4月までにガスト全店は24時間営業が終了する。
撮影:横山耕太郎
2020年4月までに、24時間営業を全店で中止することを発表したすかいらーくホールディングス(HD)。同社はガストやジョナサン、バーミヤンなどのファミリーレストランを全国で約3260店運営しており、営業時間の短縮については、「従業員の働き方を改善するため」と説明している。
時短営業はファミレス業界だけでなく、コンビニなどでも進んでいるが、背景には深刻な人手不足がある。
人口減少が進む日本で、ファミレスが生き残るためには何が必要なのか?
深夜営業の需要は減っている
時短営業に踏み切った理由を説明する、すかいらーくホールディングス・広報IR統括責任者の伊藤宏泰氏。
撮影:横山耕太郎
すかいらーくHD・広報IR統括責任者の伊藤宏泰氏は、今回の夜間営業中止の理由をこう説明する。
「ライフスタイルの変化と少子高齢化で深夜営業の需要が減ったことに加え、従業員の働き方を考えて夜間営業の中止を決定した。お客様が多いピークタイムにしっかりサービスすることで、満足度を上げることが目的です」
すかいらーくでは1972年から24時間営業を開始したが、2017年には約600店で深夜営業時間を短縮。
2020年1月には、24時間営業や深夜営業を行っていたガストやジョナサンなど計566店舗について、4月までに営業時間を短縮することを発表した。
営業時間の短縮は、店舗ごとに立地などを考慮して実施。多くの店舗では午前7時頃に開店し、午前0~2時頃の閉店が多いが、中には1時間だけ閉店する「23時間営業」の店舗もある。
「若い世代の利用が多いガストは深夜のニーズが多く、ジョナサンは都心の展開で駅前も多いため終電後も利用がある」(伊藤氏)と言い、営業時間の短縮による客離れについては、「まだ数字としては表れていない」(同)としている。
かさむ人件費に人手不足
24時間営業を行っていた全155店舗について、4月までに24時間営業を撤廃する。
撮影:横山耕太郎
すかいらーくが営業時間の短縮を決めたもう一つの背景に、人件費の高騰がある。
同社の2018年の営業利益は229億円だったが、2019年は新規出店による店舗数の増加や人件費の高騰したことが響き、前年比23億円減の206億円だった。
最低賃金は上昇し続けており、平成が始まった1989年に525円だったが、2019年には1013円と約2倍になっている。
厚生労働省が発表した2020年1月の職業別の有効求人倍率(パートを含む)は、全職業では1.44倍なのに対し、「飲食物調理」は3.31倍、「接客・給仕」は3.79倍と高く、飲食業では人材の確保が難しい状況が続いている。
「人材不足で切羽詰まって時短営業を決めたわけではなく、これからもっと人材不足になっていくだろうと考えた。
すかいらーくは比較的、知名度があるため現状の採用では優位性があると感じている。しかし、『24時間営業を続けるのは厳しい』という声が現場から上がる前に、もっと女性やシニアの方にとっても働きやすい環境を整え優秀な人材の確保につなげたかった」(伊藤氏)
時短営業で先行したロイヤルホスト
すかいらーくグループよりも先行して24時間営業を撤廃したロイヤルホスト。
撮影:横山耕太郎
すかいらーくに先駆け、2017年に24時間営業を完全撤廃したのがロイヤルホストだ。
ロイヤルホールディングス(HD)の2019年12月期の決算では、外食事業(「てんや」などの事業含む)の売上高は前年比1.4%増の626億2200万円、経常利益は同14.4%減の23億7900万円と増収減益だったが、ロイヤルホスト単体では増益だった。
ロイヤルHDによると、ロイヤルホストの営業時間短縮は2011年に着手。24時間営業店舗は、2011年に43店舗あったが、2015年に6店舗に減少。1店舗あたりの営業時間も、2011年には18.6時間だったが、2017年には15.3時間にまで短縮した。
時短営業を推し進めた2015年の既存店売上は前年比98.4%、2016年も同98.6%とマイナスが続いたものの、2017年には同102.0%でプラスに転じ、2018年、2019年の売上も前年を上回った。
時短営業が人材確保につながっている面もあるという。
「人材の確保については、他社同様に難しい状況ですが、2018年から店舗休業日を年3日(元日、5月・11月の平日)を設けるなど対応してきました。
1店舗あたりに在籍するスタッフの数は、2019年は前年と比較しても微増しています」(広報担当者)
デジタルメニューブックに活路
すかいらーくグループのジョナサンでもメニューブックのデジタル化が進む。
撮影:横山耕太郎
人口減少が進み市場が縮小する日本で、今後ファミレスはどう生き残っていくのか。
従業員の省力化を図り、顧客の満足度を上げるために、すかいらーくが力を入れるのがタッチパネルによるメニューのデジタル化だ。
現在、タッチパネル式のメニューは、ガストの多くの店舗で導入されており、ジョナサンやバーミヤンなど主要ブランドでも3月下旬から夏までに全店導入を目指す。
タッチパネル式のメニューはクラウドで管理され、将来的には店舗ごとや曜日ごとのメニューを表示したり、個人のスマートフォンと連携することで、顧客ごとにカスタマイズされたメニューを表示したりできるようにするという。
ただし、この先行投資のためのシステム改修に、13億5800万円の減損損失を計上している(2019年12月期の決算)。約3年前からメニューを含むデジタル化システムの構築に着手していたが、当初計画では、クラウドやキャッシュレス決済に対応できなかったため、仕様を変更した影響だという。
「投資したシステムが活用できなかった点は失敗だった。消費者のニーズも、外食事業に関わる技術も、早いスピードで変化している。
深夜にファミレスに集まる人は減るなど、お店の使われ方も多様化してきた。こうした変化を的確にとらえ、先駆けてチャレンジしていきたい」(伊藤氏)
(文・横山耕太郎)