Zoomのエリック・ユアンCEO。中国・山東省の出身。
Reuters/Carlo Allegri
- 新型コロナウイルスの影響でリモートワークが増えるほど、ズーム(Zoom)やスラック(Slack)、ドロップボックス(Dropbox)といった企業はサービス利用者が増えて業績が伸びる。
- ズームの利用拡大はすでに目に見える形で進んでおり、同社はそれに呼応する形で、中国の無料版ユーザーにかけていた40分間の無料通話制限を解除した。
- 上記3社のようなソフトウエア企業は内外の影響を受けにくい。他のテック企業と異なり、サプライチェーン(供給網)の心配がいらないからだ。
新型コロナウイルスの影響で、企業は出張先や移動先に制限を設けると同時に、在宅勤務を推奨するようになっている。テレワーカーたちは自宅での生産性を維持するため、同僚たちとのコミュニケーションや共同作業を円滑化するクラウドアプリの活用を増やしている。
市場全体が減速し、企業がカンファレンスを中止したり、決算発表の日程を変更したりの対応に追われる一方で、ズームやスラック、ドロップボックスといったソフトウエア企業はユーザーを増やしているという。
新型コロナウイルスの流行によって、ズームのユーザー数増加はすでに顕在化している。米CNBCの報道によると、ズームが年始から2月末までに獲得したアクティブユーザー数は、すでに2019年を上回っている。
ユーザー数の増加に呼応して、同社は中国の無料版ユーザーにかけていた無料通話の40分制限を解除した。ズームのエリック・ユアンCEO(中国・山東省出身)は、新型コロナウイルスの影響に苦しんでいる人たちに貢献できればと語っている。
「私たちは、あらゆるビジネスはコミュニティや社会に恩返しする義務があると考えています。危機が目の前にあるときならばなおさらです。この信条にもとづき、私たちは可能な限りあらゆるリソースを提供し、ウイルスが大流行するなかでも人々が明日に向かって進んでいけるよう支援していきます」
ソフトウエア開発企業の「強み」
ビデオ会議システム「Zoom」を運営するズーム・テクノロジーの株価の推移。
Markets Insider
RBCキャピタル・マーケッツのアレックス・ズーキンは、ソフトウエア企業は国内外を問わず外部の影響を受けにくいことに注目する。逆に、サプライチェーンが中国に集中する他のテクノロジー分野の企業は、こうした突発事態の影響をもろに受ける。
「一般的に、ソフトウエア産業は中国の直接の影響にさらされることは少ない。我々は、スラック、ズーム、ドロップボックス、スマートシート(Smartsheet)の4社に注目している。新型コロナウイルス、そしてそれが生み出すリモートワークのトレンドから、大きな利益を得る可能性が高いからだ」
米ロバート・W・ベアード証券のウィル・パワーもこの見方に同意する。在宅勤務を求められる事務職が増えるほど、コミュニケーションや共同作業を円滑化するツールを生み出す企業も業績を向上させる仕組みになっているというわけだ。
ズーキン、パワーの両氏とも再注目株はズーム。コロナウイルスの大流行が始まってから、同社の株価は天井知らずだ。
緊急事態は「ツール発明の母」
ビジネスチャット「Slack」を展開するスラック・テクノロジーズの株価の推移。
Markets Insider
ズームの躍進は一時的なものとは限らない。パワーが2月29日に発表したレポートによれば、今回の問題をきっかけに人々の働き方に変化が生じ、ビデオカンファレンスのようなツールがもっとひんぱんに使われるようになるという。
ズームはリモートワークを可能にするツールとしてすでに大きな注目を浴びているが、スラックもリモートワークを余儀なくされたチームが共同作業を続けるのに役立つツールとして、同じくらい注目されている。ただし、株価の上昇にはいまのところズームほどの勢いはない(上図参照)。
クラウドベースの集団警報・危機管理プラットフォーム「エバーブリッジ」のウェブサイトより。「危機的事象マネジメント(CEM)」の重要性をうたう。
Screenshot of Everbridge website
パワーは、緊急通報ツールの「エバーブリッジ(Everbridge)」も注目株としてあげる。
「エバーブリッジはクラウドベースの集団警報・危機管理プラットフォームです。企業や行政が従業員や市民を守るためだけでなく、サプライチェーンやビジネスリスクを引き起こしそうな事象を追跡するツールとしても使えます。
新型コロナウイルスのような危機的事象は、まだ知られていないプロダクトやビジネスチャンスに対する気づきをもたらしてくれる面もあるのです」
また、そうした新たなツールを生み出すためのテクノロジーを提供する企業にもチャンスが生まれる。例えば、「ツイリオ(Twilio)」「ボネージ(Vonage Holdings)」のビデオ対応コミュニケーションAPIがそれだ。ビデオ通話ツールがあれば、遠隔医療が可能になる。
3月2日午前0時(日本時間)時点で、新型コロナウイルスの累計感染者数は8万26人、うち進行形の感染者数は3万2652人、累計回復者数は4万4462人。中国の国家衛生健康委員会からは「中国国内で、4月末までに、感染はほぼ抑制される」との予測も発表されている(JETROビジネス短信、3月3日付)。
(翻訳・編集:川村力)