新型ウイルスで新卒“売り手市場”に危機。消費の落ち込みは震災直後より悪化も

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、東京ディズニーリゾートは2月29日から3月15日までの臨時休園を発表した。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、東京ディズニーリゾートは2月29日から3月15日までの臨時休園を発表した。

REUTERS/Issei Kato

新型コロナウイルスの影響で国内の個人消費が大きく落ち込みそうだ。民間シンクタンク大和総研によると、2〜5月の個人消費は3.8兆円ほどの下振れが見込まれるという。

全国的にイベント自粛や旅行・外出を控える動きも急速に広がっている。大和総研・経済調査部の山口茜研究員はBusiness Insider Japanの取材に対し、「足下の景気悪化が、今後の雇用に悪影響を与える可能性がある」と指摘。“売り手市場”とされてきた新卒採用への影響を指摘する。

個人消費の落ち込みは3.8兆程度

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出典:消費者庁「令和元年版 消費者白書(概要)」

新型コロナウイルスをめぐる経済的への打撃は、これまで訪日外国人観光客(インバウンド)消費が中心だと見られていたが、今後は日本のGDP(国内総生産)約500兆円のうち、約6割(約300兆円)を占める個人消費にも影響を及ぼしそうだ。

2月下旬、安倍晋三首相は大規模イベントの自粛や全国の小・中・高・特別支援学校の臨時休校を相次いで要請。国内では感染リスクを避けるためにイベントの延期・中止が相次いでおり、旅行や外出を控える動きが出ている。

「観光庁の統計によると、日本人の国内旅行消費額は2019年速報値で21.9兆円。これはインバウンド消費額(4.8兆円)の4.6倍にのぼります。自粛の動きが広まれば、その影響も大きいと思われます」(山口さん)

政府がイベント開催や外出の自粛を呼びかけたことで、3月中は全国的に旅行や余暇に関わる消費が落ち込むと想定されるという。

個人消費の縮小規模は東日本大震災後の消費抑制額(2.6兆円程度)を上回るかもしれない。

個人消費の縮小規模は東日本大震災後の消費抑制額(2.6兆円程度)を上回るかもしれない。

提供:大和総研

大和総研では、2〜5月の個人消費は3.8兆円程度下振れすると試算する。

「震災後は、被災地域(東日本)では“不要不急”とされる交通や余暇消費が落ち込みましたが、それ以外の地域では影響が限定的な地域もありました」

「ただ、今回の新型コロナウイルスの影響は全国的なものになると考えられます。政府の対策基本方針や要請もあったことで、個人消費の冷え込みは避けられないでしょう。春休みシーズンは旅行、レジャー、交通などの余暇消費への悪影響が懸念されます」(山口さん)

新型コロナウイルスによる消費支出額はどうなるのか。それを知るには、東日本大震災直後のデータが参考になりそうだ。

新型コロナウイルスによる消費支出額はどうなるのか。それを知るには、東日本大震災直後のデータが参考になりそうだ。

提供:大和総研

「外出が減ることで、小売店やアパレル業界の業績も心配です。ビジネス街の飲食店など、歓送迎会の需要をあてこんでいた外食業界にも打撃がありそうです」(山口さん)

日本経済新聞によると、大手百貨店5社の2月売上高(既存店ベース、速報値)は、全社が前年同月を下回り、4社で2桁のマイナス。インバウンドのみならず、国内での外出自粛も拍車をかけた格好だ。

「売り手市場」の終わりも?雇用への影響は

厚生労働省は3月2日、小学校などの休校で子どもの世話のために仕事を休んだ従業員が、日額8330円を上限に賃金全額を補償するため、企業に助成金を支給すると発表した。

厚生労働省は3月2日、小学校などの休校で子どもの世話のために仕事を休んだ従業員が、日額8330円を上限に賃金全額を補償するため、企業に助成金を支給すると発表した。

出典:厚生労働省

個人消費が縮小することで懸念されるのが、雇用や収入への影響だ。

まず、学校の休校による影響について、山口氏はこう指摘する。

「パートタイム労働者の方々への影響が心配です。学校の休校によって、お子さんを見るために仕事を一時的にお休みされる方も出てくることでしょう。非正規で働いている方は、労働時間が賃金所得につながります」

「働きたいけど、働けないという状況が続けば、収入にダイレクトに影響を与えます。収入が減ることは、そのまま消費の抑制につながりかねません。特にシングルペアレント世帯への影響は大きく、日々の暮らしに直結する問題になりかねません」

こうした懸念を受けて厚生労働省は3月2日、小学校などの休校で子どもの世話のために仕事を休んだ従業員に賃金を全額支払った企業に対して、1人あたり日額8330円を上限に助成金を支給すると発表した。

小学校、高校までの特別支援学校、学童クラブ、幼稚園、保育所などが休校・休業したことで、子どもの世話が必要になった労働者が助成されるが、フリーランスなどの個人事業主、自営業者は対象外になるという。対象期間は2月27日~3月31日まで。

近年は「売り手市場」とされてきた新卒採用への影響も心配だ。

「業種・企業によっては事業収益が打撃を受け始めているところがあります。固定費用である人件費、特に2021年以降の採用に少なからず影響が出てくると思います」

「いずれにしろ、個人消費の下振れは日本のGDPを大きく押し下げるため、そこから経済が悪循環に陥って景気が腰折れしてしまうことが心配です」

「すでに政府はつなぎ融資に取り組んでいますが、一時的な大打撃で倒産が起こると、所得や雇用に大きく影響する。新型コロナウイルスの悪影響が長引けば、さらに追加の経済対策が望まれる状況になるでしょう」(山口さん)

(文:吉川慧)

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