広告コピー自動生成ソフトウエア「フレイジー(phrasee)」を導入している大手企業のひとつ、イーベイ(eBay)。
Reuters
- フレイジー(Phrasee)は人工知能(AI)を利用してイーベイ、ドミノ・ピザ、グルーポン、ヒルトンホテルなど、大企業のマーケティングにおけるコピーライティングを強化する企業だ。
- このテクノロジーは、メールマーケティングやプッシュ通知、その他の広告に、あたかも人間が書いたように感じられるテキストを提供する。こうしたAI生成の広告コピーは人間が書くより効果的である場合が多いことが実証されている。
消費者にマーケティングメールを開かせるには高度なノウハウがある。そのテクニックをマスターするサポートを行っているのがフレイジーだ。ロンドンに拠点を置く同社では、マーケティング向けのソフトウエアを開発している。
具体的には、イーベイやドミノ・ピザのような企業に、人工知能を使って人間が書いたかのような広告コピーを提供している。
メールの件名やプッシュ通知、その他の広告に、 AIで最適化されたテキストを挿入することで、消費者にクリックさせたり、チャットに参加させたりするわけだ。しかもすべてはわずか数分で自動的に実行される。
フレイジーのパリー・マルム最高経営責任者(CEO)はBusiness Insiderの取材に対し、「企業はマーケティングの結果の数字だけに注意を向けがちだ。けれども、広告キャンペーンの核心は、そこで発信されるコピーなんだ」と語る。
「テキストこそ広告キャンペーンの成否を決める」というのが、フレイジーの根幹的な考え方。 2015年に設立された同社のサービスは、すでにイーベイ、ドミノ・ピザ、グルーポン、ヒルトンホテルなど多くの大企業に採用され、クリック数やチャット率を大幅に増やす実績をあげている。
「アメリカに住む人々の圧倒的多数は間違いなく、それと知らずにフレイジーで自動生成された広告コピーを受け取っている。われわれは超有名ブランド、每日誰もが目にするような巨大ブランドにサービスを提供しているからだ」(マルムCEO)
「人間のように書く」テクノロジーの仕組み
フレイジーはユーザー企業ごとにカスタマイズされる。システムを採用するクライアントにはすべて独自の言語モデルが実装される。システムによって生成されるテキストが、あたかもその企業の従業員によって書かれたように消費者に感じさせるには、このカスタマイズがきわめて重要なステップとなる。
「ヒルトンホテルが顧客にマーケティングメールを送るとしたら、何もかもイーベイとは違うだろうし、ヴァージン・アトランティック航空とも違うだろう」とフレイジーのビクトリア・ペピアット最高執行責任者(COO)は説明する。
フレイジーのAIシステムは、各地域のスラング(俗語)、文の調子、特徴的な構文に配慮したコピーを生成でき、文脈として適切なら絵文字を含めることもできる。
言語モデルには、ユーザー企業ごとのパラメーターが含まれる。例えば、ある企業がマーケティングコピーでは決して使わない語句があるとしたら、フレイジーにあらかじめ設定しておき、言語モデルから除外することができる。
AIテクノロジーが機能する上では、深層学習も重要な部分だ。フレイジーによって生成されるテキストは(人間の)コピーライターが書いたテキストとの比較(A/Bテスト)を受け、結果はシステムにフィードバックされる。
ペピアットCOOによれば、「この仕組みにより、われわれのシステムはコピーの読み手の反応を学習し、絶えず最適化を続けていく」のだという。
人間の作業を置き換えるのではなく強化する
マルムCEOによれば、フレイジーはコピーライターの仕事を奪うわけではない。むしろその逆だ。
「フレイジーのAIシステムは、コピーライターの能力を電子メールの件名やプッシュ通知の文案作成などの単純作業から解放し、もっとクリエイティビティ(創造性)を必要とする仕事に集中させるためのものだ」
コピーライターはマーケティングメールの件名ひとつにしても、社内でいくつものレベルの管理者からチェックと承認を受けなくてはならない。このプロセスは一般的に時間がかかり、非常に退屈なものになりがちだ。
フレイジーはそうしたコピーライティングという仕事につきまとう単調な部分を肩代わりして、人間がもっとクリエイティブなタスクに集中できるようにする。 時間や機会費用を削減する上できわめて効果的だ。マルムCEOはこう強調する。
「フレイジーのシステムは、ある面では人間より優秀な仕事ができる。才能あるコピーライターに時折みられるスランプや燃え尽き症候群とも無縁だ。このシステムは人間特有の欠点を見せることは決してない」
結果を示す数字が何よりの証明
フレイジーはデータベースを利用して、人間が見落としてしまうような微妙なニュアンスを理解できる。
例えば、同社の最初のクライアントである英旅行会社ヴァージン・ホリデーズは、ディスカウント金額を前面に打ち出す決まりきったスタイルの宣伝広告を長年続けてきた。会社もそれが有効な手法だと信じていた。
ところが、フレイジーを使ってテストを行ってみたところ、ディスカウントに言及しないコピーのほうがクリック数もチャット率も増えることが示された。
フレイジーはこの広告コピーも含めたマーケティング戦略全体の修正をサポートし、マーケティングメールが読まれる率を2%ポイントアップさせることに成功し、数百万ドルの売上増をヴァージン・ホリデーズにもたらした。
「われわれ人間は誰しもある種の認知バイアスを持っている。フレイジーはそこに挑戦する」(マルムCEO)
さらに、このように数値化できる成果を超えて、フレイジーが強みを発揮するのは、「人間が書いたように感じられる」点だ。このテクノロジーは説明するのが難しいが、同社にとってはきわめて重要なポイントなのだという。マルムCEOはこう語気を強める。
「スパムメールでよく見かけるありふれたフレーズを収集して組み合わせれば、コピーライティングのフランケンシュタインみたいなシステムは簡単につくれる。しかし、そんなものでは結果は出せないのだ」
(翻訳:滑川海彦、編集:川村力)