リクシル、積水ハウスで露わになった「第三者委員会」の限界。会社依頼では中立な調査はできない

“SS”2020-03-0914.43.19

出典:HP「SaveSekisuiHouse」より

「Save Sekisui House」というサイトがある。

2019年、LIXILグループの株主総会で会社提案の取締役候補と株主提案の取締役候補が共に選任を争った際に、株主提案側が「savelixil」というサイトを立ち上げて(現在は閉鎖)、ステークホルダーに取締役候補の考えや会社側主張の矛盾などを指摘したが、「Save Sekisui House」は、それと似たような建て付けだ。

その主要コンテンツは調査報告書である。

会社側が公表しなかった調査委員会報告書

積水ハウスは2017年に東京・西五反田の土地売買で、いわゆる地面師に55億円を騙し取られた。その地面師集団のリーダーと目されているカミンスカス操被告の公判が進行中だから、「そんな事件もあったなあ」と思い出す人も多いだろう。

「Save Sekisui House」サイトで公開されているのは、この事件に絡み、積水ハウスが立ち上げ、社外監査役と社外取締役で構成された調査委員会がまとめた結果の報告書である。

リクシル

LIXILグループでも会社側と株主側が取締役候補を巡って対立した時、株主側による「savelixil」というサイトが立ち上がった。

撮影:今村拓馬

サイトで調査報告書が主要コンテンツとなっているのは、この内容を会社側が公表していないからだ。

地面師事件を巡って株主が起こしている株主代表訴訟で、大阪地裁は調査報告書の提出を求めたが、積水ハウスはこれを拒否。積水ハウス側は即時抗告したものの大阪高裁に棄却され、渋々提出したという代物である。

個人名などが黒塗りとなっている「ノリ弁報告書」の見どころは、騙し取られた過程が生々しく記されていること。詳細はサイトを見てもらうとして、まず思うのは、これが架空取引であることに気づくタイミングはいくらでもあったということだ。

「気づくタイミングは10回以上あった」

報告書によると、問題の土地は海老澤佐妃子という人が所有するもので、その知人と称する人物が土地売買を積水ハウスに持ちかけたとされる。ところが同社に現れた海老澤は偽物で(報告書では偽海老澤と記されている)、本物の海老澤からは会社に「真の所有者は自分であり、売買予約をしたり、仮登記を行ったことはないので、仮登記の抹消を要求する」という内容証明郵便が複数届いている。

このため弁護士などは、「会社に現れた海老澤が本人なのか、海老澤の知人などによる確認が必要」と指摘したものの、実行されなかった。積水ハウスは手付金以外の残余金支払いをなぜか約2カ月前倒しし、詐欺師集団に巨額のお金を支払った。

あまり細々と書いても仕方がないので、この程度にしておくが、当時の社内を知る積水ハウス関係者に言わせれば「おかしな取引と気づくタイミングは10回以上あった」という。

「なぜ」に答えていない報告書

ノリ弁報告書

SaveSekisuiHouseに掲載された「ノリ弁報告書」。

出典:HP「SaveSekisuiHouse」より

調査報告書は生々しい。しかし、それ以上に思うことがある。

おかしな取引がなぜ結果的に見過ごされてしまったのか、その原因を調査していないことだ。

海老澤の本人確認が必要とされたのに、それを実施しなかったのはなぜか。残余金の支払いを前倒ししたのはなぜか。そこに踏み込んでいない。だからどうにも腹落ちしない。

誰もが思う「なぜ」が書かれていないのは「会社が調査を打ち切ったからだ」と積水ハウス関係者は言う。

地面師事件をきっかけに、当時、積水ハウスの会長だった和田勇氏は当時社長だった阿部俊則氏(現会長)を解任しようとした。しかし返り討ちに会い、会長ポストを追われた。

一方、調査報告書では問題の取引に和田氏の直接関与はなく、阿部氏が関わっていることが記されている。

これらを考え合わせると、誰もが抱く「なぜ」が書かれていないのは、和田氏を追い出した現経営陣が調査担当者に「調査に及ばず」と言ったか、それとも調査担当者が現経営陣に忖度したかだろうと推察される。

中立性・独立性疑われる第三者委員会

無理もない。不祥事が起きると大概、弁護士などで構成される第三者委員会が立ち上げられ、事実関係を調査、その上で再発防止策などを提案する。しかし調査を誰に依頼するのか、依頼した人にどれだけ報酬を出すのかを決めるのは会社。その時点で「中立性」や「独立性」は怪しいものとなる。

似たようなことが、「Save Sekisui House」のモデルであろう「savelixil」が立ち上がった過程でもあった。

LIXILグループでオーナーのように振る舞っていた、母体企業の1つである旧トステム創業家の潮田洋一郎氏が当時、社長兼CEOだった瀬戸欣哉氏を辞任に追い込んだのは2018年10月だった。

そのプロセスがコーポレートガバナンス上、極めて問題ありとした機関投資家は会社側に調査を要求。第三者委員会が立ち上がり、報告書はまとまったが、当初、公表されたものが会社にとって都合の良い部分を抜き出した要約版だった。

これを問題視した機関投資家が完全版の開示を要求すると、辞任プロセスにさまざまな問題があったことが公になった。そこまでは良かったが、辞任そのものを覆す必要はないという結論は変わらず。株主提案側は「結論ありきの調査報告書だ」と批判した。

リクシル

会社の依頼を受けた第三者委員会による調査は果たして中立なのか。

撮影:今村拓馬

LIXILグループの株主総会では株主提案が事実上の勝利を収めた。

社外取締役に就任した鬼丸かおる元最高裁判所判事はその後、株主提案の取締役候補に名前を連ねた理由について、こう語ったとされる。

「杜撰な調査報告書を読んで憤りすら感じたから」

忖度必要のない独立機関の必要性

不祥事のたびに登場する第三者委員会は本当に中立なのか。法曹界からも疑問の声が上がっているのである。

「会社の依頼を受けた第三者委員会では真相究明は無理。会社に忖度する必要のない『独立委員会』が調査をするようにしないと、コーポレートガバナンスは健全化しない」

日本のコーポレートガバナンス研究の草分けでもある若杉敬明東京大学名誉教授はそう指摘する。

4月下旬に開かれるであろう積水ハウスの株主総会を前に、現会長の阿部氏らに返り討ちにあった和田氏らが取締役候補として名前を連ねる株主提案が2月17日に発表された。和田氏らは発表の席で、「Save Sekisui House」では閲覧できる調査報告書を、自ら公表しない会社側の姿勢を強く批判した。

株主提案に対して会社側は今のところダンマリを決め込んでいるが、株主総会を乗り切るため、隠蔽体質批判をかわす一手として調査報告書を公表する可能性がある。だが、その内容は生々しくとも肝心なことが書かれていないこと、そもそも調査委員会報告書というものに中立性が担保されていないことは留意していおいた方が良い。

悠木亮平:ジャーナリスト。新聞社や出版社で政官財の広範囲にまたがって長く経済分野を取材している。

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