女性比率5%。スタートアップイベントで考えた「男性中心社会」の現実


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なぜ、ビジネスの場での"女性活躍"は進まないのか?現場で考えた。

撮影:西山里緒

2020年までに、上場企業役員に占める女性の割合を10%に —— 政府が懸命に旗を振る一方で、2019年のデータでは女性役員比率はわずか4.2%にとどまり(東京商工リサーチ調べ)、先進国で最低レベルからの脱却にはほど遠い。

なぜ経営層の女性比率は上がらないのか? 日本最大級のビジネスカンファレンスを取材し、現場から考えた。


登壇者の女性比率は4.9%

筆者は2月中旬、経営者・経営幹部のためのカンファレンス「Industry Co-Creation(ICC)サミット FUKUOKA 2020」に取材メディアとして参加した。公式サイトによるとICCは、総勢900人以上が参加する大規模なビジネスカンファレンスで、起業家・経営者・投資家・専門家らが一堂に会し、いくつものセッションが同時並行で進められる。

スタートアップを中心に取材してきた筆者は、日本のスタートアップ業界の経営層における女性の少なさについて課題を感じ、記事でも報じてきた。

ICCのイベント概要と登壇者一覧を見たときまず真っ先に感じたことは、やはり「女性の登壇者が少ない」ということだった。オンラインの日程プログラムで数えてみたところ、3日間続くセッションで登壇者や審査員などは延べ490人(特別プログラムは含まず)、うち女性は延べ24人だった(複数回登壇している女性もいるため実際の人数はもっと少ない)。

割合に直すと約4.9%で、印象通り、登壇者のほとんどを男性が占める。

公式サイトによると、ICCのイベントの特徴は「プログラムの真剣さと参加者のクオリティ・多様性」だという。では運営企業は「ジェンダーの多様性」にどのような課題意識を持ち、どう取り組んでいるのか? その点について話を聞きたいと、運営を担うICCパートナーズに事前取材を申し入れた。

するとICCパートナーズから、準備が忙しいため事前の取材対応は難しいとの断りがあったうえで、以下の回答があった。

「ICCサミットそのものは『スタートアップのためのイベントではない』(プログラムの一部がスタートアップ向けになっているが、産業発展に貢献する趣旨で多様な参加者)という前提になります。

ICCサミットの現状としては参加者リストをご覧いただきたく、参加者のバックグラウンドは多様であるのですが性別の比率は男性が大半を占めるというものです。

『支援』という意味では性別で区別しているわけではなく、商業カンファレンスとしてコンテンツとしていかに魅力的にするか?などを考えている次第です。

上記のように何かお話するようなことがあるかというと『ない』というのが現状です。ICCサミットの開催趣旨と取材目的が合致していないように思います。」

当日の会場で、ICCパートナーズ代表取締役の小林雅さんに直接取材した。同じようにICCの登壇者・参加者における女性比率の低さについて質問したところ、メールと同様に「セッションの多様性は意識しているが、女性だから登壇させる、ということはしない」という回答だった。

小林さんは「例えば(登壇者の1人である)岡島悦子さんのように、女性でも実力があれば何度も登壇をお願いすることもある」と話す。

また、同じくスピーカーとして登壇したユーザベース執行役員の松井しのぶさんについては、もともと同社共同代表の稲垣裕介さんに登壇依頼をしていたが、ユーザベース側の「女性リーダーを登用したい」との課題意識により、松井さんが推薦されたという。

見慣れた「登壇者ゼロ」の風景

諸外国の女性役員比率

諸外国の女性役員比率が軒並み10%を超える中、日本は依然として、4%程度だ。

出典:内閣府

チケットを売らなくてはならない“商業イベント”だから、ジェンダーの多様性に構っている余裕はない —— これはICCだけではなく、多くのビジネスの現場にも当てはまる「ホンネ」なのではないだろうか。実際、国内ビジネスイベントでの「女性登壇者ゼロ」はすでに見慣れた光景だ。

