「救急で生死を分けるCT診断を10秒に」AI開発者育成“AIフロンティアプログラム”第1期発表…医師から大学生まで競う

AIフロンティアプログラム

右からプロジェクトマネージャーを務めるソニーCSLの北野宏明代表、育成者に選ばれた片岡翔太郎さん、岡田直己さん、大曽根宏幸さん、藤元陸さん、メンターのGHELIAの清水亮代表、アスラテックの吉崎航代表。

撮影:伊藤有

AI技術でイノベーションを創出する独創的なアイデア人材を育成するプログラム「AIフロンティアプログラム」(主催:NEDO、運営:一般社団法人未踏)。その第1期報告会が2月21日、東京・秋葉原で開催された。

同プログラムはプロジェクトマネージャーをソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の北野宏明代表が務め、育成対象者4人を指導したメンターは、ソニーCSLが出資するAI関連会社GHELIAの清水亮代表、ロボットベンチャー・アスラテックの吉崎航代表が受け持った。

救急CTのAI診断で人命を救う

AIフロンティアプログラム

育成者に選ばれたうちのひとり、岡田直己さんのスライドより。自身も、大阪急性期総合医療センター/静岡済生会総合病院 救急医でもある。集合写真の下段右から2人目が岡田さん。

撮影:伊藤有

4人のなかで唯一、大学・大学院在籍ではなく、現役の救急医の立場で選ばれた岡田さんは、

「日本では年間50万件、1日に10人が交通事故で亡くなっている。病院に着いた時点で、(救急救命で一般的な)タイムリミットは残り20分。必ず必要な検査のCT診断には2つの大きな問題がある。見逃しの危険性と、時間がとても長くかかることだ」

と、救急医としての実体験を交えながら、診断AIに取り組む意義を語った。

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「5分を10秒に短縮して命を救う」。救命現場を知る救急医だからこそ知る「タイムリミット20分」のうちの5分をどう短縮するかは、重い課題だ。

撮影:伊藤有

岡田さんが手掛けたCT画像から異常を検出・分類するAIは、正確で迅速なAIによるCT診断を目指し、「見逃しをなくし5分を10秒に短縮して命を救う」ことを狙っている。AIフロンティアプログラムでは、「頭部CT」「胸部スカウトCT」「骨盤スカウトCT」という3つのCT画像向けの診断AIをつくった。

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42万枚ものCT画像にラベルづけしたものを学習データセットにし、脳の出血が疑われる箇所などを識別する画像認識AIに取り込んだ。

撮影:伊藤有

頭部CT画像の学習データセットは、外傷患者2088人、42万枚のCT画像にラベル付けして作成してAIに学習させた。出血が疑われる部分をマーキングし、疑わしさをパーセンテージで指摘する。

胸部と骨盤の「スカウトCT」とは、メインのCT撮影の前に行う簡易的なCT撮影だ。仮にスカウトCTの段階で診断をつけられれば、非常に早期の処置ができるため、命が助かる患者の確率が大きく変わる、とする。

なお、スカウトCTを読んで損傷の有無を診断するAIは、岡田さんの研究の時点で、救急医の肉眼で見るよりいくぶん正確(※)という結果が出ている。

(※比較対象は、8年目、12年目、16年目の医師。重症・重篤患者をあつかう三次救急で5年、10年以上務めている。いずれもスカウトCTを読み慣れているとの説明あり)

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撮影:伊藤有

AI分野における画像認識は、成果が比較的期待しやすい分野でもあり、同様のアプローチは多くのベンチャーや研究者が取り組んでいるはずだ。世界的にもレッドオーシャン(競合が極めて多い)分野といえる。

これに対して岡田さんは、「(事前のヒアリングでは)中国やインド、アメリカに負ける、日本ではやらない方が良いのではという厳しい意見ももらった」とも言う。

それでも、「どうしても日本でやらなければならない」と考えるのは、各国によって治療の方針や診断基準が異なるためだ。例えば、中国やアメリカ向けの治療方針の判断に優れた診断AIは、日本の医療事情にあった診断には不向きである可能性が否定できない、ということだ。

医療という領域が、現場においては各国固有の事情が深く関係する分野であり、だからこそ国産AIをつくる意義があるという指摘は強く印象に残った。

なお、第1期の育成者に選ばれた4人の研究・開発分野は次のとおり。

AIフロンティアプログラム第1期の育成対象者(発表順)

岡田直己さん(大阪急性期総合医療センター/静岡済生会総合病院 救急医)
内容:救急現場のCT画像から異常を検出・分類する正確で迅速な画像AIの開発

・片岡翔太郎さん(長岡技術科学大学工学部情報システム工学課程)
内容:動画分析を用いた、作業支援AI開発のための「教師データ作成半自動化技術」の開発

・大曽根宏幸さん(筑波大学情報学群情報メディア創成学類)
内容:大量のテキストデータ解析による、物語作成支援AIの開発

・藤元陸さん(電気通信大学院情報理工学研究科機械知能システム学専攻)
内容:AIの学習手法GAN(敵対的生成ネットワーク)を活用した、道具を創造して自己改良するAIの開発

AIフロンティアプログラムの成果として、特に優れた実績を認められた育成対象者を選出する「AIフロンティアパスファインダー」には、特例として発表者の4人全員が選ばれた。

AIフロンティアプログラムの第2期は、2020年2月25日から3月31日の期間で公募される。

編集部より:初出時、大曽根宏幸さんの漢字表記に誤りがありました。現在は正しい表記に改めております。お詫びして訂正致します。 2020年2月26日 16:35

(文、写真・伊藤有)

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