2020年1月30日、Business Insider Japan(BIJ)主催のビジネスカンファレンス「BEYOND MILLENNIALS(ビヨンド・ミレニアルズ)」が開催された。メインイベントの一つであるAWARDではパナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社協賛のもと、社会課題解決に取り組むミレニアル世代のリーダーたちのピッチと表彰が行われた。
一人3分、マイク1本でプレゼン
3分間ピッチをするPOLの加茂倫明氏。パナソニック賞を受賞した。
「BEYOND MILLENNIALS」は2019年に始まり、今回で2回目となる。表彰式では各分野のビジョナリーから成るAdvisory Boardメンバーと編集部が、2019年に活躍し、2020年にさらなる飛躍が期待される次世代の「Game Changer2020 ファイナリスト」8人を選出。それぞれが3分間ずつのピッチを行い、より聞く人を惹きつけた人にグランプリを、パナソニックの企業理念に通ずる社会課題の解決に挑む人にパナソニック賞を授与した。
選考にあたったアドバイザリーボードの皆さんはこちら(五十音順)
小沼大地氏(NPO法人クロスフィールズ共同創業者・代表理事)
佐藤真希子氏(iSGSインベストメントワークス代表パートナー)
三浦孝文氏(オイシックス・ラ・大地HR本部 人材企画室 室長)
斎藤祐馬氏(デロイト トーマツ ベンチャーサポート代表取締役社長)
山口有希子氏(パナソニックコネクティッドソリューションズ社 常務 チーフマーケティングオフィサー)
【グランプリ・かものはしプロジェクト】カンボジアの児童買春問題を解決
認定NPO法人かものはしプロジェクトの本木恵介氏。東京大学3年生のときに現共同代表の村田 早耶香氏、青木 健太氏と出会い、2002年にかものはしプロジェクトを設立。2006年からカンボジア事業の立ち上げに従事。2012年からはインド事業に軸足を置き、インドでの「子どもが売られる問題」をなくすために活動を行っている。
グランプリに輝いたのは認定NPO法人かものはしプロジェクトの本木恵介氏だ。本木氏は大学在学中の2002年にかものはしプロジェクト設立。カンボジアで「子どもが売られる問題」をなくすための活動をし、実績を上げた。今後はインドや日本で児童虐待をなくすことを目的として活動していく。
ミレニアル世代のベンチャーに期待を寄せる大企業のリーダーたちが集まる会場で本木氏は「かつてカンボジアは子どもが買えると有名で、世界中から人々が集まってきました。警察はこの問題を解決しようとしない。絶望的な状況だったと思います。しかし2002年に活動を始めて、2010年ごろには多くの人が協力してこの問題を解決。実現できたのは、社会にその力があるからだと思っています」と力強く訴えた。
グランプリが発表された後の受賞スピーチで、本木氏はピッチで次のように語った。
「カンボジアで誰もが解決できないと思った問題が解決できたのは、社会にその力があるからだと今日は伝えたい。世界にはまだたくさんの問題があるけれど、人類は前に進めることができると思っています。私たちは今インドで活動していますが、今後は日本の児童虐待や暴力の問題にも取り組んでいきたい。子どもに対する暴力をどうにかして解決したい」
審査員の小沼氏は「大学在籍中から活動し、カンボジアで解決した実績を示したというところに迫力があった。それがご自身の活動だけはなく、社会の側に社会課題を解決する力があったというメッセージが力強い」と評価。ピッチでは語られなかったが、本木氏は2019年に約150のNGOが加盟する認定NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)の理事長に就任した。これまで60代以上の人が務めていたポジションに異例の30代で抜擢されたことに対しても期待が高く、満場一致でグランプリが決まったという。
本木氏は「僕らは大河の一滴であり、たくさんの水が集まってひとつの流れをなす。そのパワフルさとそこにいられる喜びを感じており、受賞できたのはそこが伝わったのかなと思っています」と喜びを語った。
【パナソニック賞・POL 】「科学者の未来を作りたい」
高校時代から起業を志し、東京大学工学部在学中の2016年にPOL設立。研究とテクノロジーを掛け合わせるLabTech領域のパイオニアを目指す。
パナソニック賞を受賞したのは、POLの加茂倫明氏。加茂氏は高校時代から起業を志し、2016年9月にPOLを創業した。
理系の学生のほとんどが企業を吟味できないまま研究室の推薦で就職している現実を目の当たりにしたのがきっかけ。「理系の才能をもっと世の中に生かしたい」と、研究内容をもとに優秀な理系学生をスカウトできる新卒採用サービスの「LabBase」、産学連携を加速する研究者データベース「LabBase X」の運営を始めた。
