撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
「人生100年時代」が到来。「年金はあてにならない。70代まで働くことになるんだろうな……」なんてつぶやきが多く聞こえてきます。
企業の終身雇用は崩壊しているのに、「仕事寿命」は延びていく。しかもビジネス環境の変化のスピードは速い。では、今後どのようにキャリアを築いていけばいいのでしょう。
これまで、「キャリアを築くなら専門分野で長く経験を積むべき」「資格取得はキャリアアップ・転職に有利」と言われてきました。でもそれは本当でしょうか?
実情をご紹介するとともに、ビジネスの第一線で長く活躍していくためにどんなことを心がければいいのかをお伝えします。
“掛け算”のバリエーションを増やそう
「キャリア構築」というと、「何らかの専門分野で、長く経験・実績を積み重ねていけばいい」と考えてはいませんか? その考え方はちょっと古くなっていますので「要注意!」です。
これからの時代のキーワードは「非連続キャリア」です。
ミレニアル世代の「仕事寿命」は長い。どうすれば変化にも適応できるキャリアを築けるだろう?
撮影:今村拓馬
何らかの分野で「コアスキル」を持つことはとても重要。でも、1つの分野だけを極めていくよりも、コアスキルをベースとして、幅を広げていくことをお勧めします。
もちろん、1つの道を磨き上げていくことを否定はしませんし、結果的にそれが功を奏することももちろんあります。ただし、予期せぬ社会変化が起きた場合に対応できないかもしれない、というリスクがあるといえます。
本連載の第1回では、転職市場においては1社・1部署で10〜20年勤務してきた人は警戒され、転職・異動・転勤・出向などの「変化」を経験している人のほうが評価される傾向がある、とお伝えしました。ビジネス環境がめまぐるしく変化する昨今、企業は「変化に順応できる人」を求めているからです。
それに、60〜70代まで働くのであれば、“掛け算”のキャリア構築を目指すほうが、将来の選択肢は確実に広がります。
「A分野の経験だけで数十年」よりも、「A」をコアにしつつ「B」「C」「D」……と、経験分野を広げていく。すると、いざ転職、あるいは異動や複業に臨む際に、Aの経験だけよりも、「A×B」「A×C」「A×D」などと掛け合わせることができ、人材としての価値評価が高まります。「A×B×C×D×……」と掛け合わせが多くなるほど、希少価値も高まっていき、その分引き合いも増え、結果として報酬も上がるはずです。
そして、仮に社会変化などによって「A」の経験が通用しなくなったとしても、「B×C」「C×D」などを活かして生き抜いていけるでしょう。
経験分野の掛け合わせによってキャリア構築に成功しているAさん(40代)の事例を見てみましょう。
Aさんは総合商社で海外子会社のマネジメントを経験後、財務部門に異動したのを機に、ファイナンスの知識をさらに深めるために金融業界に転職。そこで資金調達の知見を得て、ベンチャー企業にCFO(最高財務責任者)として迎えられ、IPO(新規株式公開)を経験しました。
今後、Aさんは、「商社」×「海外事業」×「子会社管理」×「ファイナンス」×「IPO準備(組織整備)」という経験の掛け合わせ方によって、スタートアップ企業のCOO(最高執行責任者)や、大手企業で新規事業立ち上げ~分社化に携わる管理部門長など、さまざまなポジションの選択肢から選ぶことができるでしょう。Aさんは今いる場所から「染み出す」経験をキャリアに変えてきた結果、それが価値になったといえます。
なお、Aさんのように、昨今、成長ベンチャーの「CxO」(最高○○責任者)のポジションを任されるような方は、「非連続キャリア」を積んできたケースが多く見られます。
これまでとは異質の領域へ踏み出す
これまでに3万人を超す転職希望者を見てきた森本さん。転職でキャリアアップを実現する人の共通点は「掛け合わせの要素をたくさん持っていること」だという。
撮影:鈴木愛子
先ほど挙げた掛け合わせの要素(A・B・C……)は、「営業」「マーケティング」「経理」「○○の技術」といった「業務スキル」のほか、「○○業界経験」や、営業で言うとモノの営業からソリューション営業に、マーケティングもデジタルマーケティング分野にと、今の分野から染み出すキャリア展開も有効です。
そのほか、エリア(国内~海外も)といった視点や「ポータブルスキル(=持ち運びができるスキル。マネジメント力、課題分析力、交渉力、調整力など)」も該当します。ぜひ、掛け合わせられる要素をなるべく増やしてください。
もちろん、必ずしも転職する必要はありませんよ。今の会社で、これまでとは異なる部署に異動希望を出す、あるいは経験したことがないプロジェクトに率先して参加する、といった行動を起こすのも有効です。
会社で認められていれば、副業・複業として新たな領域にチャレンジしてもいいでしょう。例えば、スタートアップ企業やNPO法人などで、自分のコアスキルを活かしつつ新しい経験を積むのもいいですね。最近では、企業と副業・複業希望者のマッチングサービスも登場しています。
「営業だけど、採用プロジェクトにも関わってみる」「エンジニアだけど、マーケティングの勉強をしてサービス企画に提言してみる」「Webスキルを活かして副業でスタートアップ企業を手伝いつつ、新規事業立ち上げのノウハウを学ぶ」といったように、別領域へ足を踏み出してみてはいかがでしょうか。
「資格」はキャリアアップ・転職の武器になるか?
