ツイッター(Twitter)ヨーロッパ副社長を2020年1月まで務めたブルース・デイズリー。
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- ツイッターEMEA(欧州中東アフリカ)副社長のブルース・デイズリーは2020年1月に辞任するまで、アメリカ以外では最年長の社員だった。
- デイズリーはポッドキャスト「Eat Sleep Work Repeat(食べて寝て働いてをくり返せ)」を運営し、同タイトルの本も出版している。
- デイズリーは目下、気候変動問題への取り組みをサポートしている。
アメリカには、会社なんかやめて自分のために働くんだと夢想して生きている人が多い。でも、そんなファンタジーを現実にするのはかなり大変だ。
調査会社ギャラップによると、自分でビジネスを立ち上げようと考えたことのあるアメリカ人のうち、実際の行動に移したのはその4分の1。そんな起業家志望の人たちの半分は、アイデアはあってもそれをどこで始めたらいいか分からなかった、と答えている。
ツイッターのアメリカを除く展開地域の最年長社員であるデイズリーは、グーグル傘下のYouTubeでも経営幹部を務めた。この1月、彼はツイッターを退社した。「しばらくお休みしたい」というのがその理由だ。
デイズリーは2月、2019年にイギリスで上梓した著書『Eat Sleep Work Repeat』のタイトルを『The Joy of Work(働く喜び)』に変えてアメリカでも刊行した。
彼はいま気候変動を食い止める取り組みにかかわっている。彼自身がそこで果たすべき役割が何なのかは、まだ探している最中だ。
その一方で、プラスチック使用量を減らしたり、世界のカーボンフットプリント(温室効果ガス総排出量)を削減したりに取り組んでいるサイエンティストのもとを訪ねていく活動を続けている。
すべての問題にいますぐ取り組む必要はない
デイズリーがBusiness Insiderに語ってくれたところによると、彼のような転職を実現したいなら、「何かを始めてみるだけで十分」だという。
世の中には、ありとあらゆることにいますぐ取り組まないといけないと勘違いして、起業する計画をあきらめたり、新しく得た仕事まで放り出してしまう人が多い。
でもデイズリーは、まずは小さく始めようと言う。それは研究成果にも裏づけられた考え方だ。
米ウィスコンシン大学の研究によると、仕事をすっかりやめてから起業する人より、その前の仕事を続けながら起業する人のほうが33%失敗しにくいという結果が出ている。
また、ペンシルベニア大学ウォートン校教授(組織心理学)のアダム・グラントが著書『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』に書いているように、起業家として本当に成功を収める人たちは、自分の会社を建てるために仕事をやめたりしない。代わりに、課外活動的に小さく始めて、大きく育つ見込みを得てから本業をやめるものだ。
「初めの一歩は誰にとっても一番大変。でも、予想もしない展開のきっかけをつかめるのも、やっぱり最初だったりするんですよね」
起業する前に仕事をやめるな
デイズリーが開設した、キャリアと企業文化にフォーカスしたポッドキャスト「Eat Sleep Work Repeat」。
Screenshot of EatSleepWorkRepeat
キャリアと企業文化にフォーカスしたポッドキャスト「Eat Sleep Work Repeat」を開設したとき、デイズリーはまだフルタイムの社員だった。
当の本人も、それがのちに大輪の花を咲かせるなんて考えてもいなかった。大したリスナーが集まらなくても、自分が興味をもっているトピックについて勉強になれば、くらいの感覚だったという。
デイズリーは、経営コンサルタントのジム・コリンズ、ペンシルベニア大学教授(心理学)で世界的ベストセラー『やり抜く力 Grit』の著者アンジェラ・ダックワースらに、週末を使ってインタビューを始めた。
「ポッドキャストを始める前より格段に本を読むようになりました」
時間をかけるほど、プロジェクトに弾みがついていった。ポッドキャストのリスナー聴取時間はいまや月間25万時間にもなる。
そして彼の興味はいま、組織科学に向けられている。出版社もそんなデイズリーに本を書かないかと声をかけてきた。ポッドキャストと同名の著書『Eat Sleep Work Repeat』は、仕事を改善するためのシンプルな戦略に焦点を当てた内容だ。
自分が楽しめる、小さなことから始めよう
ポッドキャストをやってみて、デイズリーにはわかったことがある。課外活動は、疲弊したり消耗したりすることではなく、むしろエネルギーを得られることなんだと。
「本業では興味がわかないようなことに目を向けると、刺激を受け、自分の内面が豊かになります」
生産性に関する専門家たちもこの意見に同意する。タイムマネジメントの専門家で『うまくいっている人は朝食前にいったい何をしているのか』の著者ローラ・ヴァンダーカムは、以前Business Insiderの取材に対し、仕事を終えたあとに楽しむ趣味のように、人は楽しんでやることから「エネルギーを引き出す」ことができると語っている。
「私が心からインスパイアされた人たちはみな、本職以外で刺激を得られることにエネルギーをつぎ込んでいました」
刺激を得られることなら、スモールビジネスでも、ポッドキャストでも、もちろん書道教室でも、何でもいい。
デイズリーは8年間経営幹部として活躍したツイッターを1月にやめたが、それもはっきりとした「次の大きな一歩」というわけではない。彼は(まったく門外漢の)気候変動への取り組みをツイッターの次の仕事に選んだ理由を、こう語った。
「自分はこの分野で何かをすることになるだろうな、何かをしたくなるだろうな、と思えるようになる方法は、たったひとつしかありません。それは、何が起きるか実際にやって試してみることです」
労働分野の専門家たちは、会社で昇進の階段をのぼっていく従来的な働き方は、まもなく、デイズリーのような直線的でないキャリアパスにとって代わるとみている。
これからのプロフェッショナルは、やりがいのあるプロジェクトに取り組むチャンスを求めて、仕事から仕事へと水平に移動し、さまざまな分野の垣根を飛び越えて仕事をすることになるのだろう。
(翻訳・編集:川村力)