「研究室に足を運んで一人ひとりのプロフィールを書いてデータベースを集めた。それが3年前。今は『LabBase』に全国の大学院生約2万人が登録、約200社の企業が使ってくれている。科学者や研究者など、未来をつくっていく彼らが活躍できる社会にすることが大事。これから活躍する若い研究者や学生に成長活躍の場を提供するためさまざまな取り組みを行っていきたい」
未来への決意を語った加茂氏にパナソニック賞を贈った山口氏は、
「加茂さんが取り組んでいる課題は産業界の課題だと思う。研究、論文数が少なくなり、このままだと日本の産業が衰えてしまう。今回の『BEYOND MILLENNIALS』のテーマは『Find Your Purpose』。ご自身が大学生のときに事業を立ち上げて、自身で研究室を回った結果として2万人、200社の登録があった。これはPurposeがないとできないこと。感動しましたし応援したくなりました」
と選考理由を説明した。 加茂氏は、
「他にも研究機器が足りないなど多くの課題があり、まだ一合目にも来ていないが、そういう課題を解決していこうという志を評価いただけたのかなと思う。日本の科学が持ち直したと言ってもらえる時が本当に評価していただける時だと思っているので頑張っていきたい」
と、決意を新たにした。
熱いピッチを披露した6人
阿久津智紀氏(JR東日本 事業創造部)
2018年2月にJR東日本100%出資のコーポレートベンチャーキャピタルであるJR東日本スタートアップの設立に携わり、 2019年7月にはサインポストとのジョイントベンチャー、TOUCH TO GOを設立。 人手不足を解消するため無人AI決済店舗のソリューションの拡大を目指す。意思決定が遅いといわれる大企業にいても人を動かし、ミドルリスク・ミドルリターンで事業をつくることができることを示した。
岡村アルベルト氏(one visa代表取締役)
日本人とペルー人の間に生まれ、6歳で来日。日本国籍を取得するまでは日本での生活に苦労が多かったことや幼少期に友人が強制送還された経験などから、ビザに関する問題を解決することを志した。 大学卒業後、東京入国管理局の窓口で現場責任者を務め、年間2万件を超えるビザ発給に携わる。2015年にone visaを起業し、2017年6月にビザ取得サービスであるone visaをリリースした。
片野晃輔氏(野生の研究者)
母の患った乳がんがきっかけで分子生物学に関心を持ち「がんをつくる」研究を始める。高校卒業後、「大学に行かずにバイオの研究者になる」と言ってMITメディアラボに研究者として所属。自身の研究にまい進するだけでなく、「誰もが研究できる場をつくりたい」という思いを持ち、テクノロジーを用いることで高価な機材を使ったりせず、また遠隔地からでも実験ができる環境作りを目指している。
武地実氏(Gatebox代表取締役)
武地氏は、2014年2月にGateboxの前身となるウィンクルを設立。 現在は「キャラクターと一緒に暮らせる世界」の実現を目指し、キャラクター召喚装置として世界初のバーチャルホームロボット「Gatebox」の開発に注力している。今後、一人で暮らす人が増えるため、孤独を癒やせるロボットの需要を見込んでいる。
塚田眞琴氏(b-monster代表取締役)
2016年2月にニューヨークで体験した暗闇フィットネスに感動し、3月に姉の美樹と共にb-monsterを設立。 同年6月に暗闇ボクシングフィットネスb-monsterの第1号店となるb-monster ginza studioをオープンし、現在は上海・台湾を含む国内外で13スタジオを運営している。エクササイズにエンターテインメントを持ち込むことで運動を続けられる仕組みを作り、心身ともに明るく前向きになれる人を増やすことを標榜する。
吉田優子氏(アッテミー代表)
大学卒業後、楽天に勤務。ネットで開業するさまざまな経歴の人に会ったことで多様な働き方があることを知り、高校生にいろいろな生き方、働き方があることを伝えたいと2013年から大阪の公立高校内で就職指導を行う。2019年、アッテミーを設立。求人票だけを頼りに教師の薦めるままに就職していた高校生が、より自由に意思ある進路選択ができるように職場体験や求人エントリーができる「高校生向けジョブツアー マッチングサイトATTEME」を運営する。
グランプリに選ばれた本木氏には、トロフィーの他、副賞としてドイツ最大規模のテック・カンファレンスTOAへの参加チケット及び開催地ベルリンへの往復航空券、パナソニック賞に選ばれた加茂氏には同じくトロフィーの他、副賞として未来のオフィス空間「point 0 marunouchi」の1カ月利用券が贈られた。
ミレニアル世代の取り組みに希望を抱く山口氏は表彰式で「松下幸之助は『企業は社会の公器』という言葉を残している」と述べた。多彩な才能を持つ彼らは、夢物語ではなく現実として日本や世界を大きく変えていこうとしている。