コロナ不況「インバウンド売上減」で地獄の様相。観光・百貨店は直撃、家電量販店は3月10日に大勢判明

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3月2日、新型コロナウイルスの影響を受けて、通期の売上高予想を1250億円下方修正したエイチ・アイ・エス(H.I.S)のウェブサイト。

Screenshot of H.I.S website

新型コロナウイルスの未曾有の影響が企業の業績にも影響し始めた。

旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)は3月2日、2020年10月期通期(2019年11月1日〜20年10月31日)の連結業績予想を下方修正。売上高が従来の9000億円から7750億円(▲13.9%)に、営業利益は193億円から17億円(▲91.2%)へと大幅に減るとの見通しを明らかにした。

新型コロナウイルスの影響以外に、ハウステンボスのイベント改善などによる入場者数の増加施策が思うように進捗していないことも、下方修正の理由とされている。

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HISの2020年10月期の業績予想。1株あたりの純利益が10分の1という苦しい下方修正に。

出典:2020年10月期 第1四半期 決算補足説明資料

ただ、セグメント別の業績予想をみると、ハウステンボス事業の下方修正が売上高で50億円、営業利益でも51億円であるのに対し、メインの旅行事業の下方修正は売上高で1260億円、営業利益で12億円とケタ違いであり、大半は新型コロナウイルスの影響だったことは明白だ。

旅行業「一本足打法」に危険信号

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国内最大級のレストランクルーズ船を運行するルミナスクルーズ(神戸市)は、民事再生法の適用を申請。

Screenshot of Luminous Cruise website

同じ旅行分野では、国内最大級のレストランクルーズ船を運行するルミナスクルーズが、新型コロナウイルスの感染拡大によるキャンセルの増加を受け、3月2日に民事再生法の適用を申請。

翌々日の4日には、沖縄県の旅行大手・沖縄ツーリストが従業員体制を4割縮小したことが分かった(日本経済新聞、2020年3月4日付)。政府の雇用調整助成金制度を使い、毎日250名ほどを雇用継続のまま3月末まで休ませる。

同日、日本旅行業協会が発表した個人旅行の予約状況調査(主要7社を対象)によると、3月は前年度比34%減、4月は同50%減、5月は同30%減という。

HIS以外は未上場企業が多く、業績の下方修正など今後の見通しは表に出てこないため、ウイルス感染拡大の影響は把握されている以上に広がっている可能性もある。

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海外旅行領域では新型コロナウイルスの影響が出始めているとしながら、国内旅行事業や投資事業でカバーできるため通期の業績予想を変更しないと発表したエアトリの資料。

出典:2020年9月期 第1四半期 決算説明

一方、この厳しい環境下で息巻く企業もゼロではない。旅行予約サイトのエアトリ(旧エボラブルアジア)だ。

同社は2月14日に2020年9月期第1四半期(19年10〜12月)の決算を発表。新型コロナウイルスの影響による「通期営業利益予想の修正なし」とした上で、海外旅行でのマイナス影響は拡大しているものの、それを国内旅行領域と「その他事業領域」でカバーできるとの見通しを明らかにしている。

エアトリは本業の旅行分野以外に、ベトナムでのシステム・ゲームなどオフショア開発事業、メルマガ「まぐまぐ」などのライフイノベーション事業、その他の投資事業を展開。投資事業では最近、コミュニケーションツールのAI CROSSを新規株式公開(IPO)に導くなど、旅行分野に軸足を置きながらも、リスクの高い「一本足打法」を回避する戦略をとっている。

東京・大阪エリアで百貨店苦境

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大丸松坂屋などを擁するJ.フロント リテイリングの2020年2月度店舗別売上高(対前年増減率)。すべての店舗に前年同月比マイナスを意味する▲が。2月はふた桁の減少が大半。

出典:2020年2月度 J.フロント リテイリング百貨店事業売上速報(日本基準)

新型コロナウイルスの影響は、旅行分野の延長上でインバウンド(訪日観光客)需要の恩恵を受けてきた企業の業績にも影を落としはじめている。その最たる例が百貨店業界。3月2日に各社が発表した2020年2月度の売上速報には、心配になる数字が並んだ。

大丸松坂屋などを擁するJ.フロント リテイリングは、2月の百貨店事業の売上高が前年同月比で21.4%減少。2019年に新本館をオープンさせた大丸心斎橋店を含め、各店舗が軒並み10%以上売り上げを減らしており、とりわけ免税売上高が同75%も減っている(※上の表には記載なし)ことから、訪日観光客の減少が業績低下に直結したと言っていいだろう。

阪急阪神百貨店を傘下に置くエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングも、2月の既存店売上高が前年同月比で14%減少。新規出店のおかげで全店舗計は同1.2%減で済んだものの、インバウンド売り上げは同68%減だった。とくに旗艦店である阪急(うめだ)本店のインバウンド売り上げは同73%減、苦しい結果となった。