2019年12月に発表された世界経済フォーラム(WEF)での「男女格差(ジェンダーギャップ)指数」で日本は、過去最低の121位になった(153カ国中)。女性管理職比率の低さなどが影響した経済分野は、115位だった。

政府は2017年、上場企業役員に占める女性の割合を2020年までに10%にすることを目標に掲げたが、2019年のデータではわずか4.2%に止まり、現実との乖離が続いている。

ICCに限らず、あらゆるビジネスカンファレンスでは女性の登壇者数の少なさが指摘されているが、そこにはもともと母数としての女性役員、管理職が少ないという構造的な問題がある。

この構造を変えるため、また数が少ない女性役員のロールモデルを作っていくためにも、業界をリードするこうしたカンファレンスから、まずは女性登壇者の数を増やしていく必要があるのではないだろうか。

登壇者の4割女性でも課題意識

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フィンランド発のスタートアップイベント「Slush」では女性登壇者の割合は4割程度だという。

撮影:西山里緒

世界を見てみるとどうだろうか。

筆者も取材したフィンランド発の世界最大級のスタートアップイベント「Slush」では2019年、女性登壇者の割合は約4割だったという(現地報道より)。

2018年に現地で取材した実感としても、ジェンダーおよび人種の多様性に配慮した登壇者の起用やセッション選定をしている印象を受けた。なお、フィンランドは先述のジェンダーギャップ指数で世界3位だ。

特筆すべきは、同イベントは2015年から、イギリスのベンチャーキャピタル「Atomico(アトミコ)」と連携し、「ヨーロッパのテック状況(The State of European Tech)」というオンライン・レポートを発表していることだ。レポートでは、まるまる1章が「多様性と包括性(ダイバーシティ&インクルージョン)」に充てられ、現状のデータと課題がまとめられている。

The State of European Tech

SlushがAtomicoと共に発表しているテックレポート。2019年度版では「多様性と包括性(ダイバーシティ&インクルージョン)」に37ページが割かれている。

出典:The State of European Tech(Atomico)

読んでみると、同イベントがいかにジェンダーの多様性に課題意識を持っているかが見て取れる。すでに登壇者の4割を女性が占めているにもかかわらず、だ。

2018年に日本で開かれたビジネスカンファレンスに登壇したあるアメリカの学術関係者は、そのセッションの登壇者が男性だけであることに触れ、「アメリカではもはやこういうことは許されなくなっている」と指摘した。

現場から当事者意識を持って意識改革を進めていかなければ、諸外国ですでに当たり前になっている“ビジネスの常識”から日本は置いていかれるばかりだ。

“内輪ノリ”からの脱却を

女性が企業の意思決定に関わることのメリットは大きい。多様な価値観が経営に反映されやすくなるだけでなく、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどの研究によると経営層における女性割合が高い企業はより高い収益性があるというデータも出ている。

逆に組織の多様性のなさは、差別的な発言も“内輪ノリ”として許容されやすくなってしまうという弊害も生む。

実際にICCでも、女性司会者の紹介の際に(そのセッションでは「史上初」の女性司会だったそうだ)、「間違えても『可愛いね』っていうぐらいで、許してあげてください」という登壇者からの性差別的な発言があった。

企業の意思決定層における女性比率の低さは、世界的な問題として認識されてきている。ゴールドマン・サックスは2020年1月にCEOが「白人男性しか経営層に入っていない企業のIPO(新規株式公開)は今後担当しない」と発言し、大きな注目を集めた。

内閣府のデータによると、ほとんどの先進国において女性経営層比率は、ここ10年ほどで伸びている。日本はこうした世界的な潮流に大きく遅れを取っていることを、まずは経営者や起業家たちが自覚するべきだ。

(文・写真、西山里緒)

本記事に対する事実誤認の指摘への反論と抗議について

本記事について、ICCサミット主催者よりFacebook上で事実誤認に基づく指摘、および参加企業に対する優越的地位の濫用ともとれる投稿を確認しております。

同投稿について抗議するとともに、編集部の見解を以下に表明致します。

(1)事実誤認に基づく指摘

■ICCサミット側の投稿:

