コロナ感染拡大による政府の休校要請に、博物館やアミューズメントパークも閉鎖。3月は行き場のない子どもたちが大勢いる。
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新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全国の多くの小中高校が休校となったのに加え、スイミングや音楽教室などの習い事もほとんど休講。学童保育も自治体によっては開かれなかったり、博物館や美術館、テーマパークも休業だったり、「子どもたちの行き場がない」問題が起きている。どうやって、親子は突然の休校期間を過ごしているのか。
YouTubeとお菓子で1日が過ぎる……
「休校2日目にしてすでにヘロヘロです……」
そう話すのは、千葉県市川市のフリーランスで働く女性(41)。市川市は、政府の休校要請前の2月28日から2週間、市立学校を対象に全国に先駆け、休校措置をとっている。市内の複数感染者の出たフィットネスクラブの利用者に、教職員もいたことが大きな理由だ。
さらに市の方針で、通常の春休みならば預け先になる学童保育も閉所。この女性の小学2年生の息子は、主に家で過ごす毎日だ。しかし、その「家の中限定」の過ごし方が悩みどころ。
「フリーで融通が効くこともあって、(会社勤めの夫に対し)私が家で9割見ていますが、日中もびっしり仕事がある。ほとんど息子が1人で過ごしてくれているのですが、YouTube漬けです……」
1日目は5時間YouTubeをみてお菓子を食べて、終わった。
「夏休み並みのプリントが学校から出ているのですが、手をつけずに本人はiPadを見てます。せめて知育アプリを入れ、学習塾のオンライン授業を受けさせようと思ったのですが、食いつきがいまいちです……」
とはいえ、こんなに息子とべったり過ごすことは、そうそうない。
「一緒に昼食を作って食べたり、この際なので確定申告のレシート仕分けを手伝ってもらっています(笑)」
学童だっていつまであるか分からない
給食が丸ごと3月はなくなり、各家庭では、児童・生徒のお昼ご飯の支度もマストに。
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東京都内の男性(40代)は、人生で初めて在宅ワークになったのを機に、休校中で家にいる息子(小学2年生)と過ごす時間が圧倒的に増えた。普段の平日は、妻任せだったので新鮮な体験だ。
手作りで時間割を作り、休憩時間も設定。突然の休校で終わらなかった教科書の残り、急いで購入した1年間の復習ドリルを「規則正しく」やらせようとしたが、「僕はやりたくない」と泣き出す息子を、朝から叱りつけるはめに。
昼にはインスタントラーメンに野菜炒めを乗せたものを食べさせて、午後からは息子が「友達に会いたい」とせがむ学童に行かせた。
しかし「学童も子どもが密集しているので、しばらくは長時間預けることを避けたい。状況によってはいつ閉鎖するか分からない」と、先行きは不透明だ。
大人になっても覚えている1カ月
突然の休校に加え、通常の春休みとは違って行き場のない事態に、親子共々戸惑う人は少なくない。しかし、別のとらえ方もできるかもしれない。
東京都内在住の林慶彦さん(36)には小学校5年生、2年生、5歳、6カ月の4人の子どもがいる。勤務先のクラウド会計のfreeeは、子どもたちが休校になった3月2日、全社がリモートワークに。これをきっかけに、ある決断をした。
「保育園は閉園ではないのですが、思い切って三男も休ませることにしました。そうでなければ感染症予防の意味がないと思ったのと、妻も育休中なので。家族全員が毎日そろって家にいるという、人生になかなかない時間になるな、と」
午前中は長男、次男の勉強をみて、食事は林さんが家族全員の分を作る。子どもたちの質問に仕事を中断されることはあるが、「オフィスでも話しかけられるのと同じこと」だとして、あまり気にしていない。
週末は習い事も休止になり「行き場のない問題」はあるが、近所の公園を子どもたちと鬼ごっこをして運動不足を防いでいる。オンラインでのインタビューでも「この後、仕事がひと段落したら、鬼ごっこに行きます」と話していた。
「感染症が原因の事態なので、世の中には不安もあると思うのですが、ある意味、子ども達が大人になっても覚えている特別な1カ月になるのでは」
もちろん誰もが在宅勤務ができる職場で働いているとは限らないし、仕事ができなくなることで生活に打撃を受ける人もいる。だが、この危機をきっかけに少しずつ家族や働き方だけでなく、“ご近所”を見直す動きもある。
現代にご近所さん子育ての復活を
「パニックにならなくても大丈夫」AsMama代表の甲田恵子さん(右)ら、子育て支援のネットワークが呼びかけた。
提供:AsMama
「学校も休みで動物園もディズニーもイベントも自粛。どこに行けばいいんだろうと不安を持っている親御さんには『パニックにならなくても大丈夫です』とお伝えしたい」
ネットを通じて、送迎や一時預かりなど子育てを手伝ってくれる「ご近所さん」をつなぐマッチングアプリ「子育てシェア」サービスを広げたいと声をあげたのは株式会社AsMama。政府が休校要請を発表した2日後の2月29日、都内で緊急の記者会見を開いた。代表の甲田恵子さんは「心配しないで」と呼びかけた。
子どもの預け先を失ったシングル家庭、医療従事者はじめ職場に行かねばならない人、在宅ワークでも「小さな子どもを見ながら仕事にならない」という人——。AsMamaに寄せられた悲鳴を受けたものだ。
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子育てシェアは登録料・手数料無料で保険付き。現在7万2000人が登録し、1000人程度が子育て世帯を支援している。登録者には、子育て現役世代もいれば退職後の高齢者もいる。
政府の休校要請を受けて、AsMamaは2020年3月末まで、新たに子どもの受け入れ支援をしてくれる人に報奨金を全体で100万円用意した。
新型コロナウイルスの感染が広がる中で、人に預けるサービスを呼びかけるのは、
「不謹慎と言われる覚悟がありましたが、こんなに小中高が休みになる中で、学童は空いていたり空いてなかったり。仕方がないので子どもを置いて仕事に行くしかないという声を聞いて、それはやめた方がいいと、心の底から思いました」
と、甲田さん。
「何より働く親は来月の収入のために働かなくてはならない。手洗い、うがい、マスク感染予防に努めつつ『子育てを助けて』と言える社会でありたいのです」(甲田さん)。
単身者からも「親子の力になりたい」
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「単身者の私にも何かできることがあれば声をかけてください。3月仕事が空いてしまって。何かお力になりたい!とモヤモヤしています」
そんな連絡を仕事関係のフリーランスの20代女性からもらったのは、東京都内のIT企業勤務の女性(42)だ。
新型コロナの影響で、3月の仕事がことごとくキャンセルになり、時間の空いた分「休校で困っているワーママの力になりたい」とのありがたい申し出だった。少しの謝礼を支払いつつ、仕事が立て込んでいるときに、子どもを公園に連れ出してもらうことにした。
「働く親だけの問題として騒いでしまっているが、力になりたいと思ってくれる人は広くいるのだ」
とハッとしたという。
学童保育の父母会長を務める東京都内のフリーランスライターの女性(40代)はこういう。
「休校が大変という声は多いですが、一方で大手企業に務める父親が在宅ワークで子どもをみる機会ができたり、子育てママのLINEが情報交換のハブ(中心拠点)として機能したり。子育てネットワークが進化するタイミングとも言えるのではないでしょうか」
新型コロナウイルスの感染拡大状況によっては、4月の始業式がどうなるかもまだ見えない。長期化しかねない休校および「子どもの行き場がない問題」だが、危機的な状況にこそ、前進することもあるのかもしれない。
(文・滝川麻衣子)