米民主党の大統領選候補者によるテレビ討論会に参加した前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏。
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- 米大統領選挙の民主党指名候補の1人、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長は討論会で、自身が経営する金融メディア・ブルームバーグの社員が不適切な行為に及んでいたとの批判について、「過去の話」と切り捨てた。
- しかし、ニュースルームのシニアエディター少なくとも1人が、女性が内部で批判の声をあげたあとも不適切な行為は続いていたと指摘していることが、Business Insiderの調査により明らかになった。
- 10人を超えるブルームバーグ元社員の証言によれば、元ワシントン支局のアル・ハントは、同僚に罵倒を浴びせ、女性スタッフに性的嫌がらせを行うなどして告発されたにもかかわらず、2度の金銭的解決を経ながら、社内的な処分は一切なかったという。
- ハントは性的嫌がらせを否定している。告訴について、ブルームバーグ広報は「告発に対応した事例があることは間違いない」としている。
- ブルームバーグ氏は、自身の女性への不適切な発言についても過去のこととしているものの、少なくとも2014年に社内で性差別的な発言を行ったことが、元従業員の証言から明らかになっている。
- 別の従業員によると、ブルームバーグ氏はかつて「太った女性」が会社の代表だと思われたくないという理由で昇進を拒んだことがあるという。その女性は現在、ブルームバーグ氏が「女性の擁護者」だと宣伝するコマーシャルに出演している。
ブルームバーグ氏は2月に米ネバダ州で行われた民主党の討論会で突如、一方的な防戦に追い込まれた。1981年に彼が設立した金融データサービス会社で、社員たちに対し人種差別、性差別なふるまいを行っていたことについて、(同じ指名候補者の)エリザベス・ウォーレン上院議員から批判されたからだ。
ブルームバーグ氏は開き直って、壇上からこう言い放った。
「#MeToo運動の矛先が向けられているような行為は断じて容認できない。もし社内で不適切な行為が行われたとしたら、我々は調査し、それが本当に不適切であると分かれば、即日その社員はクビだ」
ブルームバーグ氏の発言は会場に力強く響いた。が、関係者からは別のストーリーが聞こえてくる。
Business Insiderがブルームバーグの従業員および元従業員40人以上へのインタビューを含めた調査を行ったところ、恐怖に支えられた男性上位の劣悪な企業文化の実態が明らかになった。
同社では、上位の社員が部下に怒鳴り散らし、いじめを行っても処罰を受けない環境が常態化していた。上司たちの不適切なふるまいについて人事部門に訴え出ても、無視されるのが常だったという。
また、調査の過程では、ブルームバーグのワシントン支局元エディター、アル・ハントが複数の女性にマッサージを無理強いしたり、ささいなミスをした従業員を怒鳴りつけるといった行為をくり返していたことも明らかになった。ハントを告発した女性従業員との間で少なくとも2度の金銭的解決が行われており、その後も彼は数年の間お咎めなしで勤務していたという。
元従業員たちの深刻な証言
ニューヨークにあるブルームバーグのグローバル本社。
Associated Press
ブルームバーグの長年のパートナーであるダイアナ・テイラーは、CBSニュースに出演し、彼の女性に対する扱いを擁護して「30年も前のこと。とっくに終わった話」と語っている。
しかし、ブルームバーグの経営幹部だった女性は、会社との秘密保持契約があることから録音をしないことを条件に、ブルームバーグ氏が市長任期満了(2013年12月末)後に会社に戻ってきてからも、下品きわまりない性的いたずら、女性社員に対する品位のない発言をふだんからくり返していたと証言してくれた。
「彼はいつもそうなんです。社員たちもみな知ってます。私は当時言い返しもしませんでしたが、1人の女性として、やめてほしい。多くの人が我慢していただけで、本当に恥ずべきことです」
ブルームバーグ氏の近年の行為に関するこの女性の証言は、Business Insiderの調査結果とも合致する。ブルームバーグに対して起こされた差別を理由とする裁判の記録を調べたところ、品位を欠く不適切な発言は数十年前からくり返されていた。
妊娠したばかりの女性従業員に対し「殺せ!」と発言したとされる件では(本人は明確に否定しているものの)、サウスカロライナ州の討論会でウォーレン議員が激怒するなど、ブルームバーグ氏は厳しい批判にさらされている。
1990年代にブルームバーグに勤務していた別の従業員は、ブルームバーグ氏が職場の女性たちをサポートする存在であると指名候補者選挙キャンペーンで声高らかに証言しているその人物に、かつては名誉を毀損する発言と差別行為の矛先が向けられていたと証言する。
