「歌姫」リアーナはボディガードを従えて登場するシーンの多いセレブとして知られる。
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- 富裕層はもともと私生活を秘密にしておきたがるもの。しかし、最近はテクノロジーの監視から身を守るため、さらなるプライバシー保護を求めている。
- いつでもネットにつながる時代、安全のために「人目につかない生活」を選ぶセレブもいる。
- 「セレブや著名経営者たちは、自宅にいても旅行をしていても、世間の目を避けることに余念がない」と、富裕層向けセキュリティの専門家は指摘する。
40万ドル(約4400万円)のド派手なピンクのランボルギーニに乗った女性ラッパーのニッキー・ミナージュに、4000万ドル(約44億円)のプライベートジェットから降りてくる投資家のマーク・キューバン。いずれも典型的なセレブのイメージだ。
だが、いつでもネットにつながる時代になり、なかには安全確保のために「人目につかない生活」を選ぶセレブもいる。
富裕層向けにVIP警護サービスを提供するセキュリティ企業、ギャヴィン・ディー・ベッカー・アンド・アソシエイツ(GDBA)上級副社長のゲーリー・ハウリンは、Business Insiderにこう語った。
「以前はプライバシーに関する懸念といえば、不正な銀行振り込みやクレジットカード利用などの金銭的損失がメインでしたが、いまやソーシャルメディアなどを通じて個人に関する情報が手に入るようになり、セレブの住所を調べたり、活動情報から推測したりして、本人に遭遇することもできるようになりました」
その結果、富裕層は豊かさを誇示することに慎重になっている。
お騒がせセレブのキム・カーダシアンが良い例だ。「セルフィーの女王」として知られる彼女は、インスタグラムやリアリティ番組で豪華なダイアモンドを見せびらかしていた。
キム・カーダシアンは2016年に強盗・監禁事件の被害者になった。
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だが2016年、銃を突きつけられて1000万ドル(約11億円)相当以上の宝飾品を奪われるという強盗被害に遭ってからは、富豪であることを以前ほどアピールしなくなった。つねに警護をつけ、ソーシャルメディアの写真は控え目になり、宝石をいくつも身につけて公の場に出ることもなくなった。
もっとも、そうした身の毛もよだつような事件に巻き込まれるまでもなく、セレブたちは用心深く行動している。
フェイスブック最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグや、ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソンなどビジネスで成功した大富豪は、少なくとも一般大衆に対しては私生活をある程度秘密にしている。女優のジェニファー・ローレンスやメリッサ・マッカーシーのようなセレブでさえ、富をことさらに誇示するのを慎んでいる。
セレブは自宅にいても世間の目を避ける
不動産サービス会社サヴィルズのプライベートオフィス部門の責任者デビッド・フォーブズは、英紙フィナンシャル・タイムズのケイト・アレン記者にこう語っている。
「富裕層がそのリッチぶりをこれ見よがしに誇示していた時代もありましたが、いまは違います。富裕層の優先事項はこの数年で間違いなく変化しました。いま最優先とされるのは、何より安全なのです」
セレブたちはいまでも船や飛行機に大金を費やしているが、富を誇示して注目されたいとは思っていないと、フォーブズは指摘する。世間に気づかれない生活を選ぶようになり、その傾向はさまざまな面で見られるという。
例えば、GPSで住居を特定されるのを防ぐために妨害電波を使うとか、地図から住居を消去するとかがそれだ。さらに、地下に住宅を設計するか、外から見えない設計の住宅を地上に建てるなどして建物自体を隠す方法もある。
こうしたプライバシー対策は決して安くはない。2019年、とある地下の邸宅が1億8500万ドル(約200億円)で売りに出された。また、住宅に贅沢なパニック・ルーム(=緊急避難用の小部屋)を設置すると、50万ドル(約5500万円)かかることもある。
Business Insiderがすでに記事にしているように、銃による暴力の増加を受け、富裕層の間でパニック・ルームの人気が高まっている。
ボディガードを従えたラッパーのドレイク。彼が買った邸宅のあるカリフォルニア州ヒドゥン・ヒルズの詳細はストリートビューでは見えない。
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そもそも、セレブたちはグーグルの撮影車両が入れない高級住宅街に住んでいるため、住居がストリートビューに出てくることはない。
