ブラック出品者公表と罰金4600万円。中国はマスク不足どう克服した?【新型コロナウイルス】

マスク

日本でマスクを入手するのは難しくなる一方だ(2月14日撮影)。

REUTERS/Issei Kato

「マスクの転売は目に余るものがあります。メルカリやラクマ、ペイペイフリマで出品したものは、専用ラベルで宛名を印刷しますし、品名が明記されているので、窓口で転売だとすぐ分かります」

九州の郵便局で働く女性は、マスク転売に歯がゆさを抑えられない。

「1個ならまだしも、昨日は小型段ボールを10個くらい持ってきて、中身は全部マスクという方もいました。そこまでなくても、明らかにメルカリの転売とわかる人も珍しくないです。けれど郵便局は郵便禁制品でないと引き受けせざるを得ないため、心が痛みます」

フリマアプリやECサイトでのマスクの高額販売は、新型コロナウイルスの不安が高まった1月末から指摘されていたが、ほぼ黙認され、ついには病院の職員や静岡県議までフリマアプリでマスクを出品している事態が判明。政府もようやく重い腰を上げ、転売禁止に動き出した。

最初に感染が拡大した中国でも、1月末はマスクが枯渇し、訪日旅行者が日本のドラッグストアでマスクを買い漁っていた。日本と同じく“ぼったくり”も発生したが、EC企業がすぐに抑止策を打ち出し、2月の大増産で日本よりは手に入りやすくなっている。

主要EC企業連携、ブラック出品者を追放

mask

「マスク」関連のツイート(青)とニュース(紫)の推移。マスクは1月末と2月末の2度、ピークが見られる。

ユーザーローカル「新型コロナウイルス ニュース・SNS分析レポート」

中国はマスクをつけないと外出できない地域が多く、マスクをしていない人をドローンが発見し、スピーカーで「家に戻れ」と警告するところもある。春節明けには、企業も操業再開の条件として、従業員にマスク着用を求められ、マスク調達に奔走した。

感染への不安に地方政府の要求も加わり、1月下旬以降、マスク需要は高止まりしたままだ。武漢の深刻さが全国に伝わった1月20日、中国国内での店頭からマスクが消え、ECサイトでの価格は数倍に値上がり、今の日本とほぼ同じ状況になった。

これに対しEC最大手のアリババは即座に、出店企業に「値上げは許さない」と通知。違反を見つけると即刻削除するなどパトロールを強化した。

2月4日にはマスクを法外な値段で売ったり、虚偽表示・宣伝をした15社をアリババグループのECサイトから永久追放し、同業他社に連携を呼びかけた。

北京市の市場監督管理局は2月20日、アリババ、JD.com(京東商城)などEC主要5社と共同で、防疫物品の不当販売を防止する体制をつくると発表。ブラックリストの作成と違反企業の社名公表にも乗り出し、1つのサイトで違反した企業を5社全てのECから締め出すことを決めた。

中国のEC企業は中国消費のインフラを生み出し、経済に貢献してきたという自負を持ち、公共的な役割を担っているとの矜持もある。政府の判断や号令を待たず、1月中に市場価格の維持を図ったことに、商務部(日本の経済産業省に相当)は春節明けに謝意を述べた。

値上げのストアに罰金4600万円

北京

中国は湖北省以外の感染者が落ち着き、少しずつ日常を取り戻している(3月4日、北京)

REUTERS/Thomas Peter

市場監督当局は、マスクの不当販売や詐欺に行政処分を繰り出している。

1月には仕入れ価格の数倍で店頭販売した天津と北京のドラッグストアが、いずれも罰金300万元(約4600万円)を科された。

中国の警察当局は2月26日、使用済みや粗悪品マスクの販売、普通のマスクを医療用と偽る詐欺など防護物資の流通に関する犯罪で1560人を逮捕し、マスク3100万枚を押収したと報告した。

3月5日には、江蘇省の裁判所がSNSを通じてマスク詐欺を働いた男に対し、懲役8カ月、罰金6000元(約9万1000円)の判決を下した。男がだました相手は、医療が崩壊し甚大な被害が出ている湖北省に支援に向かっていた医療従事者の女性で、マスク1500枚を譲渡すると嘘をつき、5800元(約8万9000円)をだまし取った。

