新型コロナウイルスによる肺炎が国内で拡大。東京オリンピック・パラリンピックへの影響が懸念されている。
REUTERS/Athit Perawongmetha
新型コロナウイルスによる感染者数は2月17日現在、日本国内累計で59人、横浜港に停泊中のクルーズ船での陽性反応者数は450人超に達した。感染経路が特定できないケースも発生し、国内での感染拡大が深刻化している。
政府の専門家会議座長で国際感染症研究所長の脇田隆字氏は、感染拡大への危機感からリモートワークの促進や時差出勤、不要不急の外出を控えるよう呼びかけた。
感染リスクを配慮し、人出が見込まれる催事やイベントの中止も相次いでいる。宮内庁は17日、令和初の天皇誕生日(2月23日)に皇居で予定されていた一般参賀を中止すると発表。3月1日開催の「東京マラソン」は、一般参加者枠を全面的に取りやめる。
もはや経済的な影響は不可避だ。新型コロナウイルスの国内での広がりは、当初想定されていたリスクを上回る可能性が出てきた。
国・地域別の訪日外国人数と一人あたり消費額。
提供:大和総研
大和総研の山口茜研究員はBusiness Insider Japanの取材に対し、「東京オリンピックの延期・中止もリスクシナリオとして想定される段階にある。新型肺炎の拡大が深刻化すれば、2020年の日本経済はマイナス成長に転じる可能性がある」と指摘する。
静岡、奈良、山梨も。地方経済に打撃のおそれ
新型肺炎における2つのリスクシナリオ。3カ月程度で収束する場合(リスクシナリオ1)と流行が1年程度続く(リスクシナリオ2)場合の2ケースを想定すると…。
提供:大和総研
—— 新型コロナウイルスによる肺炎の流行が拡大しています。当初の想定よりも日本経済への悪化が懸念される状況にあると……。
中国からの観光客の減少が長引くことも想定されています。
現在、中国政府は海外への団体旅行を禁止していますが、これが仮に1年程度伸びると中国人観光客は約400万人減少することが想定されます。
業種で言えばホテルなどの宿泊施設や飲食店、デパート、小売店などは収益が悪化する可能性が高いです。
訪日中国人が100万人減少した場合の日本経済への影響。観光庁が1月17日に発表した「訪日外国人消費動向調査」(速報)によると、2019年の中国人観光客の消費総額は1兆7718億円で全体の36.8%を占める。1人あたりに換算すると21万2981円。
提供:大和総研
地域別でみると中国人観光客の割合が高い静岡、奈良、山梨、千葉、三重、岐阜では大きな影響があると想定されます。
特に静岡は富士山周辺の観光需要が高いことから、訪日外国人宿泊者数に占める中国人宿泊者の割合は6割を超えており影響が心配です。
都道府県別に見た中国人・韓国人宿泊者の割合。インバウンド需要に依存する地域は経済的な打撃が大きそうだ。
提供:大和総研
また、日本国内で新型ウイルスの感染拡大が深刻化していくと、他の国から日本への旅行もためらわれつつある状況になります。インバウンド需要はさらに低下しそうです。
イベント中止、国内旅行の自粛も…
(写真はイメージです)市中感染が広がれば、国内旅行にも影響が出てくる可能性が高い。
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—— 国内では、観光業界やアミューズメント業界などが感染拡大を予防する措置を取り始めました。
市中感染が広がれば、国内旅行にも影響が出てくると考えられます。
イベントが中止になったり、消費者マインドとしても人混みを避ける動きがすでに出始めています。サービス消費や旅行が控えられ、国内消費の下押し要因となりそうです。
—— Business Insider Japanの取材でも、感染報道があったことで屋形船のキャンセルが相次いでいることがわかりました。
そうですね。今後、特にアミューズメント施設やデパートなどへの影響が大きそうです。実際に日本人の来店者数が減ってきており、人混みのあるところの実店舗の消費は落ち込みやすいです。業種や企業によっては、壊滅的な被害を受けることも想定されます。
ライブやフェスなど、イベントに絡めて旅行を計画しようとしても、イベントが中止になるかもしれない……と考えると、新たな計画は立てにくいですから。
日本経済は9年ぶりマイナス成長の可能性
内閣府が17日に発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比1.6%減、年率換算では6.3%減。5四半期ぶりのマイナス成長だった。
