公共料金・学費の支払い不可能に。コロナでバイトなくなった大学生の悲鳴

学生

shutterstock/paikong

「飲食のアルバイトを2つ掛け持ちしていますが、新型コロナウィルスの影響で両方とも出勤がゼロになってしまいました。日雇いの派遣はどこも募集がなくなっていて、学費の支払いができません」

そう語ったのは都内の国立大学に通うMさん(女性、21歳)。

実家は裕福でなく、兄は高卒でフリーター。どうしても進学したいという旨を両親に告げると、学費を自分で払うなら、と条件付きで許可をもらった。そのため収入がなくなった今も両親に金銭的な援助を頼むことはできないと言う。

「社会人になって奨学金の返済に追われて自己破産、と言うニュースをよく目にしていて自分は借りずにいようと思っていましたが、それももう限界かもしれません」

近年目にすることの多い奨学金延滞による自己破産のニュース。

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奨学金を受給している学生の割合(H28年度)

日本学生支援機構「平成28年度学生生活調査」より作成

日本学生支援機構の調査によれば、奨学金を受給している学生は全体の約2人に1人。多くの学生が金銭面で豊かではない中で学業に勤しんでいる。

新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、中国人観光客の激減や年度末の宴会の自粛などで、多くの飲食店が営業縮小を余儀なくされている。営業縮小はアルバイトなどの勤務時間短縮に直結し、多くの大学生アルバイト達がシフトに入りにくくなっている。アルバイトを生活の糧にしている学生にとっては大きな痛手である。

2週間の休校で塾も授業なしに

安倍首相

第15回新型コロナウイルス感染症対策本部で発言する安倍首相。

出典:首相官邸公式ホームページより

筆者(男性、私立大学、20歳)は普段、東京都内の個別指導塾で、アルバイトの塾講師として小中高生に数学を教えているが、3月2日に授業がなくなるという知らせを、業務用LINEグループで受けた。2月27日に行われた安倍首相による全国への一斉休校要請を受けてのものだった。

同じ校舎で講師として働く友人の中には、生活費を塾のアルバイトで賄っている人もいる。だが、学生アルバイトには休業中の手当ては出ない。

Twitter上でもコロナウイルスでアルバイトなどがなくなり、生活に大きな影響を受けていると嘆く学生のツイートが散見された。

筆者がSNS上で大学や高校時代の友人達に、「アルバイト関連で困ったことがないか」と投稿し呼びかけてみると、多くの人から実情を聞くことができた。

2月に2週間の休園を発表した千葉県内にあるテーマパークでアルバイトしているGさん(男性、国立大、20歳)は、休園に関して一般の人と同様に報道で知ったという。

会社は発表前日まで「今のところ休園の予定はない」と説明をしていたので、寝耳に水だった。

「従業員は休業補償として、休業期間に受け取るはずだった給与の6割が会社から支払われる。でも当然収入は減り、特にキャストとしての仕事だけで生活している人は、かなり生活に打撃があると思う。学生キャストも同様、春休み期間は出勤日数が増えて稼ぎどきだったので困惑している」

インタビュー当時、Gさんの勤務先のテーマパーク運営会社は3月15日までの予定だった休園を延長。再開日は4月上旬となると公式ホームページで発表した。

休業3日前に一方的に連絡

学生

非正規雇用の学生バイトは出勤が出来なければ収入はゼロに(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

北海道在住、飲食店でアルバイトをしているTさん(男性、国立大、20歳)の勤務先では、営業こそ続けているものの、客足が激減したことで出勤は社員数人のみとなり、アルバイトは一切、シフトに入れなくなってしまったという。

ライン

実際にTさんのところに送られてきたLINE。

神奈川の大学に通うKさん(男性、国立大、20歳)は、同じく飲食店でアルバイトをしているが、客足が遠のいたことで突然営業を休止することになった。営業休止の3日前に、出勤できない旨を聞かされたという。

「(自分は)生活面で困らないが、周りのフリーターの友人は生活費がなかったり、外国人のバイトの子は母国に仕送りができないと困っていた。会社の対応としては出勤できない間に有給の消化を促すことぐらい。あとは同じ会社の清掃部門とかに派遣で行くことぐらいだけれど、それも人数制限があるから、実質手当もなしに休まされている感じ」と、回答してくれた。

その他、実際に寄せられた大学生アルバイトの声として

  • 「出勤直前に営業休止連絡。バイト先までの交通費すら負担無し、来月のクレカが払えない」(塾講師、20歳)
  • 「一斉休校の要請により春休みが明けるまでシフトゼロ」(小学校野球部監督、20歳)
  • 「高校でのバイトだから休校で仕事が無くなった」(高校学習メンター、21歳)
  • 「始めたばかりのバイト先から電話で『経営が厳しいために、このバイトをやめて別の仕事を探してほしい』と店長から伝えられた。長く続けたバイトをやめて始めたバイトだったので困る」(飲食、20歳)

大学生の貧困問題は顕在化しただけ

OECD

経済協力開発機構(OECD)が2017年9月12日に公表した公立大学の学費の一覧。

Mike Nudelman/Business Insider

今回のコロナ危機を受けて、多くの大学生が不安の声を漏らしているが、経済的な問題は今に始まった訳ではない。今の日本で、学業と両立して学費や家賃、生活費の支払いのためにアルバイトを掛け持ちする学生がうつ病になってしまったり、大学を中退せざるを得ない状況に陥ってしまったりというニュースは後を絶たない。

OECDのレポートによると、OECD加盟国のおよそ3分の1は公立の授業料が無料で、10カ国で(年間)4000ドル(約45万円)以下となっている。一方で、日本はアメリカやチリに次いで大学の学費が高い。この学費の高さも、学生の負担を大きくしている。

新型コロナウイルス感染拡大によるアルバイト切りや無期限の休業は、日本の半分の学生が奨学金を受給しており、多くがアルバイトで生活や学費をまかなっているという厳しい現実を、改めて浮き彫りにしている。

(文:臼井拓水)

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