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アメリカでも広がる日本人への「警戒感」。日米の間にある危機感格差

救急車に運び込む人

ワシントン州の長期介護施設から患者を救急車に運ぶスタッフ。この施設では複数の感染者が確認されている(2020年3月3日撮影)。

REUTERS/David Ryder

アメリカでも新型コロナウイルスの感染拡大が広がっている。

ニューヨークでもマスク、トイレットペーパー、アルコール消毒剤などが、売り切れになってきた。

さらに、「日本人」を含むアジア人関連のイベントや企業には厳しい目が向けられ、フリーランスなどの収入にも影響が出ている。時には差別的な言葉をぶつけられることさえある。

筆者が住むニューヨーク州のクオモ州知事は3月1日、Twitterでニューヨークでの感染者第1号を発表。3月8日(米東部時間)までに州内の感染者は106人と、日々倍増している。

感染者数の拡大につれ、ニューヨーク市内でも本格的に「買いだめ」が急速に広がり、パニックが始まった。

震災チャリティーコンサートも中止

スーパーマーケットの棚

スーパーでは消毒用アルコールが売り切れていた(ニューヨーク州クイーンズ区で)。

撮影:津山恵子

3月11日にニューヨーク市のカーネギーホールで開かれる予定だった東日本大震災・津波の被害者を支援するチャリティ・コンサート「2020ニューヨーク・コーラス・フェスティバル」は3月6日、中止が発表された。日本からの出演者が予定されていたが、日本などの指定諸国から渡米する人は、入国後2週間を経ないとカーネギーホールに立ち入ることはできないという通知があったためだ。

ニューヨーク市はこの日、日本や中国、韓国、イラン、イタリアから帰国した市民に2週間の自主隔離を求めると発表している。カーネギーホールは、これを渡米する日本人に適用した判断だ。

一方、日本人が関係していないチェリストのヨー・ヨー・マらによるベートーベン生誕250周年記念コンサートなどは3月8日現在、開かれ、ほぼ満席となっている。

大統領選の記者証が交付されない

スーパーチューズデーの民主党候補争いに勝利したジョー・バイデン氏。

日本人への“警戒感”が筆者の大統領選の取材活動にも影響が出ている。

REUTERS/Mike Blake

他にも、ニューヨークに住む日本人には、想像もしなかった影響が表れている。

フリーランスのビデオグラファー、柏原雅弘氏によると、取材を申し込んでいたイベントの主催者から「日本から来た日本人と過去2週間接触していないことを条件に、取材に来ていい」と言われた。クルー全員がニューヨークに住んでいることは知っているにもかかわらずだ。

通常は引き手数多の柏原氏ですら、「3月は仕事の98%がキャンセルになった」という。しかし、「座して死を待つのではなく、現地にいる私たちだけでできる企画を持ち込んでいく」と話す。

大統領選や予備選挙の取材にも影響が出ている。

筆者は、3月15日に西部アリゾナ州フェニックスで開かれる民主党予備選挙候補者のテレビ討論会に取材を申し込んだが、理由はなく記者証が交付されなかった。ニューヨーク在住で、2月までは記者証は交付されていたにもかかわらずである。

日本から帰国、渡米していなくても、「日本人」であることを理由に、取材あるいはビジネスを断られる段階に入った。

イベント中止で仕事がなくなるフリーランス

大きなイベントの中止も痛手だ。

毎年「国際女性デー」に合わせて開かれる国連の女性の地位委員会(CSW、3月9日〜)は3月2日、中止となった。国連加盟国から約1万2000人が集まる大イベントで、今年は1995年の世界女性会議で「北京宣言・行動綱領」が採択されてから25周年を記念するはずだった。中止は、グテーレス国連事務総長と世界保健機関(WHO)の勧告に従ったものだ。

大きなイベントが中止に追い込まれ、取材対象すらなくなっている。アメリカのアーティストやオーケストラが訪日を中止したため、訪日前の原稿を仕込んでいたフリーランスのライターやフォトグラファーも仕事がなくなった。日本人だけでなく、中国人、韓国人のフリーランスなどへのダメージも大きい。