中国では“英雄”扱いされている湖北省の医療関係者に対する犯罪とあって、裁判の様子はインターネットで生中継された。

こういった見せしめ的な処分をもってしても、マスク絡みの悪質な行為は後を絶たない。日本政府はマスク転売に対し、5年以下の懲役または300万円以下の罰金を検討しているようだが、一定の抑止力になっても、マスクの価値が以前の水準に戻るまで転売はなくならないだろう。

iPhone工場も自動車工場もマスク生産

マスク工場

国営石油企業のシノペックはマスク原材料工場を2日で完成させると宣言し、工事現場を中継している。

Weiboより

武漢封鎖から1カ月半、中国のマスク供給体制はどうなっているのか。

アリババ創業者のジャック・マー氏が日本にマスク100万枚を寄贈したニュースが話題になったが、マー氏は3月、新型コロナウイルスが猛威を振るう韓国とイランにも、それぞれマスク100万枚を贈っている。日本からトイレットペーパーが本当になくなったとしても、頼めば100万ロールくらい送ってくれそうなすさまじい調達力で、“民間マスク外交”を展開している。

マー氏の動きからも分かるように、この1カ月、供給体制は急拡大している。

中国政府は3月2日、2月末時点でマスクの1日の生産能力が1億1000万枚に達したと発表した。2月初めと比較して、生産能力は5.2倍に拡大した。日本政府が備蓄するマスクは743万枚、その15倍を1日で生産できる計算だ。

シャープの親会社で、iPhoneの主要サプライヤーとして知られる鴻海精密工業は2月初旬、深センの工場でマスク生産を始めた。同社の従業員向けに1日200万枚を生産する。

自動車メーカーも生産ラインをマスク製造に転用した。

広州汽車は広州市政府の要請を受け、自社だけでなく市内の他社向けにもマスクを製造している。EV大手のBYDは3月4日時点で、1日の生産能力が200万枚に達した。同社は、医療機関向けの医療用マスクも生産する。

国営石油会社の中国石油化工集団(シノペック)は3月6日、マスクの原材料であるメルトブロー不織布の工場建設に着工した。1週間余りで建設された武漢の「火神山医院」にならって48時間で完成させると発表し、6日23時から8日23時まで、建設現場を生中継した。

スマホメーカーも自動車メーカーも、さらには石油メジャーもマスク生産に切り替えた甲斐もあり、北京の会社員、陳さんは「出社が始まった2月24日から、会社が1日1枚支給してくれるようになり、出勤の日は心配しなくてよくなった」とほっとした様子で話した。

河北省に住む大学院生の楊さんも、「店頭ではまだ手に入らないけど、ECで何とか買えるようになった」という。

ブロックチェーン活用したオンライン予約も

トイレットペーパー

日本んではマスクだけでなく、一時トイレットペーパーも店頭から消えた(3月4日撮影)。

REUTERS/Athit Perawongmetha

日本ではトイレットペーパーが足りなくなるというデマで、スーパーやドラッグストアに人が殺到したが、人が集まると感染リスクが高まるため、中国では、マスクの予約販売をオンラインで受け付け、指定場所で受け取る仕組みが徐々に広がっている。

中国・江蘇省の蘇州市では2月、マスク予約販売プラットフォームが開設された。ユーザー登録した市民は抽選に参加でき、当選者はマスクを5枚6.5元(約100円)で購入できる。

蘇州市はプラットフォームにブロックチェーンを活用し、ユーザー登録から抽選、当選通知の流れを透明化し、追跡できるようにした。

2月10日に抽選販売の受け付けを始め、その日だけでアカウント登録者は54万3384人に達した。システムはその後10万人の当選者を選び出し、マスクを販売したという。

中国人からマスクの贈り物

私は2月下旬、都内で中国人留学生の進路相談を受けた。初対面の中国人はこちらが戸惑うような高価なお土産を持ってくることがままあるが、24歳の彼も顔を合わせるなり紙袋をテーブルの上に置いた。中身は鍋用スープ2袋と5枚入りのマスク1パックだった。

2019年秋に来日したその男性は、片言の日本語で「一番喜んでもらえると思って」とマスクを私に差し出した。

そのマスクは私が1月25日、ドン・キホーテで198円で買ったマスクと同じ物だった。高価ではないが、今の日本で“プライスレス”な貴重品であるのは間違いない。男性によると、中国の実家に送るため、1月に買いだめしたものの一部だという。

「もう実家は、これ以上必要ないですから」

中国に余裕が生まれつつあることと、日本ではマスクも新型コロナウイルスの拡大も先行きが見えないことが、彼の言葉から伝わってきた。

(文・浦上早苗)

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
  • LinkedIn
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み