写真はクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」。2月3日から横浜沖に停泊。内部についての専門家による告発が、衝撃を呼んでいる。
shutterstock
「アフリカに居ても中国にいても怖くなかったわけですが、ダイアモンドプリンセスの中はものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思いました。これはもうCOVID-19に感染してもしょうがないんじゃないかと本気で思いました」
2月18日早朝から、感染症専門家の大学教授自らがYouTubeに投稿したある動画が大きな波紋を呼んでいる。
神戸大学病院感染症内科の教授、岩田健太郎氏が、新型コロナウイルスの集団感染が起きているクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号の船内に厚労省の知人ルートから1日だけ潜入したという。そこで目にしたあまりにずさんな感染症対応、衝撃的な体験について告発している。
上の動画を見ての通りだが、ここではいくつもの驚きの内容が、岩田氏によって指摘されている。
1.専門家不在の船内
そもそも岩田氏は、Disaster Medical Assistance Team (災害派遣医療チーム)のメンバーやクルー、厚労省職員が働く船内に、感染症の専門家がいないことに衝撃を受けている。
「もうちょっとちゃんと専門家が入って専門家が責任を取って、リーダーシップを取って、感染対策についてのルールを決めてやってるんだろうと(思っていた)」
2.厚労官僚が聞く耳を持たない
「私も厚労省のトップの人に相談しました、話しましたけど、ものすごく嫌な顔されて聞く耳持つ気ないと。で、『なんでお前がこんなとこにいるんだ』『何でお前がそんなこと言うんだ』みたいな感じで知らん顔するということです。非常に冷たい態度を取られました」
3.災害派遣医療チームは対策ないまま感染リスク下にいる
岩田氏は現場で活動するDMAT自体、感染症の対策が十分でないことに衝撃を受けたという。
「彼らが実は恐ろしいリスクの状態にいるわけです。自分たちが感染するという。それを防ぐこともできるわけです、方法ちゃんとありますから。ところがその方法が知らされずに、自分たちをリスク下に置いている」
4.エボラ出血熱被害国のシエラレオネの方がよっぽどマシ
岩田氏自身は20年以上、感染症対策の仕事に従事し、アフリカのエボラ出血熱、中国のSARSなど多くの現場で感染症に立ち向かってきたプロフェッショナル。「もちろん身の危険を感じることは多々あったんですけど、自分が感染症にかかる恐怖っていうのはそんなに感じたことはないです」と、エボラ出血熱やSARSの現場での様子を振り返る。
その自信は、彼が感染症への対策を知り尽くしたプロであるがゆえ。そんな岩田氏であっても、ダイヤモンド・プリンセス号の状況には、心の底から恐怖を感じたという。
「もうこれは、あの、大変なことで。アフリカや中国なんかに比べても全然ひどい感染対策をしている。シエラレオネなんかの方がよっぽどマシでした」
5.2月14日に「感染症の専門家を派遣」も、事実関係は?
厚生労働省が2月14日付けで公開している資料では、2月12日にクルーズ船内で作業を行っていた検疫官の感染を受けて、
<感染症の専門家を派遣>
・医療救護活動従事者向けの感染防護の指導と、活動拠点の環境管理等を徹底する。
と、感染症対策の専門家の派遣を行うことを明示している。
しかし、岩田氏によると、2月18日の段階で感染症対策の専門家は不在。また、資料を額面通り受け取ると、14日より前には現場で感染症対策を行う専門家がいなかったということになる。
確かに「マズイ対応であるということがバレる」っていうのはそれは恥ずかしいことかもしれないですけど、これを隠蔽(いんぺい)するともっと恥ずかしいわけです。やはり情報公開は大事なんですね。(岩田氏)
政府は感染症専門家の声を真摯に受け止めているか
新型コロナウイルスの流行に対して、世界ではさまざまな専門家が知恵を出しあい、事態の解決へ向けた道筋を作ろうとしている。これは今、流行が拡大している日本で最も必要とされていることでもある。
ある程度感染の広がりを見せる新型コロナウイルスへの対策として「重症化を防ぎ、死者を減らすこと」は非常に重要だ。しかしそれは、不要な感染者を増やしても良いということではない。専門家が「防ぐ方法がある」というのであれば、行政はそれを真摯に受け止めて、対策を講じるべきだろう。
なお、2月19日の予算委員会で、加藤勝信厚生労働大臣は、岩田氏の動画で指摘されている船内環境についてたずねる野党からの質問に対し、次のように回答した。
「今回のオペレーションを的確にするため、横浜の現地に橋本副大臣と自見はなこ政務官がずっと行っている。自見政務官は医師。政務官の報告によると、船内の区域管理は適切に実施されているかを含め、船内の感染管理については感染症防御チームの専門家の医師が船内を見て、指摘があればその日のうちに対応している」
Business Insider Japanは、厚生労働省に本件の事実関係について問い合わせをしているが、2月19日午前10時の段階で、回答を得られていない。引き続き本件について取材を続けている。
岩田氏は2月20日、Twitterを通じて「動画は削除しました。ご迷惑をおかけした方には心よりお詫び申し上げます。」
とYouTubeに挙げた動画を削除した旨を報告。
同日、外国特派員協会で行われた記者会見では「船内のゾーニングが改善されたと連絡がありました。また、感染症研究所から二次感染の有無に関するデータも公開された。Youtubeに挙げた動画の役割は終わりました」と、動画を削除した理由を話した。
(文・三ツ村崇志、取材・横山耕太郎、編集・滝川麻衣子)
※編集部より:岩田氏が動画投稿を削除したことを受けて、追記しました。2020年2月20日15:50