撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
この連載では毎回、記事の末尾のアンケートフォームから、転職やキャリアにまつわる読者の皆さんのお悩みや疑問を募集しています。今回はそこにお寄せいただいた読者の方からの、こんなご相談にお答えします。テーマは「新しい職場に入る前にすべきこと」。
年度の変わり目となるこの時期、転職をはじめ、異動や出向などで新しい職場に入っていく皆さんも参考にしてみてください。
採用を白紙撤回されたAさん
「新しい職場に入ったら、自分の得意なスキルを発揮して少しでも早く即戦力になる!」——入社を控え、そんな意気込みを持っていらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、一つ注意すべきことがあります。自分が「こうしようと思っている」ことと、転職先企業が「こうしてほしい」と思っていることがズレている……というケースが往々にしてあるんです。
営業マネジャーとしての実績を武器に転職活動を行ったAさんの事例をお話ししましょう。
Aさんは営業部門の強化を図ろうとする中小ベンチャー・B社に応募し、B社社長もAさんの実績を高く評価しました。しかし、採用の方向に話が進み、より具体的な施策に言及したとき、両者のギャップが浮かび上がったのです。
Aさんは前職で営業活動の徹底的な合理化を進め、業績を拡大させた経験がありました。そのノウハウをB社で活かしたいと考えていたのです。
ところが、B社社長はもともと家族的な社風を大切にする人。Aさんの戦略を聞き、「売れないメンバーを早々に切り捨てかねない」という不安感を抱きました。「長い目で若手を育てていきたい」と考えていた社長は、迷った結果、Aさんの採用を白紙撤回したのです。
このケースでは、採用決定前にギャップが発覚したため、Aさんは転職活動の仕切り直しができました。しかし実際には、「あなたの力で○○部門の売り上げを伸ばしてほしい」「分かりました。お任せください」だけのやりとりで採用が決まり、入社後に双方「こんなつもりじゃなかった」となるケースは少なくありません。
「入社してからギャップに気づいた!」では、自分にとっても会社にとっても不幸だ。
Shutterstock
こうしたケースはさまざまなポジションで起こりえます。
例えば、「事業企画部門で新規事業の立ち上げに携わってほしい」と言われた場合。「アイデアを出してビジネスモデルを創り上げるところから関わってほしい」という企業もあれば、「企画したビジネスモデルを実行・推進してほしい」、あるいは「自社だけでは限界があるので他社とのアライアンスやM&Aの可能性を探ってほしい」といったことを求める企業もあります。
実際に入社してから、「新規事業立ち上げの経験があると言うから迎えたのに」という会社側の思惑に対し、「確かに新規事業立ち上げの経験はありますが、事業運営や事業マネジメントそのものの経験はありません。キャッチアップには時間がかかります」なんて食い違いが生じるかもしれないわけです。
こうしたギャップが入社後に判明すると、チームメンバーも巻き込むことになり、うまくランディングできない恐れも。ですから、できれば入社する前に、直属の上長と面談の場を設けてもらうことをお勧めします。自分が入る部門の現状、今後の課題、自分に期待されていることなどをしっかりと確認し、お互いのイメージをすり合わせておくといいでしょう。
会社の「期待」を知るための情報収集を
このように、「期待されていること」を正しくつかんでおくと、自分のこれまでの経験を振り返って、新しい会社で活用できる「ノウハウ」「メソッド」といったものを入社前に整理しておくことができます。
また、会社から求められていることに対して、「自分には足りていない」と判断したものがあれば、これまでのネットワークの中から協力してもらえそうな人を探して挨拶をしておいたり、本やセミナーなどでキャッチアップしておいたりすることも可能になります。
そうすれば、入社後、1速から徐々にスピードを上げていくのではなく、一気に5速でスタートダッシュを切れると思います。
特に、成長期のベンチャー企業に転職する場合、内定を受けてから入社するまでに1カ月以上空くと、その間に状況や戦略が変わることもあります。
もし、有給休暇の消化などで時間に余裕があるなら、入社予定企業の会議に参加させてもらったり、社長や担当役員とコミュニケーションをとる時間を作ってもらったりするのもいいでしょう。
出社まではできないとしても、「社内SNSやSlackなどのコミュニケーションツールに参加させてもらえませんか」と相談してみるのもアリです。
実際、私が転職サポートをした方は、入社後に配属される予定のプロジェクトのチャンネルに加えてもらったとか。メンバーたちのやりとりを眺めているだけで、コミュニケーションのとり方や進捗状況をつかむことができ、入社への心構えができたと言います。
新卒採用ページは情報の宝庫
「入社前にぜひチェックしてほしいのは新卒採用ページ」と森本さん。その心は…?
撮影:鈴木愛子
入社前に面談をしておく以外にも、しておくべき準備はまだあります。できれば入社前のタイミングで、転職先の「企業研究」をもう一段深めておきたいものです。
応募~選考の段階では、コーポレートサイトの事業内容や中途採用情報くらいしか見ていなかった……という方は、他の情報にも目を通してみましょう。
例えば、コーポレートサイト内に設けられている「新卒採用ページ」、あるいは『リクナビ』『マイナビ』といった新卒採用サイトに掲載している採用広告。これらには、中途採用向けページ以上に充実した情報が詰まっているケースが多いんです。
例えば、事業内容や商品・サービス内容は、学生でも理解できるようにかみ砕いて説明されています。ほか、各部署・各職種の仕事の流れ、1日のスケジュール、風土、今後のビジョン、入社者に求めること……など。「先輩インタビュー」などでは、どんな人物が活躍しているかをつかむこともできます。
そうした情報も取り入れ、会社への理解を深めておくと、組織に早くなじみやすいでしょう。
また、その会社の「理念」「ミッション/ビジョン/バリュー」「沿革」などにも注目してみてください。コーポレートサイト内にこれらのページがあれば、改めて読み込んでみましょう。
「社名+社長の名前」などでウェブ検索すると、過去のインタビュー記事が見つかることも。その談話から、社長のこれまでの歩み、創業時の想い、現在に至るまでのプロセス、将来ビジョンが分かることもあります。
これらに着目すると、その会社の「判断基準」が見えてきます。「何を大切にしているか」がつかめるということです。あなたがリーダー以上のポジションで組織に入っていくとしたら、これを把握しておくのはとても大事なこと。現場を指揮する上でも、「何を大切にすべきか」を判断しやすくなるはずです。
退職から入社までの余暇の時間、旅行などをしてリフレッシュするのもいいですが、こうした準備や情報のキャッチアップに時間を使ってみてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
アンケートが表示されない場合はこちら
※本連載の第6回は、3月9日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。