米誌ヴァニティ・フェアによると、ポール・マッカートニーの邸宅はストリートビューに表示されない。キム・カーダシアンと夫のカニエ・ウエストや、歌手のリサ・マリー・プレスリー、ラッパーのドレイク、女優のマイリー・サイラスなどのセレブが住むカリフォルニア州ヒドゥン・ヒルズも同じだ。
米PGAツアーに出場する数多くのゴルフ選手が住み、住宅の平均価格が320万ドル(約3億5000万円)というジョージア州シーアイランドにピンをドロップしても、ストリートビューには何も出てこない。
前出のサヴィルズのフォーブズによると、ダミー会社をかませたり、物件の所有構造を重層化したりすることで、不動産の真の購入者名を伏せることができるのだという。
また、フォーブズはホームセキュリティにかける費用が増加しているとも指摘する。前出のセキュリティ会社GDBAが提供するセキュリティサービスは、非常にレベルが高い。
(GDBA上級副社長の)ハウリンによれば、住宅用セキュリティの一環として、専用の警備施設や精巧な早期警戒システムが用意され、不審者の侵入を防ぐために厳重な出入り制限が行われる。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、2020年に会社から1000万ドルのセキュリティ手当を支給されている。
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「成功を収めた著名な企業トップであれば、セキュリティとプライバシーを守るパッケージプログラムに年間数百万ドル以上かけるのは、ごく当たり前のことなんです」
フェイスブックは2020年、ザッカーバーグとその家族のセキュリティ費用として年間1000万ドル(約11億円)の手当支給を承認した。前年より300万ドル(約3億3000万円)近いアップだ。
旅行中のプライバシーとセキュリティ
セレブたちのセキュリティ対策は自宅に限ったことではない。旅行に出かけるときも当然手段を講じている。
「もしいま南フランスでベントレーのオープンカーを走らせるとしたら、それは自らトラブルを招くようなもの。別荘に戻るころには、数台のスクーターが後ろを追ってくるでしょう」
多くの大富豪が高級車に乗るのを避けるのは、おそらくこれが一因だろう。
ザッカーバーグはホンダのアキュラTSXやフィット、フォルクスワーゲンのハッチバックカーに乗っているところを目撃されている。いずれも3万ドル(約330万円)かそこらの大衆車だ。
ウォルマート後継者のアリス・ウォルトンは世界で最も裕福な女性と称されるが、乗っているのはフォードのピックアップトラック(キングランチ、2006年式)で、CNBCによると販売価格は4万ドル(約440万円)ほど。
さらに、アメリカ横断や外国旅行となると、クルマとは別の試練が待ち受ける。GDBAは綿密なロジスティクス計画と忠実な遂行でそのニーズに対応する。
セレブがホテルに宿泊するときは、別名義で事前にチェックイン可能で、なおかつ人に知られずに出入りできることが求められる。GDBAのハウリンは言う。
「当社のクライアントがフロントでチェックインする姿を人に見られることは決してありません。また、公共スペースを通り抜けることもありません」
GDBAはロサンゼルス空港内のVIP専用ターミナル「プライベート・スイート」を運営し、富裕層は空港利用の際のプライバシー保護のためにおよそ4500ドルを払う。このなかには、専用車による駐機場への送迎やボディガード、専用の保安検査場の利用料も含まれている。
専用ターミナルを取材したBusiness Insiderの記事によれば、「最高級のプライバシー保護、セキュリティ、アメニティが提供される、安全で快適な隠れ場所」だ。
ロザンゼルス空港で富裕層、経営者、セレブらに完璧なセキュリティとプライバシーを提供するVIP専用ターミナル「プライベート・スイート」。
Courtesy of The Private Suite
だが、通常の旅客機を使わないとなると話は変わってくる。
登録されているすべてのジェット機には、個人所有のジェット機を含めて固有の機体記号が付与されているため、どうしても特定されるおそれがある。
オンデマンドでプライベートジェットを運行するXOJET(エックスオー・ジェット)によると、大富豪や経営者、セレブはプライバシー保護のため、オンデマンド・チャーター便にシフトしつつあるという。同社の商用運航部門トップのジェームズ・ヘンダーソンはこう教えてくれた。
「世間に自分の行動を知られたくないセレブも、チャーター機であれば行き先によって機体がランダムに振り分けられるので、追跡できなくなります」
米旅行誌トラベル・アンド・レジャーによれば、俳優のジェイミー・フォックス、歌手のファーギー、キム・カーダシアンは、オンデマンド・チャーター機を使っている。
そのコストは決して安くはない。XOJETの場合、ニューヨークからロサンゼルスの片道料金は2万5000ドル(約275万円)。だが多くの富裕層にとって、プライバシーには金で買えない価値があるのだ。
(翻訳:山崎恵理子、編集:川村力)