テレワーク支えるSlackに「既読表示・予約投稿がない」理由。共同創設者が語る日本市場

Slack Vision

日々勢いを増すビジネスチャットの代名詞的存在の「Slack(スラック)」。

撮影:小林優多郎

昨今の働き方改革ブームに続き、新型コロナウイルスの影響でオフィス以外で働くテレワークの普及がさらに加速している。遠隔でのチームワークに欠かせない「ビジネスチャット」の代名詞的存在といえば「Slack」だ。

Slackの全世界の日間アクティブユーザーは1200万人以上、そのうち100万人超は日本のユーザー(いずれも2020年1月末時点)で、Slackが展開する国の中で、日本はアメリカに次いで大きな市場となっている。

また、2019年9月には日本初となるSlackの公式カンファレンス「Frontiers Tour Tokyo」も開催された。

Slackはなぜ日本でのビジネスにマッチしているのか。今後どのような成長戦略を考えているのか。Slack Technologies CTO(Chief Technology Officer)兼共同創設者であるCal Henderson(カル・ヘンダーソン)さんに話を聞いた。

現在も日本はアメリカに次ぐ第2位の市場規模

Cal Henderson

Slack TechnologiesのCTO兼共同創設者のCal Henderson(カル・ヘンダーソン)さん。

撮影:小林優多郎

日本での成功の理由について、ヘンダーソンさんは働き方改革の流行について触れ、Slackと相性がよく、比較的新しいIT企業だけではなく、従来から日本にある企業へも理解が得られていると話す。

「近年の働き方改革の流れで、日本の企業もグローバルの企業で同じような課題で取り組もうとしている。こういった課題解決の流れで“コラボレーション”が1つの要となっている。

仕事が複雑化していく中で、企業はどれだけ早く複雑化していく仕事環境に順応できるかが重要になってくる。コミュニケーション能力と目指す方向を揃えると言うことが企業の重要な価値観だ。方向性を揃えられるかどうかが、企業として成功するか失敗するかという分岐点に立たされることではないか。

Slackは目指す方向を揃えることに対して、迅速にサポートできるソリューションを提供できると思っている。日本の企業の多くが他の国々の企業よりも早く、そこに価値を見出してくれている」(ヘンダーソンさん)

日本での特徴的な広がりの1つとしてヘンダーソンさんは、老舗企業への導入事例を挙げている。

カクイチのSlack導入事例。

出典:Slack

ヘンダーソンさんが例としてあげたカクイチは、長野県で1868年(明治19年)に商店として創業。その後150年以上が経ち、今では農業関連機器の製造のほか、ホテル事業など活躍の場を広げている。一方で、社内のIT化は遅れていた。

そこで、カクイチは2018年9月にSlackを導入。最初は5つの営業所で利用をはじめたが、社内の導入プロジェクトチームの働きかけで同年11月に全社展開。社内での意志決定のスピードは4倍になったという。

ヘンダーソンさんは「いわゆる古風な従来型の企業であっても、Slackを使うことで考え方や働き方を変革させる取り組みはおもしろい」と見る。

絵文字

Slackでは独自の絵文字を登録できる。

撮影:小林優多郎

ヘンダーソンさんが関心を寄せるもうひとつの日本の特徴が「絵文字」だ。絵文字文化はもともと日本で発祥したとされている。そんな土壌もあってか、価値のある言葉や励まし合ったりするそれぞれの企業文化にあった絵文字が活用されており「他国ではなかなか見ることができない」使われ方をしているという。

「共有チャンネル」機能はアメリカより日本が多く利用

共有チャンネル

外部の企業とSlackのチャンネルを共有できる「共有チャンネル」。

撮影:小林優多郎

また、2019年に登場した2つの機能、プログラミング言語の知識がなくても一定の動作を自動化できる「ワークフロービルダー」と、別の企業など外部組織のSlackワークスペースと共有するチャンネルを持てる「共有チャンネル」の動向について、ヘンダーソンさんは以下のように話している。

「ワークフロービルダーは、当初予測していたよりも多くの企業に利用していただいている。

Slackの強みはプラットフォームにある。今までもSlack上でアプリや独自のワークフローを開発する会社や人はいたが、プログラミングの知識のある人だけだった。しかし、これからは開発者でなくても活用できるように、ワークフロービルダーを開発した」(ヘンダーソンさん)

