ユニリーバ・ジャパンが履歴書から顔写真などを排除。採用活動で性別への偏見をなくす

3月8日の国際女性デーを前にしたタイミングで、日本でも、採用における性別のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に対応する企業が現われた。

ユニリーバの取り組み

ユニリーバ・ジャパンは2020年度の採用活動より、顔写真の提出や応募者への性別に関する一切の項目を排除していき、個人の適性や能力のみに焦点を当てた採用をしていと発表した。

出典:ユニリーバ・ジャパン

ユニリーバ・ジャパンは、社会で無意識に生じる性別や容姿への先入観を取り払うために、あらゆる採用選考から、性別に関する項目や顔写真の提出を排除すると発表した。

同社のブランドの一つ、ラックスが、国内で採用活動の書類審査を担当する会社員や会社経営者400人以上を対象に行った調査では、採用において性別への先入観が無意識に存在することや、履歴書のスクリーニングの段階で、履歴書に貼る写真が、合否に影響していることも明らかになったという。

このようなアンコンシャス・バイアスは、社会や環境によって無意識に醸成される考え方であるため、紐解くのは簡単ではない。

アメリカのオーケストラで変えたこと

オーケストラ

アメリカの5大オーケストラで、審査の仕組みを少し変えたところ、女性演奏者の審査通過率が50%も増加した。

Shutterstock/Stokkete

1970年、アメリカの5大オーケストラにおける女性演奏者の割合は、5%以下にとどまっていた。しかし、1970~80年代にかけて、オーケストラの入団審査で演奏者の容姿がわからないよう、カーテンを導入した。すると、女性の演奏者の審査の通過率が50%も増加し、最終的に多くの女性が採用される結果となった。

本来オーケストラ側も、性別に関係なく、最も優秀な演奏者を採用したいはずだ。しかし、性別に対するバイアスにより、その判断が難しくなっていた。カーテン導入という、わずかな仕組みの「介入」により、バイアスを修正できたと言える。

重要なのは、積極的に差別しようと思っていなくても、無意識な先入観や考え方に左右されることがあると、まずは自覚することだ。

同じキャリア、同じ経歴でも

ハーバード大学など多くのビジネス・スクールは、性別やジェンダーのバイアスを学生が“体感”できるよう、ある有名な実験を活用してきた。

教室の半分の学生には、シリコン・バレーでベンチャー・キャピタリストとして活躍するHeidiという女性のキャリアのストーリーが配られる。もう半分の学生に対しては、内容は同じだが、主人公のHeidiの名前をHowardという男性の名前に変えたストーリーが配られる。

主人公は、同一のキャリアを持ち、性別だけが異なるのだ。学生に主人公の評価を聞くと、男性(Howard)として描かれた場合は、有能で一緒に働きたいと思われたが、女性(Heidi)として描かれた場合は、有能だが自己主張が激しく、一緒に働きたくない人物とみなされた。全く同様の能力の男性と女性でも、周囲の捉え方が変わることがわかる。

アメリカで行われた別の研究では、女性は職場で自信と謙虚さのバランスをとらなければ、バックラッシュ・エフェクト(反発の効果)が起きてしまうことが示されている。自信がありすぎると捉えられると、女性のあるべき姿に当てはまらないとして、周囲の反発が起きるのだ。

これらは無意識の偏見であり、女性を決して差別しようと思っていなくても、起きてしまう。では、どのようにすれば、少しでもこのようなバイアスを減らすことができるのだろうか。

重視される「企業文化」への適応

分断された男女

社会学者のローレン・リビェラ氏が、投資銀行やコンサルティング企業などの採用プロセスを研究したところ、候補者の評価を左右したのは、「企業文化に合うかどうか」だったという。

Shutterstock/Robert Kneschke

筆者はハーバードの大学院に留学していた際(2015~2017年)、行動経済学でこのようなバイアスを取り除くことを提唱するイリス・ボネット教授の下で学んだ。

採用、評価、昇進判断など、組織のあらゆる人事プロセスで、いかにバイアスを取り除いて、最善の判断をくだせるか。ボネット教授の初回の授業で紹介されたのが、上記のオーケストラの例だった。オーケストラでカーテンを導入したことは、行動経済学的な「デザインの介入」である。

このような「デザインの介入」は、採用活動ではとても重要だ。

ユニリーバ・ジャパンのように個人の適性や能力にフォーカスできるよう、性別・ジェンダーに関する項目や顔写真の提出を排除することは、ひとつの「介入」だといえる。ちなみに、アメリカでは年齢、性別、人種などによる雇用差別は法律で禁止されているため、これらの情報を聞くことや、予測を可能とする写真の提出は違法にあたることが多い。