Facebook上で、ICCパートナーズ代表の小林氏および関係者向けのグループ内において、3月6日に事実誤認に基づく次のような投稿が行われました。

以下、編集部が把握している関連する文章を一部抜粋致します。

「ビジネス インサイダー ジャパンのICCサミットの記事ですが、内容を修正していてびっくりしまいた。もはやメディアとしての信頼性もあったものではない。 修正履歴も特になく・・・単なる隠蔽です」(主催者の個人投稿、原文ママ)


「ビジネス インサイダー ジャパンは公式TwitterアカウントでRetweetしている内容をあとから修正している点で信頼性に欠ける。」(主催者の個人投稿)


「① 「女性でも実力があれば登壇させる」という小林の発言に関して

この記事に関して、小林の発言内容が当初「女性でも実力があれば登壇させる」という文章でした。

中満泉さん(国連事務次長・軍縮担当上級代表) のTwitterアカウント (https://twitter.com/NakamitsuUN )では以下のようなコメントのような「根深い女性差別と多様性の欠如」というコメントとなり、Retweet数の数から多くの反響があったと思われます。

その後の記事は以下のようは修正がありました。

小林さんは「例えば(登壇者の1人である)岡島悦子さんのように、女性でも実力があれば何度も登壇をお願いすることもある」と話す。」(関係者向けグループへの投稿、原文ママ)

■編集部の見解:

この主張は全面的に事実誤認です。記事公開後、記事内容の修正をおこなった事実はありません。記事の差分履歴からも、修正が存在しないことは客観的に確認できます。

また、関連するツイッター投稿についても、公開後の削除や修正投稿などを行った事実はありません。

3月8日 15時に上記の事実誤認に基づく主張について、訂正・周知の申し入れをしたところ、3月8日夜時点で、個人投稿につきましては、説明なく、削除されましたことを確認しております。

しかしながら、申し入れ期限である3月9日正午までに、事実誤認を認める投稿などが確認されず、説明責任が果たされていないと判断しましたため、ここに抗議致します。

(2)参加スポンサーやスタートアップ企業に対する優越的地位の濫用ともとれる投稿

ICCサミット主催者側は、次回イベント「ICC KYOTO 2020参加フォーム」のなかで、次のような一文を掲載しております。

ビジネス インサイダー ジャパンの取材を受けた方、広告主、関係者に関しては参加をお断りする場合がございます。ICCサミットに関する記事【女性比率5%。スタートアップイベントで考えた「男性中心社会」の現実】も内容は編集部の恣意的な記事であり、ICCサミットの趣旨と反する方やその活動を支援する方は参加をお断りいたします。

また、関係者向けグループへの投稿でも、次のような文章で、参加者・登壇者・スポンサー企業の自由な経済活動と判断に、著しい制約を与えるような、恫喝ともとれる意見を表明しています。

このような部分的な発言を切り取って恣意的な主張をする記事はそもそもメディアとしてどうのか?と思いますし、このような活動に協力することはICCの掲げるCo-Creation に反する行為である。したがって、ICCサミットの参加者として相応しくないと考えております。

ビジネス インサイダー ジャパンの取材を受けた方、広告主、イベントに登壇された方、関係者に関しては参加を原則 制限いたします。

こうした呼びかけは、Business Insider Japanの取材を受けた方、広告主、イベントに登壇された方に対し、大きな困惑と強い心理的負担を与えるものです。

また、「ともに学び、ともに産業を創る」を掲げる同イベントのコンセプトからも逸脱する行動であり、スタートアップ業界の発展に不利益をもたらしかねないものです。さらにはスタートアップ関係者の皆様に対し、優越的地位の濫用にもあたると危惧致します。

このような社会常識に反する主催者の呼びかけについて、Business Insider Japanは断固として抗議致しますとともに、撤回を求めます。

Business Insider Japan編集長

伊藤有

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