2013年にInfarm(インファーム)を創業した、エレズ・ガロンスカ氏。イスラエル生まれで元は「ヒッピーのような暮らしをしていた」という。
撮影:西山里緒
累計で1億ドル(約110億円)以上を調達しているドイツ・ベルリン発の農業ベンチャー「Infarm(インファーム)」は2月26日、JR東日本からの資金調達を発表した。
2020年夏からは、JR東日本の子会社でもある高級スーパー「紀ノ国屋」の店頭にインファームが提供するスマート栽培システムを導入し、「紀ノ国屋で育てた野菜」を購入することができるようになるという。
インファームが目指す未来の農業とは? CEOのエレズ・ガロンスカ(Erez Galonska)氏に尋ねた。
水や輸送費を90%削減する「スマート栽培」
イギリスのマーク&スペンサーで実際に導入されているインファームの様子。
提供:Infarm
「都市が“自給自足”できる未来を実現したい」 —— 。ガロンスカ氏は、自信たっぷりにそうプレゼンする。
同社は、都市部で「スマート野菜栽培」サービスを提供する、ドイツ・ベルリン発のスタートアップだ。同社が開発した栽培キットには、種子や苗の仕入れから栽培、販売までを一貫して制御・管理できるソフトウェアが組み込まれている。
通常の農法と比べて、95%の水、90%の輸送費の削減ができるという。
広大な農地を必要としないため、スーパーや飲食店の店舗内でも栽培が可能だ。すでにヨーロッパでは、マークス&スペンサーやコープをはじめとする大手スーパー、アマゾンの生鮮食品用サービス「Amazon フレッシュ」とも提携している。日本はアジア初の拠点となる。
ヨーロッパを中心に、すでに大手スーパーとも多く提携している。
撮影:西山里緒
現在、世界でインファームが栽培している野菜は25万株以上。それらひとつひとつからデータを集め、それぞれの野菜の成長パターンを分析することで、より効率的な農法を常に「アップデート」できるとガロンスカ氏はうたう。
スマート農業市場は5年で3倍に
ドイツ版Amazonフレッシュでは、インファーム製のバジルが15グラム1.09ユーロ(約120円)で売られていた。
出典:Amazon
テクノロジーによって農業の省力化・効率化を図る「スマート農業」の市場は、伸び続けている。
矢野経済研究所が2019年に発表した資料によると、2018年のスマート農業の国内市場規模は約141億2100万円で、今から5年後の2025年には約3倍の約442億7900万円を見込む。特に拡大するとみられるのが、農業データの連携拡大によって実現する精密農業の分野だ。
海外を見てみると、特に注目を集めているのが、農地を垂直に“積み重ねる”ことで限られたスペースで効率的に野菜などの栽培ができる「垂直農業」という手法だ。
2017年には、こうした垂直農業を手がけるアメリカ発のベンチャー、Plenty(プレンティ)がソフトバンク・ビジョン・ファンドやアマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏が手がけるファンドなどから、2億ドル(約220億円)を調達した。
インファームもこうした「垂直農業」ベンチャーの一角といえるが、懸念は高コスト化だ。
英インデペンデント紙によると、垂直農業で作られたレタスは、人工照明や気候制御が必要なため、通常の温室栽培と比較して約14倍のエネルギーが必要とされるという。輸送費や水は節約できる一方で、別のエネルギーを大量に消費するという課題がある。
米ビジネスインサイダーの報道によると、グーグルの親会社アルファベットは垂直農業の自動化に取り組んでいたが、麦や米などの作物が十分に生産できず、2016年にプロジェクトを打ち切っている。
みどりの窓口が農地になる
駅構内の「みどりの窓口」に、こんな「野菜の自動販売機」が設置されるかも?
提供:Infarm
「すごく地に足のついた研究をされていて感銘を受けた。ぜひ早く日本に来てほしいと口説きました」
提携を発表した、JR東日本執行役員の表輝幸氏はそう顔をほころばせる。
JR東日本は、次世代事業への投資を急ピッチで進めている。
2020年3月、JR東日本は紙の切符を持たずに新幹線に乗車できる「新幹線eチケットサービス」を開始する。これに伴って予測されるのは、駅構内にある「みどりの窓口」の廃止・縮小だ。
まだ決定はしていないものの、今後は縮小されたみどりの窓口の代わりにインファームを導入するアイデアも考えられる —— インファーム日本法人のマネージング・ディレクターの平石郁生氏はそう構想を明かす。
まず足がけとなるのは紀ノ国屋でのハーブやレタスの提供だが、インファームが手がける「都市型農業」が一般的なものとなれば、「東京産・無農薬」の野菜が街のスーパーで買えるようになる未来が来るのかもしれない。
(文・写真、西山里緒)