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三越伊勢丹ホールディングスの2020年2月の売上速報。訪日観光客に人気の三越銀座店、早々に緊急事態宣言が出た札幌丸井三越の不調が目立つ。

出典:三越伊勢丹ホールディングス 2020年2月(国内百貨店事業)売上速報

三越伊勢丹ホールディングスは、新型コロナウイルスの影響が広がり2月末に緊急事態宣言が出た北海道(札幌丸井三越)で、売り上げが前年同月比24.9%減。また、インバウンド需要の大きい三越銀座店が36.2%減、三越日本橋本店が15.9%減、伊勢丹新宿本店も10.4%減とふるわなかった。国内店舗の合計も16.4%減と、2019年9月の消費増税直後並みの落ち込みとなった。

ドラッグストア大手は郊外型店舗が元気

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東北エリアのツルハドラッグ店舗。同社は総合スーパー大手イオンが13.05%出資するグループ会社だが、本社は札幌のまま独自路線を歩む。

Terence Toh Chin Eng / Shutterstock.com

ここ数年、インバウンド需要で大盛況が報じられてきたドラッグストア業界はどうか。

ドラッグストア最大手のツルハホールディングスは2月28日に2020年2月の営業速報を発表。既存店の売上高は前年同月比7.1%増と、新型コロナウイルスの影響を感じさせない結果となった。北海道・東北・関東甲信越を中心に展開する同社だが、地方ないしは郊外型の店舗も多く、都心型店舗のインバウンド売り上げ減少をカバーできたとみられる。

ツルハと同じイオングループで、業界第2位のウエルシアホールディングスも状況は同じだ。3月6日に発表した月例報告では、既存店の売上高が20.6%増と大幅に伸びた。都心型の店舗数も増えてはいるものの、イオンなど大型ショッピングセンター内を含む郊外型の店舗が比較的多いため、インバウンド需要には左右されにくい。

一方、業界7位ココカラファインと業務提携し、2021年10月にも経営統合して業界首位に返り咲くマツモトキヨシホールディングスは、「都市及び都市周辺部に多くの店舗を展開する」(同社プレスリリース、1月31日付)特徴をもつドラッグストア。インバウンド重視の姿勢をとってきた同社は、まだ2月の売上月次報告を発表しておらず(3月8日時点)、数字が注目される。

また、調剤薬局最大手のアインホールディングスは、3月4日に2020年4月期通期(2019年5月1日〜20年4月30日)の決算予想を下方修正したと発表。消費増税の反動減と新型コロナウイルスの影響により、売上高は71億円減(▲2.4%)、営業利益が22億円減(▲11.8%)を見込むという。

アインは調剤薬局中心(1101店舗)で、インバウンド需要のかかわるドラッグストア事業(62店舗)の売上高に占める割合は低く、この程度の下方修正で済んでいるという見方もできるかもしれない。

家電量販店への影響は3月10日に見えてくる

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家電量販店業界2位のエディオン(写真は東京・秋葉原の店舗)。新型コロナウイルスのマイナス影響はこれから見えてくる。

Keith Tarrier / Shutterstock.com

最後に、家電量販店。

中国人観光客を主要なターゲットのひとつに据えてきたラオックスにとって、新型コロナウイルスの影響はすでに死活問題となっている。

同社は2月14日、全従業員の2割ほどにあたる(グループ合計)160人程度の希望退職者を募集。同時に、沖縄や北海道、鹿児島、大阪などの免税店を2月から順次閉店、新宿本店などでは一時休業の措置をとっている。

業界首位のヤマダ電機、同2位のエディオンなどの家電量販店大手は、新型コロナウイルスに関する発表をいまのところ行っていない。しかし、感染拡大防止対策として営業時間の短縮を発表していることから、売り上げ減など何らかのマイナス影響が出てくる可能性が高い。

家電量販店は毎月10日に月次売上速報を公表するところが多いので、3月10日の情報開示に注目したい。

ただし、2019年1月に中国電子商取引法が施行され、海外で購入した商品の転売が(刑罰の明記などで)厳しく規制されたことから、数年前に流行した「爆買い」は少なくとも家電分野ではすでに下火になっている。中国人団体客を重視した営業を行っていたラオックスほどの影響が、他の家電量販店にも出てくるのかどうかは、現時点では何とも言えない。


森泰一郎(もり・たいいちろう):森経営コンサルティング代表。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。戦略コンサルティングファームを経て、ITベンチャー企業にて経営企画マネージャーを担当。M&Aや経営企画、事業企画、業務改善に従事。中堅企業にて取締役CSOとして経営企画と戦略人事、新規事業開発を担当。現在は大手上場企業から中堅・中小ベンチャー企業まで、成長戦略の立案、M&Aコンサルティングを行う。

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