チコちゃん「岡村の嫁探し」企画への大きな違和感。未婚男性は笑ってもいいの?

チコちゃんに叱られる!公式ホームページより

出典:チコちゃんに叱られる!公式ホームページより

「この男と結婚してくれませんか?」「ムーリー!」

NHKの番組「チコちゃんに叱られる!」で1月31日より継続的に放送されているコーナー「日本全国 岡村の嫁探しの旅」への批判がネット上で高まっている。

内容は、カラスのキャラクター「キョエちゃん」が地方に赴き、お笑い芸人・岡村隆史さんの結婚相手を探すというもの。キョエちゃんに「この男と結婚してくれませんか?」と不躾に聞かれた人たちは、一様に「ムーリー!」と両手で大きくバツを作って拒否をする。

企画本来の趣旨は地方の魅力を紹介することだと思われるが、それを“面白おかしく”するために、あえて「嫁探し」の要素が付け加えられたように見える。

キョエちゃんに話しかけられた一般人の女性たちが結婚を断る理由はさまざまだが、「自分より背が低いから無理」という、多様性の尊重からはかけ離れた回答も放送された。

Twitterに溢れる「嫁探し」への違和感

視聴者の知的好奇心をほどよく満たしつつ、ほどよく笑える「チコちゃんに叱られる!」は、ジェンダーやフェミニズムについて関心の高いミレニアル世代である筆者が、安心して見ていられる番組の一つだった。

だからこそ、画面に大きく「嫁探し」という前近代的な言葉が現れたときは目を疑った。

番組を見続けていると、冒頭のような演出に非常に不愉快な気持ちになった。そこには、地方の女性を勝手に嫁候補とみなす男性中心的な目線と、岡村さんとの結婚を大げさに拒否することでの「男性に対するセクハラ」の構図が透けて見えた。

そんな全く面白くない「嫁探し」に対し、Twitter上では不快感を露わにしたコメントも数多く見られる。

「岡村さんの嫁探しコーナーが不愉快だから見なくなった。

さっきたまたま見てしまったが、身長が低いからムリだの手袋マンは男性だからダメだの、いろんな意味で人を不自由にする価値観が垂れ流されているし、岡村氏にも『嫁候補』にされた女性達にも非常に失礼な企画。」

「さっきテレビつけたらNHK『チコちゃん~』で岡村嫁探しの旅とかいう企画をやっていたんだけど、もういい加減他人が独身であることをネタ的に扱うなよ。岡村さんがOKならやっていいという話じゃ無いよ。この番組は子供にも人気なんだろうに。」

「息子がチコちゃん好きなんでいつも一緒に見てるけど岡村さんの嫁探しとか本人頼んでないだろ余計なお世話だよねって息子の前で言う事にしています」

一般人を巻き込んだ盛大な“嘲笑”

“この女”と結婚してくれませんか?」—— 。もし、今回の企画が男女逆であれば、この言葉がいかに侮辱的なものか、ほとんどの人が気づくはずだ。

“この女”が”この男”になり、対象が岡村さんであれば、その発言は誰も傷つけないものに変わるのか?

民放のお笑い番組ではかつて、わざと肌の色を黒く塗ったメイクをする「黒塗り問題」や、ゲイ男性を揶揄するキャラクター「保毛尾田保毛男」が強く批判された。今回の「嫁探し」は、これら一連の問題の構造と大して変わらないのではないか。

その演出の裏には「中年独身男性は、嫁を探すべきだ」「結婚できない男性は、そのことを理由にして笑っても良い」というステレオタイプな考えがあり、その“偏見”と言っていい考えこそが「生きづらさ」を助長し、価値観の多様性を阻むものだからだ。

「そうは言っても、テレビに笑いは必要でしょ?」という人もいるかもしれない。

もちろん、人をいじって笑いを取ること全てをやめるべきとは思わない。見る人を傷つける「嘲笑」と「いじり」との違いは、相手への思いやりの眼差しがあるかどうか、そしてそれを見た人の中で傷つく人がいるかどうかだ。

男性

一般人も交えた差別構造の助長がいじめへと繋がる。

撮影:今村拓馬

もし番組側が「岡村さんは芸人だから、いくら傷つけても構わない」と考えたのなら、思いやりの眼差しが完全に抜け落ちてしまっていたのではないか。

もう一つ、今回「嫁探し」がより大きな批判になった背景には、岡村さんをバカにするテレビ上の演出に一般人を巻き込んだことにあると思う。

そのことによって、(岡村さんと別の芸人という)お笑い芸人同士の信頼関係が見えるからこそ笑えたはずのいじりの域を超えてしまった。岡村さんの「アリ・ナシ」を判定する当事者を一般人としたことで、よりリアリティのあるいじめの構図として、視聴者に届いてしまったのではないだろうか。

ジャーナリストの治部れんげさんは本件について、「視聴者が不快と思ったり、面白いと“思うこと”は自由」と前置きした上で、次のように語る。

「『表現の自由』は憲法21条で規定された『国家から検閲されない自由』であって、公開された表現について『批判されない自由』ではありませんテレビは規制業種なので、ネット企業より高い社会的責任を求められます。NHKは受信料を強制徴収していることから、より倫理的であるべきです。そういう意味で『嫁探し』は、NHKでやる必要がない。ダメだと思います

演出は変更されてもコーナーは継続

同コーナーは未だ継続しているものの、ネット上の批判を受けてか、2月28日放送回では演出が少し変わっていた。「ムーリー!」という大げさな動作はなくなり、断る理由も慎重に選定されている印象を受けた。そのため、過去の放送回で感じたような、思わずテレビを消したくなるほどの嫌悪感は抱かなかった。

しかし、「嫁探し」の設定には違和感が残ったままだ。

そもそも「嫁」という「男性に嫁ぐ」ことをイメージさせる呼称を嫌う女性は多い。にもかかわらず、全国の女性を勝手に「嫁候補」とするこの企画。番組制作陣に女性はいるのだろうかと疑問に思ってしまう。

話が逸れるが、チコちゃんのモデルは社会学者の上野千鶴子さんという説がある。2019年に放送された「情熱大陸」内で、上野さんは「(チコちゃんの)モデルは私じゃないか?ってみんなに言われている」と自ら語っていた。そうだとしたら、この番組でジェンダーへの配慮がないことはあまりにも悲しい。少なくとも外部から「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と言われない程度の責任は果たしてほしい。

NHK広報に同コーナーの制作意図およびネット上の批判に対するコメントを求めたところ、以下の回答があった。

「お問い合わせの企画については、日本各地で輝いている生産現場を(編集部注:キョエちゃんが)訪ねることで、その地域の魅力を視聴者の皆さまにお伝えできればと考えております。視聴者の皆さまからいただいたご意見やご感想は、その後の番組作りにいかしております」(原文ママ)

(文・一本麻衣、編集・西山里緒)

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