撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
前回に続き、新しい職場に入っていく皆さんに向けて、「入社前にしておきたいこと」をお伝えします。転職に限らず、異動・出向などで職場が変わる人も、ぜひ参考にしてください。
新しい職場に入る前の1カ月間、皆さんは何をしますか?
「業務の引き継ぎだけでいっぱいいっぱい」「有休消化で休みを取り、リフレッシュする」、なかには「4月から手がける仕事について知識をキャッチアップしておく」という方もいらっしゃるかもしれません。
しかしもう1つ、職場が変わるタイミングで、ぜひしておきたいことがあります。それは「人間関係のメンテナンス」です。
転職先はあなたの「人脈」にも期待
転職の前後は何かと慌ただしいもの。だからといって周囲への報告を怠ると、後で痛い目に遭うことも……。
Luis Alvarez/Getty Images
「これからは“個”の時代」なんて言われていますよね。所属する企業の看板だけで仕事をしたり、キャリアを築いたりすることが難しくなっていきそうです。だからこそ、個人で人間関係を築き、ビジネスで協力し合える仲間とつながっておくことはとても大切です。
では、あなたが新しい職場で仕事を始めたとしましょう。その1~2年後、何らかのプロジェクトを担当することになり、「あの人が詳しそうだから情報を得たい」とコンタクトを試みたとします。
その際、もしも相手にあらかじめ転職の報告をしていなかったら? 「転職の報告もしてこなかったのに、都合のいい時だけ利用しようってわけ?」なんて思われ、協力を取り付けられない可能性がなきにしもあらず、です。
特に30代以上ともなると、転職先企業ではこれまで築いた人脈やネットワークを活かすことも期待されます。ビジネス上にしろ、個人的にしろ、これからもお付き合いを継続したい人とは、このタイミングでの挨拶やコミュニケーションに一手間かけることをお勧めします。
退職挨拶へのリアクションから分かる相手の気持ち
まずは基本中の基本、これまで仕事で関わった社内外の人たちへの「退職挨拶メール」「退職挨拶ダイレクトメッセージ」です。
ここで、皆さんがこれまで退職の挨拶を受ける側だった時のことを思い返してみてください。
退職当日に「本日を持ちまして~」とメールを送ってくる人、退職数週間前に「今月末をもちまして~」とメールを送ってくる人、デスクまで直接伝えにくる人、ランチや飲みに誘って報告する人など、さまざまだったと思います。
メールの内容も、定型の挨拶文をBCCで一斉送信する人もいれば、個人的に思い出話を添えたメッセージを送る人も。
そうしたアプローチの仕方で、相手が自分をどれほど思ってくれているか、尊重してくれているか、感じ取ったことがあるのではないでしょうか。
「転職の挨拶」を一手間かける労力を惜しんではいけない。ちょっとした心配りの積み重ねがあなたの人脈を太くする。
編集部撮影
自分が退職・退任の挨拶をする立場になったなら、忙しくても挨拶には手を抜かないようにしたいものです。
「この人は」と思う人には個別に、せめて退職1~2週間前には連絡し、感謝の気持ちを伝えましょう。このときは簡潔な文章で済ませたとしても、「新しい職場で落ち着いた頃に、改めてご挨拶差し上げます」などと添えておけば、後々、近況報告のコンタクトもとりやすくなります。
退職を報告すると、リアクションも人それぞれ。私自身も異動・出向・転籍・独立起業などを経験してきましたが、ご報告すると丁寧に返信をくださる方もいて、「この人は私に対してこんな想いを持ってくださっていたのか」「こんなふうに評価してくださっていたのか」と、気づきを得たことも多数ありました。
こちらから丁寧に挨拶をすれば、相手も丁寧に返してくださることは多いもの。そのやりとりを通じて、今後もお付き合いを続けたい人、続けるべき人は誰なのかが見えてくるかもしれません。
「これまではビジネス上のお付き合いだったけれど、今後は『人と人』として関係性を発展させていきたい」——そんなふうに感じる相手がいたら、ランチや飲みに誘うのもお勧めです。
業務の引き継ぎなど、後任者を交えて会う場では、新たな職場の話はできないでしょう。「これまでのお礼をかねて、ランチをごちそうしたい」などとお誘いし、オフの場で今後の仕事や目標などについて伝えてはいかがでしょうか。
SNSで発信したい2つのこと
「以前勤務していた会社を辞めた翌日きっかりに、あらかじめ用意していた挨拶文をSNSに投稿しました」と森本さん。どんなことを書いたのでしょう?
撮影:鈴木愛子
昨今では、SNSで転職の報告をする方法もあります。これについてはタイミングに注意。「退職してから」「退職前でも可」など、企業によってルール、あるいは暗黙のルールがあるかと思います。過去に辞めた人の前例も参考にして、タイミングを図りましょう。
ちなみに私が以前勤務していた会社を辞めたのは「9月末日」。あらかじめ挨拶文章を作り込んでおき、10月1日に日付が変わった瞬間に投稿しました。単なる退職の挨拶だけではなく、「今後の抱負」を表明する内容だったので、スタートダッシュにこだわったんです。
では、SNSでの報告でどんなことを書くか。
まず、前の会社を暗にでも批判するような内容は避けましょう。前の会社に残っている人が見れば不快に感じるはず。それに新しい会社の人にもいい印象を与えません。「お世話になった会社の批判を公言するような人なのか」と不信感を抱かれることもあります。
前の会社に対しては、これまでお世話になったことへの感謝の気持ち、その会社で何を学び、どう成長できたかを綴ることをお勧めします。そうすれば、前の会社の仲間とも良好な関係を保てるはずです。
その上で、今後どんな会社でどんな仕事をするのかを伝えます。知名度の低い会社であれば、その会社のプロフィールも記しましょう。
このとき、「○○業務を担当します」「○○プロジェクトに携わります」だけで済ませたのではもったいないです。その会社でのチャレンジを通じて何を実現したいのか、どんな将来ビジョンを描いているのかまで記してください。
熱い想いや意気込みなどを素直な言葉で伝えれば、必ず響く人がいるはず。共感して「応援したい」と思った人から、「そのテーマならここにいい情報があるよ」「この人に会ってみては」など、後押しするアドバイスが寄せられるかもしれません。
さらには、「自分(うちの会社)と一緒に何かできないか」なんて、思いがけないところからオファーを受け、パートナーを獲得できる可能性もあります。
自分の将来ビジョン、目標、志など、普段なかなか言えないようなことも、「転職」という大きなターニングポイントであれば発信しやすいですし、読む人も受け入れやすいもの。このチャンスを最大限に活かしていただきたいと思います。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひアンケートであなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合がございます。
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※本連載の第7回は、3月16日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。