TikTok ゼネラルマネジャーの佐藤陽一さん。
「TikTok(ティックトック)」は、15秒から最長で60秒程度の動画を作成、公開できるショートムービープラットフォームだ。2017年夏にリリースされて以来、多くの国で若者を中心に大きな人気を博している。従来の動画アプリに比べて再生時間が短いのが特徴で、手軽さゆえにアプリ内での模倣やパロディから社会的ムーブメントが広がる例も出てきている。そんなTikTokのさらなる可能性について、 TikTokのゼネラルマネジャーの佐藤陽一さんに話を聞いた。
モバイルに最適化したショートムービーアプリ
── 若い世代を中心に流行していると話題のTikTokですが、改めてどのようなものなのでしょうか。
佐藤陽一さん(以下、佐藤):TikTokは、短い動画を作ってアップロードして、多くの人とシェアすることができるサービスです。特徴としては、15〜60秒程度の動画を共有するのに適した作りになっていること。それから、縦型の画面になっていて、モバイル端末に最適化されているということがあります。
フォローする、しないということより、興味や関心を中心に、コンテンツを楽しむような形になっています。アプリを使って簡単に動画編集できるので、熱心なクリエーターはもちろんですが、ちょっと作ってみたというような人でも、流行しているジャンルやカテゴリにはまると、一気に何万、何十万ビューという再生回数をたたき出すこともあります。
音楽ライブラリも充実しているので、音楽ありきでそれに合う動画を撮るユーザーさんも多いですね。スタート当初は歌に合わせて口パクする「リップシンク」やダンスといったコンテンツが中心でした。
リリースからの2年余り、ユーザーの中心は10代後半から20代くらいの若い人だったのですが、ここ半年ほど特に20代から30代、さらに上の世代へと年代が広がってきている手ごたえを感じます。ユーザーが増え、投稿ジャンルが広がって歯車がかみ合ってきた感触があります。それで年齢層が広がってきたのではないかと考えています。
キーワードは「meme」。模倣から始まるムーブメント
── 最近、「meme(ミーム)」が注目されていると聞いたのですが、どういうようなものなのでしょうか。
佐藤:「meme」をうまく説明するのは難しいのですが、あるテンプレートがあって、それが模倣やパロディを通じて広がっていくこと、いろいろな人が模倣しつつ自分なりのものを作って楽しむムーブメントといえばいいでしょうか。
2019年末には、「OK boomer」という言葉がブームになりました。ニュージーランドの若い議員が議会で気候変動について発言中に、年長の議員から飛んだヤジをこの一言で封じたことから、この言葉を使った動画などが英語圏で大きく広がりました。こうしたムーブメントも、「meme」と言っていいでしょう。
TikTok上でも単なる模倣を超えた、工夫を凝らした動画が作られて広がっています。
例えば、「Yes or No」は、音楽と「Yes」「No」という音声という既存の音源を使って、ユーザーが考えた設問のテキストと、撮影した動画を組み合わせて作るのですが、さまざまなバリエーションの動画が登場しました。また、「ノーズペイント」では、映っている人物の鼻の位置を認識して画面上に線を描くというTikTokの機能を使って、音楽やダンスなどと組み合わせた動画の作成が広がりました。
アップされた動画を見た人が、また自分なりの動画を作るといった連鎖のなかで、創作の「種」となる素材を用意したこちらが予想もしなかった使いかたがどんどん創造されていく。そこが、ショートムービープラットフォームとしてのTikTokの面白いところだと思います。
単なるエンタテインメントではない広がり
── 「meme」の広がりから、社会貢献的な分野でもTikTokが大きな役割を果たしているとうかがっていますが、どのような例があるのでしょうか。
佐藤:2019年夏に、「#BPM100(ワンハンドレッド)DANCE PROJECT」委員会という日本赤十字社を中心に立ち上がった心肺蘇生の普及プロジェクトに賛同して、TikTok上で「#BPM100 DANCE CHALLENGE」を展開しました。胸骨圧迫に適正と言われるリズムは、1分間に100~120回が必要です。そこで、「BPM100」というリズミカルなサウンドに合わせて、心肺蘇生の方法を取り入れたダンスを踊ってみるというものです。
2019年秋には、横浜市と乳がん啓発「#胸キュンチェック」プロジェクトを展開しました。乳がんのチェックの方法をダンスにした動画を通して、若いTikTokのユーザー世代からの働きかけで、彼らのお母さん世代に乳がん検診に行ってもらおうというもの。開始からの1カ月で約9500万再生と、医療系の動画としては群を抜いたビュー数を記録しました。
どちらのプロジェクトも、若い世代をターゲットにしていたのでダンス的な要素が強くなっていましたが、誰かが模倣して動画にして、さらに誰かが真似をしてという連鎖の中で、カテゴリ全体の再生数が増え、さまざまな人の間に広がっていき、いずれも多くの人の目に触れてこれらの活動を知っていただける結果となりました。
── 医療系以外での展開もあったのでしょうか。
佐藤:ほかに、モード学園さんの「#モードランウェイ」というファッションチャレンジ企画があります。TV CMでも使われている楽曲を使ったモード学園在校生によるお手本動画を参考にしながら、好きな場所をランウェイにして、お気に入りのコーディネートでモデルウォークしてポーズを決めようというもの。
ファッション業界の盛り上げが目的で始まった企画なのですが、次第に本来の企画とは離れた投稿も増えていったことで、さらに広がっていくのです。こうしたバリエーションによって、最初に想定されたものを超えて大きく広がる流れが生まれ、とてもパワフルです。
ショートムービーだからこその「可能性」
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── そうした影響力は、ショートムービーであるという手軽さが大きな要因となっているところがあるのでしょうか。
佐藤:長い動画になると飽きさせない工夫、編集技術など、高度なスキルが必要になります。その点、ショートムービーは見るにも手軽ですし、作る際も自分でもやってみようと思わせるハードルの低さがあります。
だからこれほど広まっているのだと思います。動画がいろんなバリエーションで広がっていくTikTokのようなプラットフォームはこれまでなかったのではないでしょうか。
先に挙げた例は、若い世代向けでしたが、実のところもっと幅広い分野の投稿も急速に増えてきています。語学分野やビジネス、趣味や旅行の分野は、若い世代だけでなく幅広い世代の方々に楽しんでいただけるはずです。
アウトドアクッキングの動画ばかり作っている人もいますし、ちょっとしたときに使える英会話が学べるショートコント風の動画もあります。英語の前置詞や口語的な表現など、バイリンガルならではの説明で、本当に勉強になるものもあります。エクセルの使い方、中国語講座といったものもありますよ。
こうしたコンテンツは、ショートムービーと相性がいいんですね。短い動画ですので、隙間時間に親指でスワイプしてどんどん見ていける。好みに合わない動画は親指ひとつでどんどん飛ばせる。ぜひこの面白さをあらゆる年代の人に楽しんでもらえたらと思います。
いろんなコンテンツを見ていると、そのうちに自分でも作ってみたくなるのではないかと思いますよ。