危機意識が薄いと見られる日本人

ウイルス対策を知らせる掲示板

地下鉄駅の掲示板には、ウイルス感染拡大を防ぐために個人ができる対策が表示されている。

撮影:津山恵子

にもかかわらずだ。

ニューヨークへの航空券やホテルが安くなっているせいか、日本から来た知人数人からメッセージが来た。

「ニューヨークにいます。食事でもしませんか」

ニューヨーク市が日本を含む5カ国からの帰国者に2週間の自主“隔離”を求めた3月6日以前に来てしまった人ももちろんいる。

ただ、ニューヨークの自主隔離の措置や、アジア人に対する影響が及んでいることが日本ではあまり知られていないし、徹底されていないように感じた。

日系企業は次々と在宅勤務に入っているが、こんな声も聞いた。

「日本への出張から帰ってきた駐在員が翌日には出社して、手洗いや共同のキッチンを使っている。地下鉄やタクシーで出勤しているに違いない。アメリカ現地社員からは、『危機管理意識がない』と冷たい目で見られている」

日本からの出張者や観光客、出張から帰って来た駐在員の行動を当局が知ったら、ますます日本からの渡航や帰国に対し制限が強化されるのではないかと危惧する。

米疾病対策センター(CDC)は、日本以外の4カ国に最も厳しい第3級の渡航注意情報を出して「不必要な旅行は控える」としているが、日本については「予防策を強化する」という第2級に留めている。

だが、日本はクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナウイルスの集団感染が起きた際、対応や対策が後手に回ったことで、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどアメリカメディアから連日批判を受けていた。日本への印象が悪化しているのは間違いない。

ニューヨーク州では緊急事態宣言

コロナ感染者数

ジョンズ・ホプキンス大学が米国会議事堂で行った、コロナウイルス感染状況の説明(2020年3月6日撮影)。

Getty Images/Samuel Corum

日本の対応と比較するためにも、ニューヨーク州とニューヨーク市の対応を整理してみる。

3月1日 クオモ州知事が州内初の感染者を発表。感染者が接触した人物を把握。CDCからの認可を得て、民間病院で州内1日1000件の検査ができる体制を発表。

3月4日 クオモ州知事が、日本に留学中のニューヨーク州立大、ニューヨーク私立大の学生約300人をチャーター機で帰国させると発表。感染した2家族が住むウエストチェスター郡で、感染の可能性がある約1000人に自宅待機を命じる。

3月6日 ニューヨーク市が日本、中国、韓国、イラン、イタリアから帰国した市民に2週間の自宅待機を求めると発表。

3月7日 クオモ州知事、緊急事態宣言を発動。これによって州が対策のために新規雇用をしたり、必要な資材の調達ができる。老人ホーム、養護施設などへの部外者が訪問するのを禁止。

アメリカは州など地方自治体の権限が強いため、場所によって対策は異なる。

一方、トランプ米大統領は、ペンス副大統領をリーダーとした対策チームを立ち上げた。共和党やその支持者は、トランプ政権は新型コロナウイルス対策を迅速に進めているという「事なかれ」の評価をしており、そのために政権の反応が鈍いという批判もある。

人種、出身を理由にハラスメントするのは違法と書いてある地下鉄駅掲示板

ニューヨークの地下鉄駅内の掲示板。人種や出身を理由に嫌がらせを行うことはニューヨーク市の法の下では違法であると表示されている。

撮影:津山恵子

こうした対応が影響してか、アメリカでもアジア系の容姿だったり、マスクをしていると、攻撃対象になっている。アジアと異なりアメリカでは、マスクは「予防」ではなく、病気にかかっていると思われ、嫌がられるからだ。

筆者が地下鉄駅でマスクをしていたら、中年女性がこう叫んで、ピューッと逃げていった。

「この人は、私たち車内の人全員にうつすつもりかしらね」

ポーランド人のスーパーに買い物に行ったら、つたない英語で「何でここにいるのか」と尋ねられた。マスクはしていなかったし、以前も何度も訪れていたが、ほぼポーランド人しか行かない店であるため警戒されたのだろう。

ガーディアンによると、ロサンゼルスではタイ系アメリカ人女性が、車内で男性に「中国のせいでコロナウイルスが広がっている」と怒鳴られたという。

アメリカ全体での新型コロナウイルスは3月8日(米東部時間)までに19州で報告され、感染者数が515人、死亡者は11人に上る(米疾病対策センター=CDCによる)。

(文・津山恵子)

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