「新型コロナで中止」はさせない。完全オンラインで学会の形は変わるのか?

LINE LIVE

学会の一部は、LINE LIVEで配信された。

撮影:三ツ村崇志

新型コロナウイルスの流行によって、次々と予定されていたイベントが中止に追い込まれている。この流れは、アカデミックの世界にも訪れている。

3月は研究者の間では学会シーズン。学会の中止が相次いでいるのだ。

そんな中、3月2日〜4日にかけて、電子情報通信学会、情報処理学会、日本データベース学会という3つの学会の若手研究者たちが主催する「第12回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム」(通称:DEIM)が、完全オンラインで開催されている。

完全オンラインで必要なのは運営ノウハウ?

中継拠点

中継拠点となった国立情報学研究所の支援センター。大きなディスプレイには、各セッションの様子が映る。何かトラブルがあれば、左側に座っている数人の管理者が運営をサポートする。

撮影:三ツ村崇志

DEIMは、もともと2泊3日の合宿形式で行われる予定だったフォーラム。2020年は、福島県郡山市のホテルに約600人の参加者が集まり、研究発表や議論をする予定だった。

しかし、新型コロナウイルスの流行に伴い、政府からイベントの自粛要請が発表される前の2月17日に、リアルの場でのフォーラム開催を断念。同時に「オンラインでの開催」を宣言した。

運営の委員長を務めた東京工業大学の宮崎純教授は、

その段階では『オンラインでやる』ということ以外、何も決まっていませんでした

と話す。

オンラインでの学会運営には、国立情報学研究所(NII)が協力。

NIIには、SINETと呼ばれる全国の大学・研究機関を結ぶ高速の通信ネットワークがある。この強靭なネットワーク回線を利用できることで、通信量や通信速度といった、ネットワークに関係する制約が基本的に排除されたという。

「オンラインでの発表」の実現には、基本的なビデオ会議システムがあれば良い。

そこで課題となったのは、決められた発表時間の中で質疑応答まで行うセッションを、開催期間中にいくつも詰め込んで行わなければならない、という学会の運営方法だった。

「学会では座長が発表を仕切り、発表者がいて、さらに数十人の聴衆との間で質疑を行います。ビデオ会議への参加者全員が同時に発言すると、ハウリングなどを起こして聞こえなくなる問題が起きます。こういった運営上の問題を考慮すると、管理者権限によって全員を一斉にミュートできるような機能が必要でした」(宮崎教授)

本来、セッションを取りまとめるのは座長の役割。座長がビデオ会議システムを駆使して聴衆のコントロールを行うのがベストだ。しかし、今回のオンライン学会では、ビデオ会議システムを使用した経験のない参加者がいることも踏まえて、中継の拠点となるNIIに各セッションごとの「管理者」を配置し、運営を支援してもらうことになった

ビデオ会議のようなサービスを使えば大規模なオンライン学会の開催も十分可能だが、スムーズな運営には、単純に映像を共有して流すだけでは難しいというわけだ。

学会初日となる3月2日には、10分野のセッションが同時に開かれ、それぞれに10人〜50、60人程度の聴衆が参加していた。質疑応答も含めて、特に大きなトラブルはなかったという。

バーチャルはリアルをどこまで代替できるか

参加者の管理

DEIMでは、この日のために参加者を管理するためのシステムを自前で整備したという。「せっかくなら、参加者のデータも取って研究対象にしようかと」と、情報処理のスペシャリストたちは意欲を見せた。

撮影:三ツ村崇志

会員数が約1万7000人の日本物理学会は、新型コロナウイルスの流行に伴い、3月に予定していた名古屋大学東山キャンパスでの春の年次大会の中止を発表している。会員数が3万人を超える日本化学会も、3月に東京理科大学野田キャンパスで予定していた春季学会の中止を発表した。

DEIMの事例のようにビデオ会議を通じた学会運営の体制が整えば、今後、学会の形は変わっていくのだろうか。

慶應義塾大学に所属する理論物理学者の松浦壮教授は、学会の形式について、

「ビデオ会議のような形式は、学会が担っている機能の一部を担えるかもしれませんが、全てではないのではないでしょうか」

と話す。

松浦教授曰く、学会は研究の種を探しに行く場所

「突発的な議論や顔を合わせてのコミュニケーションは、実は情報量が多い。ちょっとした雑談の中で生まれる『そういえば気になっていたのだけど』というような議論は、現状のビデオ会議のようなコミュニケーションでは難しいように感じます。

もちろん発表の内容や質疑も大切なんですが、私は、発表の合間や雑談の中で聞こえる『雑音』や、顔を合わせた議論の合間にある『沈黙』もまた、新しい芽を見つけるために非常に重要だと思うのです」(松浦教授)

学会の場は、博士課程の学生にとって研究をアピールし、将来のポストを得るための就職活動の場にもなっている。

一般の人からすると「成果発表の場」と思われがちな学会の裏の役割(あるいは、こちらが表かもしれない)も考慮すると、少なくとも“まだ”、オンライン学会で学会の全ての機能を担うのは難しそうだ。

一方で、2日に行われたDEIMの中継では、次のような言葉も聞くことができた。

コロナが流行しているからできないのではなくて、コロナが流行しているからこそできることを考えたい

LINE LIVEで行われたDBSJアワーの中継でこう話したのは、国立情報学研究所の喜連川(きつれがわ)優所長だ。

LIVE中継

LINE LIVEでの中継を行う様子。

撮影:三ツ村崇志

新型コロナウイルスの流行によって普段の生活では生じない制約が生まれた環境は、現代の技術で、何をどこまで解決できるのかを知る絶好の機会とも言える。このチャレンジ精神こそ、科学や技術を突き詰める研究者たちの真骨頂なのだろう。

ITを駆使する学会ならではの見事な機転で、中止の“危機”を乗り切ったDEIMのオンライン学会。このノウハウは、3月5日から開催される情報処理学会でも活用される予定だ。

(文・三ツ村崇志)

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