出典:内閣府
—— 内閣府が17日に発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比1.6%減、年率換算では6.3%減。5四半期ぶりのマイナス成長でした。
この数字は新型コロナウイルスの影響が出る以前の期間のものですが、想定以上に落ち込みが大きかったという印象です。
要因としては、消費増税前の駆け込み需要の反動、大型台風や暖冬による消費の伸び悩みが考えられます。
そして、増税の反動減を受けて苦しい中、今度はそこに新型コロナウイルスによる肺炎のリスクがやってきてしまった。通常であれば、1〜3月は反動でGDPの回復を見込みやすいのですが……。
インバウンド関連はもちろん、中国国内の消費が低下すれば、日本からの輸出が厳しくなりそうです。また、日本企業では中国国内の拠点で部品を生産している企業もありますから、サプライチェーンの混乱も想定されます。
新型ウイルスのリスクが長期化すればするほど、中国向け輸出の減少は景気の下押し要因となり、経済への悪影響はさらに大きくなるでしょう。
世界のGDPと輸入額に占める中国の割合(左)と世界のコモディティ消費に占める中国の割合。
提供:大和総研
—— 免税店を全国展開するラオックスは、子会社と合わせて160人規模で希望退職を募集すると発表しました。訪日外国人(インバウンド)需要の低下を受けて国内雇用にも影響が出始めました。中国で新型肺炎の影響が長引けば、日本経済への影響はどうなるでしょうか。
中国国内での経済の落ち込みは、当初の想定より大きなものとなりそうです。長期化すると他の国にも景気の悪循環が起こりうる可能性があります。
試算によってはSARSの時を上回る影響も想定されています。中国だけではなく、他の国や地域でも新型ウイルスが広がったり、中国経済の失速に巻き込まれたりした場合は、日本経済にもさらなる打撃が想定されます。
2020年の実質GDP成長率も、東日本大震災があった2011年以来、9年ぶりのマイナス成長となる可能性もあります。
新型肺炎による日本経済への影響度と経済成長率見通し。場合によっては日本経済はマイナス成長となるおそれも…。
提供:大和総研
—— 今後考えられる、リスクシナリオのポイントは。
なかなか読みづらいところがありますが、新型コロナウイルスのリスクがどこまで長期化するのかにかかってくることになると思います。
さまざまなイベントが中止されるなか、夏の東京オリンピック・パラリンピックへの影響も現実視されてきています。
もし中止が現実のものとなれば、期間中に見込んだインバウンド需要や国内の関連消費はなくなりますし、仮に強行してもお客さんが来ない可能性もあるわけです。
延期や中止になれば、消費マインドが低下し、家計の財布の紐が固くなる可能性も考えられます。全ては新型コロナウイルスがいつ収束するかにかかってくることになると思います。
観光・アミューズメントなど各社の対応(2月14日取材)
「はとバス」(最新情報は公式サイトへ)
・利用客向けのマスクを営業所窓口に設置
・営業所カウンターのアルコール消毒
・運転手・バスガイドなど乗務員のマスク着用
・従業員の手洗い・うがいの励行
・車内にアルコール(クレベリン)を設置
東京ディズニーリゾート(最新情報は公式サイトへ)
・レストルームに消毒液を用意
・キャスト(従業員)のマスク着用
・キャラクターの着ぐるみなどと来場者が触れ合う一部の演出を取りやめ
・入園者数の変化については、取材に対し「特定期間の来場者数はお伝えしていない。天気にも左右されたりするので、決算期までお待ちいただきたい」と回答
東京ドームシティ(最新情報は公式サイトへ)
・来場者に手洗い・うがいの励行呼びかけ
・施設内に消毒液を用意
・来場者数の変化については、取材に対し「詳細な数字はまだ調査中だが、影響はないとは言い切れない。少なからず影響はあると思う」と回答
TOHOシネマズ
・手の消毒、手洗いと消毒
・従業員のマスクの着用(義務ではなく、申し出があれば着用可)
・全ての劇場で来場者用にアルコールを設置
東京国立博物館
・アルコールの消毒液を多めに設置
・職員のマスク着用を許可
・保管する予備マスクを職員に配布
・国内の感染状況は注視しているが、今後爆発的に流行するなどの状況にならない限り、通常通りの運営を予定
(取材・文:吉川慧)