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中国でネット拡散「新型コロナ防衛マップ」がすごい。アリババAIから老人会まで総動員の市中感染封じ込め対策

感染防衛マップ

新型コロナウイルスによる肺炎との戦いの佳境にある中国。地方政府は封じ込めのため、外出時の体温測定や買い物の制限などを住民に課しているが、徹底されるか否かの鍵を握るのが、地域コミュニティだ。中国では、日本の自治会や町内会、集落のような機能を備える地域コミュニティ「社区」が、水際対策の最前線を張っている。

ドローンで検温する地域も

野菜

新疆在住の女性は、オンライン広告を見て野菜を注文している。この1カ月、ほとんど外出していないという。

新疆・ウイグル自治区に住む女性は、「新疆の感染者は70人台で、日本より少ないですが、感染対策は徹底されており、私の住む社区では皆1カ月ほぼ外出していません」と話す。野菜や肉もネットで注文して、社区の責任者が届けてくれるという。

河北省邯鄲市に住む大学院生の楊暁琨(ヤン・シャオクン)さんは、「武漢閉鎖後、社区は部外者を立ち入り禁止にしました。住民が外出する際には手続きが必要なので、よほどのことがないと出掛けないです」と話した。

社区によってはドローンを飛ばしてマスクをつけていない住民を発見・家に追い返したり、検温ができるドローンで住民の体温を計っているところまである。

これまでになく地域コミュニティのマネジメントやネットワークが重要になる中、浙江省杭州市の農村集落「小江社区(旧小江村)」が作成した「感染予防戦略マップ」が、「分かりやすい」「普通の集落なのに徹底している」と称賛されている。

マップでは感染予防対策を「感染者・感染疑いのある住民の洗い出し」「情報伝達」など5つに分け、誰がどういう基準で何をするか、100近いフローが明記されている。

生活物資の買い付けや物資の配布は「中高年の住民」、ITを使った情報分析・発信は「若い大学生」、高齢者の管理は「老人会」など、それぞれの特性に応じたミッションも明確に記され、日本の「市中感染」を食い止める上でも参考になりそうだ。

大学生が情報発信、生活物資買い付けは中年女性

小江社区が作成した対策マップ

小江社区が作成した対策マップが大きな反響を呼んでいる。

公表されたマップを楊暁琨が翻訳。

このマップは2月中旬にSNSで拡散し、19日に政府系メディア人民日報のWeiboアカウントが紹介したことで、中国人に広く知られることとなった。地元メディア「銭江晩報」などの取材によると、マップを作成したのは小江社区で衛生管理を担当する女性職員、張維江さん(43)。1月23日の武漢閉鎖後の取り組みを、手書きで図にしてメッセージアプリWeChat(微信)で共有したところ、それを見た人がデジタル化し、拡散が始まった。現地の報道から、詳細を紹介したい。

小江社区に住民登録をしているのは3747人で、さらに仕事などで1000人余りが出入りしている。

小江社区で感染対策チームが立ち上がったのは武漢が封鎖された1月23日。社区の実務トップである「村長」(日本の「村」とは意味合いが違い、集落長に近い)が指揮を執り、他に初期メンバーとして8人が加わった。

ITに強い2人の大学生が「情報班」を統括。感染者を出さない、増やさないために最も重要な「検査班」は村の民生責任者が率いることになった。生活物資の買い出しや在庫の確認、寄付受け付けなどの「後方支援班」は中年女性2人、隔離の実行などを担当する「オペレーション管理」は村の若手幹部が責任者になった。

1月23日はまず、武漢に旅行者や仕事で入った村民、武漢に親戚がいる人の洗い出しを行い、すべての住民に新型肺炎の基礎知識や深刻さをショートメールで伝えた。

その後、段階的な対策を経て、杭州市での感染者が増加した1月28日に、村の出入り口を2カ所に制限した。

自警団と老人会は公共スペースを巡回し、賭博や立ち話をやめさせた。また、村外から戻ってきた村民は、1時間以内に報告する体制を構築した。

AI都市管制システムも活用

スマートシティ

杭州市ではアリババの技術を用いた都市管制システムが導入され、新型肺炎対策にも活用されている。

Reuters

張維江さんは銭江晩報などの取材に対し、「日々刻々と状況が変わる中で、杭州市の対策と村の管理状態を把握し、対策漏れを防ぐために、業務記録として個人的に作成した。どこの社区も大同小異あれど同じことをやっていると思いますよ」と話している。

前出の邯鄲市の楊さんもマップを見て「確かに、私の社区も似たような感じだとは思います」と言いつつ、「でもシティブレインを使っているところが、杭州市ならではだなあと感心しました」と続けた。

マップには広報活動の一つとして、「杭州市のシティブレインからビッグデータに基づき情報送信」と書かれている。

シティブレイン(都市大脳)とは、杭州市で2016年から徐々に導入が進められている人工知能(AI)とビッグデータを活用した都市管制システムで、アリババが技術を提供し、杭州市がデータを保有する。

杭州市の道路などに設置したカメラが、大量のデータを収集・処理し、交差点の信号制御などに反映する。これまで、渋滞回避や交通事故処理の効率化に効果があったことが報告され、2018年にはマレーシアのクアラルンプールでも導入すると発表された。

小江小区での感染予防対策にシティブレインがどこまで活用されているかは説明されていないが、農村のITリテラシーの高さが伝わる例だ。

日本も市中感染期に迫られる地域の対策

手書きのマップ

小江社区の衛生管理担当者が作った手書きの対策マップ。

Weiboより

浙江省は新型肺炎の感染者が1200人を超え、省単位で見るとその数は中国で4番目に多い。小江社区が位置する杭州市も2月23日時点で169人の感染が確認されているが、同社区ではまだ感染者は出ていないという。

小江社区は地域コミュニティの人的資源をフル稼働するだけでなく、ITの知見も柔軟に取り入れた「好例」として評価されたが、感染拡大期には武漢帰りの人を監禁したり、外部者を入れないために交通施設を破壊するなど、地域住民による民度の低い行為も多数報告された。

日本ではクルーズ船から下船した旅行者が公共交通機関を使って帰宅したことなどが海外から批判を受ける一方、クルーズ船での医療行為に携わった医療関係者が「ばい菌扱い」されたとの報告も既に出ている。市中感染が広がるにつれ、感染拡大への対策の徹底と過剰反応のバランスをどう取るのかが問われている。

ただ言えることは、感染拡大に備えるには、個人レベルでなく、あらゆるコミュニティが適切な対策を迫られているということだ。中国のこの農村の例はそのことを教えてくれる。

浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。現在、Business Insider Japanなどに寄稿。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。

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