話はありますけれど、そこから先は実力次第。「女だから」と冷遇されることもないし、妊娠・出産するからといって干されることもない。だから女の子には特に、漫画家になることを勧めたいですね。

だからこそ、一人一人が「自分の欲しいものはこれだ。自分が提供できるのはこれだ」というところを突き詰めて考えることが大事だと思います。

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競技かるたを題材にして、累計発行部数が2500万部のヒット作となった『ちはやふる』。

撮影:西山里緒

例えばお金が欲しいのなら、ストーリー漫画ではなく企業PR漫画の方がお金になるかもしれません。自分の好きな漫画を描くことを続けたいなら、ファンを増やして少額でも支援してもらうシステムのなかで頑張る。いまはそのプラットフォームも充実しています。

私は絵が綺麗な漫画が好きなのですが、すごく描き込まれていてもスマホの画面だと逆に線が見づらかったりもします。でも逆に美しい作品を作りたいという人は、贅沢品・アート作品としての漫画をつくる、という戦略もとれますよね。

いずれにしても、書きたいことの軸はしっかり持ちつつ、色々なフォーマットに自分を合わせられないといけないと思います。

しつこく売ることも大事

ちはやふる

作品の魅力を作家が伝えていくことの重要性とは。(写真は滋賀・近江勧学館にて撮影)

作家が「買ってほしい、読んでほしい」とちゃんと伝えることも重要だと思っています。

照れがあるからなかなか言いづらいのですが、出版社の思いは読者にダイレクトに伝わらないので。作品に自信があるなら「3冊まで読んで」「無料で1冊まで読んで」「面白かったら買ってね」と、勇気を持って伝えていくこと。

あのホリエモン(堀江貴文)さんですら、イベントの集客をLINEで直接DMしてくると読みました。手をゆるめるな、しつこくパンチを繰り出せ、と言われているようで「きっと買ってくれる」なんて大上段に構えるのは10年早い、と思いましたね。

それで3冊で飽きられてしまったら、それは作品の敗北ということです(笑)。

次のテーマは「地元・福岡」?

福岡

「地元・福岡の“ヘンテコなところ”を紹介したい」という。

夫は、私の漫画をよく読んでくれるのですが、「連載終了したら『ちはやふる』みたいな作品を描いてくれというリクエストが絶対来てしまうから、終わる前にもう1本始めておいたほうがいい」と先日アドバイスをもらって(笑)。

鬼か!と思うんですけれど、それも戦略的なキャリアですよね。連載をしている間に、次の手を打っておく。次は今まで描いてこなかった、縦読みやカラーの漫画を描いてみたいです。

挑戦させてもらえるなら、地元・福岡の漫画を描いてみたいと思っています。

『ちはやふる』を描いて初めて、漫画の“聖地巡礼”と言う楽しみ方があることを知りました。しかも(作中に出てきた)福井・あわら市、東京・府中市、滋賀・大津市など、それぞれの町が「かるたの聖地」だと言って、作品を盛り上げてくださった。

だから軽い気持ちでは描けないけれど、「日本ってこんなにヘンテコで面白い文化があるんだよ」と海外の人にも伝えられるような漫画を描いてみたいですね。そういう意味では福岡はすごくポテンシャルがあるなと思うんです(笑)。

子どもが4人いて、みんな小さく可愛い時期なので、遊んだり、勉強を一緒にしたり、そちらにも全力で向かいたいと思います。

(取材・構成、西山里緒)

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