サウスカロライナ州の討論会で流された「働く女性の擁護者」とのコマーシャル映像で、ブルームバーグに25年勤務するベテラン社員、マギー・ベリーは「マイク(ブルームバーグ)は女性をサポートし、その地位を高め、敬意を払う人間なのです」と語っている。
ブルームバーグ氏の選挙キャンペーンコマーシャルで「マイクは女性の擁護者」と称えた、ブルームバーグのベテラン社員マギー・ベリー。
YouTube / Mike Bloomberg 2020
ところが、この1990年代に働いていた従業員によると、ベリーは当時クライアントとのやり取りを担当する(営業)部署で昇進の候補にあがっていたが、ブルームバーグ氏本人がベリーの外見を理由に昇進をやめさせた過去があるのだという。
「こんな太った女性に会社を代表するポジションを与えるわけにはいかない」
結局、そのポジションには新たに採用された男性が充てがわれたそうだ。
ベリーにこの発言の真否を聞くと、彼女は上司を擁護した。
「ブルームバーグと私は25年一緒に仕事をし、そのほとんどがクライアントと顔を突き合わせる仕事です。入社後まもない時期から、マイクは私がクライアントへの営業活動を担当することを応援してくれました。おかげで、私だけでなく他の女性社員たちも、当社のコアビジネスを担当する管理職ポストに就くことができるようになったんです」
男子寮のような文化
上と同じ従業員は、1990年代に男子寮のような企業文化を何度も見聞きして辟易させられたという。
ブルームバーグ氏本人や他の男性の経営幹部たちは、ある女性社員とすれ違うとき、「SFU」という符牒を口にしたという。子どもじみた言い回しだが、Short(背が低く)、Fat(太っていて)、Ugly(不細工)の略語だ。
ブルームバーグ氏は容貌の優れない女性を見ると、すぐにあだ名をつけるクセがあり、ある女性を背中越しに「犬ヅラ(dogface)め!」と呼んだり、別の女性の体重を揶揄して、彼女の名前と韻を踏んだあだ名で呼んだりしていた。また、ある経営幹部の女性には「レズビアン、元気出していこうぜ!」と声をかけることもあったという。
ブルームバーグの広報担当者は、ある文書にこう記している。
「当社はすべての社員に威厳と敬意をもって接する文化を重んじ、透明性のあるポリシーと実践を通じてそうした企業文化を推進しております。ダイバーシティ(多様性)とインクルーシビティ(包摂性)を高める私たちの取り組みは、数千の従業員が毎日誇りをもって働ける文化を醸成するためのものです。
そうした努力の甲斐もあって、ブルームバーグは多様性を受け入れる職場ランキングでは常に上位にランキングされ、キャリア成長を望める企業ランキングではトップの座を守り続けてきたのです」
取材に応じてくれたすべてのブルームバーグ社員が会社を批判しているわけではない。
1993〜99年にウォール街担当の記者だったジョン・フリードマンは、当時いた社員の多くはブルームバーグ氏を俗物と見ていたわけではなく、ウォール街に身を投じて会社を大きくしようと必死で取り組んでいた厳しい競争社会のシンボルのような存在とみていたと証言してくれた。
フリードマンは、ブルームバーグには社員を傷つける意図はさらさらなかったと思うが、彼の発言を快く思わない従業員がいたことも間違いない、とつけ加えた。別の元従業員の女性も口を揃える。
「俗悪な男性社会の口ぶりだし、もちろん不適切で、不快な気持ちにさせられた人もいたと思う。でも、私は名誉毀損だとか感じたことはなくて、馬鹿な人だなあ、くらいにしか思いませんでした」
「女性に馬鹿らしいあだ名をつけたり、あばずれ的なまったく不適切な言葉を投げかける男性たちがいたことに気づいていました。そうしたことが許される文化を築いたのは、確かにブルームバーグ氏なんでしょうね。でも、それは(彼の個性というより)証券取引所の立会場の空気そのものなんです。彼はそこで育ったわけだから。
ただ、彼は性暴力などで告発された(映画プロデューサーの)ハーベイ・ワインスタインとはまったく違う。そんな人ではありません」
ブルームバーグ氏の選挙対策本部に一連の問題についてコメントを求めたが、拒否された。しかし、ブルームバーグ広報から得た書面回答によると、選挙対策本部のパトリシア・ハリス(元ニューヨーク副市長、ブルームバーグ財団CEO)は次のように説明している。
「私はブルームバーグに30年近く務め、マイクとも間近で仕事をしてきました。女性たちはプロフェッショナルとして成長し、チャンスを得て昇進を果たし、それぞれの家庭を築いてきました。
ブルームバーグには2万人以上の社員がおり、さらに拡大を続けていますが、マイクは彼ら彼女らに対し、差別やハラスメントを容認したことは一度もありません。懸命に働き、結果を残した社員は、ジェンダーや人種、性的指向など、あらゆる差別を受けることなく評価されるのです」
しかし、ブルームバーグの従業員や元従業員たちは、「秘密保持契約(NDA)」があるために、本来伝えるべきことを伝えられていないとBusiness Insiderに語っている。近日公開の後編ではそうした声を紹介する。
(※本記事は上記リンクの前半部を訳出したものです)
(翻訳・編集:川村力)