採用でバイアスを除くためには、面接手法の工夫も重要だ。

社会学者のローレン・リビェラ氏が、投資銀行やコンサルティング企業などの採用プロセスを研究したところ、候補者の評価を左右したのは、「企業文化に合うかどうか」だった。すでに働いている従業員の経歴や趣味に、候補者が似ているかどうか、ということだ。採用担当者の半数以上が、この「企業文化と合うかどうか」という点が、コミュニケーション力や分析的思考力よりも重要だと話したという。

日本の企業では正社員に占める女性の割合は26%、管理職における女性の割合は 11.8%に留まっている(平成30年度雇用均等基本調査)。意思決定層に偏りがある中でつくられてきた「企業文化」には、注意が必要だ。

男性中心で醸成された企業文化に「合う」人は、男性となる可能性が高い。女性の採用やダイバーシティを推進しようという意思があっても、女性を無意識にも排除してしまう危険性がある。

面接の方法を構造的に変えてみる

面接

面接の方法を変えると、本当に自社に必要な能力の人を見極められる。

Shutterstock/metamorworks

「企業文化」との相性を重要視すること自体は悪くないが、その「文化」とは何か、採用過程でしっかりと項目として洗い出さなければ、フィーリングやアンコンシャス・バイアスに引っ張られてしまうリスクがある。

最も必要としている能力を持つ人材を採用するには、採用チームでどのような項目が重要か、共通認識を持たなければならない。面接も自由質疑ではなく、あらかじめ評価基準や質問項目を決めて、手順通りに実施する構造化面接に変える「介入」が有効だとされている。

具体的にはまず、面接担当者の数や担当者の人種や性別の内訳を決める。そして、面接で尋ねる質問項目と配点を事前に決定する。グループ面接は避けて、1人ずつ面接する。面接中は、すべての候補者に同じ質問を同じ順番で聞き、質問項目ごとにその都度、点数をつける。

面接の後は質問項目ごとに、すべての候補者の解答を比べて、事前に決められた配点に従って、合計のスコアを算出する。意見の分かれる候補者についてはさらに協議する、という手順だ(イリス・ボネット、「WORK DESIGN:行動経済学でジェンダー格差を克服する」より)。

仕組みから性別・ジェンダー格差の是正を

手を合わせる多様なグループ

世界的にみても性別や人種など多様性を推進している企業の方が、業績という結果を出していることも指摘されている。

Shutterstock/Rawpixel.com

一人ひとりの価値観や社会の慣習を変えるには、時間がかかる。世代交代を待たないと果たされないことも多い。

国連開発計画(UNDP)が3月5日に発表した最新のレポートによると、日本人の約7割は、ジェンダー・バイアスを持っていることが明らかになっている。男女別にみると、男性の73%、そして女性も65%がバイアスを持っているという。

そういう中で、企業の採用活動でも、「性別役割分業」のアンコンシャス・バイアスを乗り越えるのは難しい。女性は結婚や出産で働き方がいずれ“制限”されてしまうというバイアスが働いたり、男性は常に家庭より仕事を優先するべきだという期待を、無意識にも持たれてしまうことがある。

これらの価値観は、過去の経験や長年の社会の慣習によって構築されてきているため、すぐに根本的に変えられない。しかし、あらゆるデータやエビデンスをもとに、採用プロセスの「デザイン」そのものを改革することで、性別やジェンダーの格差は是正できる。

世界的にみても、女性役員比率が高い企業の方が、経営指標が良い傾向にある。

日本でも、女性の活躍推進に取り組んでいる企業(均等推進企業表彰企業)は、株式パフォーマンスがTOPIX平均を上回る水準で安定して上昇する傾向がある。

言い換えれば、しっかりと性別・ジェンダーのバイアスを是正できなければ、優秀な人材を逃し、企業の成長も望めない。ユニリーバ・ジャパンのように、採用の「デザイン」の改革に取り組む企業が増えることを願う。


大倉瑶子:米系国際NGOのMercy Corpsで、官民学の洪水防災プロジェクト(Zurich Flood Resilience Alliance)のアジア統括。職員6000人のうち唯一の日本人として、防災や気候変動の問題に取り組む。慶應義塾大学法学部卒業、テレビ朝日報道局に勤務。東日本大震災の取材を通して、防災分野に興味を持ち、ハーバード大学大学院で公共政策修士号取得。UNICEFネパール事務所、マサチューセッツ工科大学(MIT)のUrban Risk Lab、ミャンマーの防災専門NGOを経て、現職。インドネシア・ジャカルタ在住。

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