撮影:福田秀世
ガーナのスラムで働く子どもたちとの出会いから、ゴミを生かしたアートを創作する現代アーティスト・長坂真護(35)。作品を売った利益をガーナに還元するという活動の先に、どんな社会を見据えているのでしょうか。
アフリカのガーナで僕が強く衝撃を受けたのは、ゴミ置き場で生きる子どもたちの姿です。
彼らの姿に接してから、僕はサステイナブル・アーティスト(Sustainable Artist、持続可能なアーティスト)を名乗るようになりました。
ガーナの首都アクラにあるスラム、アグボグブロシーでは、5歳ぐらいから子どもたちが働いています。
ガーナの首都にある廃棄物置き場。真護は絵を売った金でここにゴミのリサイクル工場をつくりたいと考えている。
撮影:福田秀世
幼い子は井戸から水を運んできて、年上の作業員たちに水を売ります。小学校高学年や中学生ぐらいの子たちは、家電や電子廃棄物を集めてきて、それを燃やして、中の金属類を取り出します。
学校に行くお金を稼ぎたくて、ゴミを集めている子たち。プラスチックを燃やした煙を日常的に吸い込んでいると、子どもたちの体には大変なリスクがあります。
アビドゥという小学生くらいの年齢の男の子と、特に仲良くなりました。僕の絵の中にも、何度も登場しています。僕にとっては、アイドルのような存在です。アビドゥも学校には通えていませんでした。
あるとき、アビドゥのお父さんにこう頼まれました。
「なんとか、息子を学校に通わせてやってほしい」
ノートやペンも無料の学校を現地に
真護は、ガーナのスラムに小さな学校やミュージアムをつくった。
撮影:福田秀世
読み書きや算数を身に着けずに大人になると、仕事の選択肢も限られます。現地の言葉は話せるけれど、公用語の英語が話せない子も少なくありません。
スラムで暮らす子どもたちの生活を少しでも向上させるためにも、教育は重要です。
でも、ガーナの学校は問題だらけです。基礎教育は無償のはずなのに、先生がお金を集めていたり、ノートやペンを子どもたちに売って稼ぎの足しにしていたり。それを買えない子は、学校に通えません。
アビドゥの家族に教育費を支援することも考えましたが、1人だけを支援するより、何かできることはないか考え、学校を建てることにしました。
地域の有力者に掛け合い、土地を確保し、小さな校舎を建設し、先生の経験者も見つけました。いま、20人ほどが英語や読み書きなどを学んでいます。ノートやペンも無料にしています。
一晩で廃棄物に変わった作品
以前は商業施設の広告などにも起用されていた。
撮影:福田秀世
3年ほど前、こうした活動に踏み込むきっかけがありました。
2016年、都内にある商業ビルのクリスマス・ディスプレイの仕事をいただきました。
大勢の人が行き交うビルの全面を、僕のアートワークが覆いました。エントランスには、クリスマスツリーを模した作品も飾られ、僕が恐竜の骨を描く過程を撮影したCMも制作してもらいました。
クリスマスが終わった12月25日の夜、ビルの前に出かけました。日付が26日に変わるころ、作品の撤去作業が始まりました。
作品がのこぎりで切り取られ、トラックで運び去られました。数カ月を費やした作品が、廃棄物に変わる瞬間をこの目で見ました。
初めてガーナのゴミ置き場に向かったのは、その半年後のことでした。
そこでは、ヨーロッパなど先進国から送られた廃棄物の山の中で、子どもたちが暮らしています。みんなが知っている日本のブランドの家電製品もたくさん捨てられています。
撮影:福田秀世
ガーナの電子廃棄物を使った作品を発表して以降、僕を取り巻く状況は大きく変わりました。作品を買ってくれる人も増えました。
でも僕自身、自分の作品がいくらで売られるかにはほとんど興味はありません。アーティストとしての評価もそうです。
僕が描いた絵を売り、そのお金で、ガーナのスラムのゴミを減らすための再生工場をつくる。そのサイクルを回すことで10年でガーナのスラム問題を解決したい。それが叶うなら、自分の評価なんて、別にどうでもいいと思っています。
ガーナのスラムの若者たちと。活動を広めるドキュメンタリー映画制作のためクラウドファンディングも行なっている(https://camp-fire.jp/projects/view/221610)。
撮影:福田秀世
ガーナの学校は、いまのところ年間数万円の資金があれば、運営することができます。立ち上げた以上、少なくとも僕が死ぬまでは運営を続けたい。
学校を少しずつ大きくし、将来的には、ゴミをリサイクルする工場を建設したい。そのためには、僕自身がアーティストとしてもっともっと成長しないといけないと考えています。
(完)
(文・小島寛明、写真・福田秀世)
小島寛明:上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。2000年に朝日新聞社に入社、社会部記者を経て、2012年退社。同年より開発コンサルティング会社に勤務し、モザンビークやラテンアメリカ、東北の被災地などで国際協力分野の技術協力プロジェクトや調査に従事。2017年6月よりBusiness Insider Japanなどに執筆。取材テーマは「テクノロジーと社会」「アフリカと日本」「東北」など。著書に『仮想通貨の新ルール』(Business Insider Japanとの共著)。