「いつかの転職に備えて、資格を取っておこう」。そう考える人も多いようです。
学習に対する前向きな姿勢はすばらしいのですが、ハッキリ言っちゃいます。「労力と時間とコストのムダになる可能性大!」です。
転職市場においては、「実務経験」が何より重視されます(ただし、弁護士・公認会計士・司法書士など、資格がなければ業務ができない「業務独占資格」は別です)。
中途採用においては、高度な資格を保有している未経験者より、無資格の実務経験者が選ばれるケースがほとんど。20代なら、「資格+ポテンシャル」で採用されるケースも多いのですが、30代以上となるとキビシイのが現実です。
履歴書の「免許・資格」欄をビッシリ埋めることよりも、他にやるべきことがある。
撮影:編集部
もちろん、資格が無意味というわけではなく、実務経験を伴えば効力を発揮します。
例えば、経理職の方が「簿記」や「税理士」、人事職の方が「社会保険労務士」「キャリアコンサルタント」などの資格を持つのは有効です。不動産業界なら「宅地建物取引士」「不動産鑑定士」、金融業界なら「FP(ファイナンシャル・プランナー)」「証券アナリスト」などの資格を持つことで仕事の幅が広がり、収入アップにもつながるでしょう。
一方、これまでの経験とまったく関連性がないのに、「よく耳にする」「難易度がそれほど高くない」というだけの理由で資格取得に向かうのはお勧めできません。仮に取得できたとして、その後、転職活動で履歴書に記したとしましょう。人事担当者にはこんなふうに思われてしまいます。
「この人はいったい何がしたいの? 目的意識はあるの?」
「仕事に関係がない資格を勉強するほどヒマだったの?」
これでは、むしろマイナス印象を与えてしまいますよね。
しかも、専門資格の場合、法改正も頻繁にあり、学んだ知識はどんどん古くなっていきます。常に知識をアップデートしていないと、資格を持っていても使えません。だから、「いつかの転職に活かす」という目的で頑張ったとしても、労力も時間もコストもムダに終わってしまう可能性が高い、というわけです。
今の仕事に関係のない資格の勉強をするなら、その分のパワーと時間を「実務経験の質を高める」ことに振り向けてください。
「今の会社では新しい経験を積むチャンスがない」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。例えば、今の業務を見直して、効率化する方法を考えて提案してみる。「働き方改革」などの社内横断型プロジェクトに参加してみる——そんな経験を積むほうが、「人材」としての価値を高められると思います。
なお、働き方改革で残業が抑制され、「会社にはいられない。でも時間ができたから何か勉強したい」ということでしたら、ビジネススクールやビジネスセミナーに通うのは有効だと思います。業務に関連する最新トレンドや、「ロジカルシンキング」「プレゼンテーション」といった汎用ビジネススキルを学びましょう。
こうした場では、他社の人と交流して人脈を築けますし、異業種のやり方を学んで自社に取り入れてみる、といったこともできます。有効に活用してみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
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※本連載の第5回は、3月2日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。