ワークフロービルダー

プログラミングなしで作業を自動化できる「ワークフロービルダー」。

ワークフロービルダーは、Slackのどのプランでも利用できる機能だ。具体的な利用頻度などは明らかにしていないが、幅広い利用のされ方をしているとヘンダーソンさんは話す。例えば、特に“想定外”だったのは、「新規メンバーがチャンネルに参加した際の案内用Bot」の利用方法だった。

一方、共有チャンネルについては、既に全世界でチャンネル数は7万以上、導入企業数は2万6000社以上にも上ると好調さをアピール。企業内でSlackを使うのと同じ感覚で、協力企業や子会社などとコミュニケーションがとれる点が評価されているという。

共有チャンネルは、アメリカの企業を抜いて、日本の企業の利用率が最も高い

その理由はおそらく、日本の企業の多くが関連会社や子会社、取引先があり、持ち株会社や発注元がSlackを使っていれば、その下も合わせて使ってくれているのだと思う。アメリカでは、カスタマーサポートという形で使っているケースが日本と比べて多い」(ヘンダーソンさん)

「既読表示・予約投稿がない」理由はSlackの製品哲学

Cal Henderson

写真共有サイト「Flickr(フリッカー)」のエンジニアリングチームを創設、指揮をとったことのあるヘンダーソンさん。

撮影:小林優多郎

さまざまな機能が追加され、より便利になっていくことで、Slackの利便性=価値が向上し、それを実感した企業やユーザーが有料プランに移行していく……これが、フリーミアム(無料での利用開始)のビジネスモデルを採用するSlackの戦略の1つだ。

そんななかで、Slackが「意図的に」採用しない機能がいくつか存在する。例えば、競合では採用されているような“メッセージの既読表示機能”や、メールのような“予約投稿機能”は実装していない。

ヘンダーソンさんはいずれも「検討したことはある」としつつも、既読表示機能については「いわゆる“既読スルー”など、既読表示によって利用者がプレッシャーを感じてしまうのではないか」、予約投稿については「いつでも送信できる、受け手は通知をオフにできるというSlackの強みに対して本当に必要か」という課題があるという。

このような機能の実装の有無は、Slackの持つ製品哲学が色濃く反映された結果とも言える。その背景をヘンダーソンさんは「2つの観点の組み合わせの結果」と語る。

「自分たちが作っている製品なので、どういう哲学、視点を持つかは常に心を配るようにしている。

Slackは企業の中の透明性を高めたり、情報へのアクセス性の改善をするもの。これをまず担保できるかが重要な観点の1つだ。

もう1つの観点として、ユーザーからのフィードバックを受け、ユーザーがどういった問題を解決したいと考えているかを理解し、それに取り組む姿勢にも時間を費やしている」(ヘンダーソンさん)

Stewart Butterfield

SlackのCEO兼共同創設者を務めるStewart Butterfield(スチュワート・バターフィールド)さん。

撮影:小林優多郎

このような開発の考え方はSlackの出自が大きく関わっている。Slackはもともと別のプロジェクト内で活用するコミュニケーションツールとして誕生。その後、ヘンダーソンさんと同じく共同創業者でSlack TechnologiesのCEOを務めるStewart Butterfield(スチュワート・バターフィールド)さんと共に、ビジネスチャットとしての地位を確立した。

「(前身となるツールの登場当時は)自分たちにとっては便利だったが、外部の人にとって同じかどうかという観点はなかった。

その後、外部からの意見をもらいながら、ツールとして進化を遂げたわけであり、やはりどちらか(Slackの守るべきこととユーザーが求めていること)一方ではなく、どちらも組み合わせていく必要があるということだ」(ヘンダーソンさん)

ネットワーク、プラットフォームの両面で機能強化を目指す

Cal Henderson

丸の内にあるSlack Japanのオフィスを訪れたヘンダーソンさん。

撮影:小林優多郎

Slackは東京オリンピックの開催後、リモートワークブームが落ち着くであろう2020年以降も、日本でまだ成長の余地がある、とする。

今後同社が取り組むこととして、ヘンダーソンさんは“ネットワーク”と“プラットフォーム”の2つの領域で機能強化を図ることを示唆した。

具体的な例として、共有チャンネルは現在の“1社対1社”から“複数社”へ、そのほかの現在は使えない機能などを含めて「すべての機能がつながるような場所にしたい」(ヘンダーソンさん)と話す。

ワークフロービルダーについても「今後進化させていきたい」(同)と、2020年から2021年にかけてワークフロービルダーにまつわるさまざまな機能追加を行っていく意欲を語った。

(文、撮影・小林優多郎)

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