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【新連載・入山章栄】経営理論は“モヤモヤ”を言語化する武器。「思考の軸」をつくる教養を磨け

経営理論でイシューを語ろう

撮影:今村拓馬、Shutterstock


「経営理論」と聞いて、あなたはどんなイメージを思い浮かべますか? 「難しそう」という人もいれば、「実務には役に立たない」「後付けでしかない」などと批判的な意見の人もいるかもしれません。

けれど、経営学のフロントランナーとしてご活躍中の入山章栄先生は言います。「経営理論とは不変性、汎用性、納得性があるもの」だと。つまり、ビジネス上の課題に限らず、時には若者が頭を悩ます悩むキャリアの方向性さえも、経営理論で説明可能なのです。

この連載では、企業やビジネスパーソンが抱える課題の論点を、入山先生が経営理論を使って整理。「思考の軸」をつくるトレーニングに、ぜひあなたも挑戦してみてください。

「役に立つ」への違和感

こんにちは、入山章栄です。この連載では、世界の経営学者が導き出した経営理論の数々を、実際の日本企業やビジネスパーソンの課題に当てはめながら紹介・議論し、みなさんと一緒にビジネスやキャリアの課題を考えていく予定です。

さて、読者のみなさんは「経営理論」というものに、どのようなイメージをお持ちでしょうか。そもそもあまりイメージのない方も多いかもしれませんね。実際のところ「経営理論は学者のもので、実際の経営には役に立たない」とか、「理論と実務には乖離がある」などと言って批判されることがあります。やはり多くの人が、「役に立つか否か」で経営学を評価しているのでしょう。

僕自身はどちらかというとなりゆきで経営学者になってしまったので、「経営学を人々のために役立てたい」という熱い思い入れは、正直ありません。

そのせいかどうかわかりませんが、「役に立つか立たないか」だけで経営学を評価することには違和感があります。学問が発展するのは、役に立つかどうかわからない枝葉の部分を積み重ねていくからこそであって、役に立つことだけを追い求めるのは、むしろ学問ではないと思うのです。

それでは経営学はまったくの無用の長物なのかといえば、そうではありません。むしろこれからのビジネスパーソンには必須の知識だと確信しています。

自分で考え続けなければいけない時代

ミレニアル世代

選択肢が広がった素晴らしさと引き換えに、自分の生き方を考え続けなければならなくなった。

撮影:今村拓馬

Business Insider Japanの読者であるミレニアル世代のみなさんは、悩み多き世代だと思います。この世代の人たちがこの先どうやって生きていけばいいのか悩んでいるとき、経営学の理論は、答えそのものは提供できないかもしれませんが、「考え方のヒント・コンパス」にはなるはずです。

いまの20代、30代は、この先の世の中がどう変化していくかが見えない、非常に不確実性の高い時代にいます。他方で、将来の選択肢は昔に比べて格段に増えている。気軽に起業できる環境が整ってきたし、ベンチャーで働いてもいいし、大企業に就職してもいい。もしかしたらフリーランスで働けるかもしれないし、女性も社会で活躍できる後押しが、僕が若い頃と比べて存分にある。

このように選択肢が多いこと自体は、素晴らしいことです。実にいい時代になったものだと思います。ただ、いい時代だからこそ、一人ひとりが自分のキャリア・人生を考える必要がある。

僕が20代だったころは、その意味では「悪い時代」でした。選択肢が少なく、多くの人は敷かれたレールの上を走るしかなかった。しかしそれは、「考えないで済む」ということでもありました。

例えばどこの大学に行くべきかといったことも、深く考える必要はなかった。受かった大学のなかで、偏差値が一番高い大学に進めばよかったからです。就職も、名前のあるメジャーな大企業から順番に受けていく……そういう時代でした。

そういう意味では、これからの時代は自分で生き方を決められるという意味で、実に「いい時代」なのです。しかし逆に言えば、みなさん一人ひとりが自分の人生・キャリアを考える必要がある。なぜなら変化が激しい時代なので、どこにも正解がないからです。

正解がないにもかかわらず、自分で自分の生き方を決めなければいけない。もちろん、決めたことを変更してもいいけれど、変更するなら、やはりさらに考えなければいけない。つまり、これからの人生をかけて絶えず考え続けなければいけないのが、ミレニアル世代ということです。

悩めるミレニアル世代の“コンパス”に

コンパス

「考える」という行為にも、思考の軸となる“コンパス”があったほうがいい。

Shutterstock

僕は経営学者という仕事をしているのでたくさんの経営者にお会いする機会がありますが、やはりいい経営者、ビジネスリーダー、起業家の最大の条件の一つは、ずっと考えているということです。もうとにかく常に、四六時中考えている。答えがない中で、意思決定をしないといけないからです。ミレニアル世代と同じですね。

しかし、考えるのはいいことなのですが、闇雲に考えても仕方がありません。それではコンパス(羅針盤)もなしに海の上を航海するようなものです。ですから、考えるうえでもヒントやコンパスくらいはあったほうがいい。そのヒントは尊敬する先輩や上司の言葉でもいいし、孫正義さんの言葉でもいいけれど、それが世界の経営学の理論だっていいわけです。

僕は先般『世界標準の経営理論』という本を出しました。800ページを超す、枕代わりにもなりそうな分厚い本です。

その本でも述べた通り、経営理論とは、世界中の優秀と言われる経営学者が集まって、さまざまな検証を繰り返した結果、「どうやらビジネスの真理法則はこれに近いらしい」と結論づけた法則のようなものです。絶対に正解だとは言えないし、「これが役に立つ」とは1ミリも言っていない。ただ「ビジネスの真理法則はこうである可能性が高い」と言っているだけです。

ただし、経営学の理論は経済学、心理学、社会学という3つの学問を応用した、社会科学的に確立された理論なので、それなりに本質をつかんでいることは間違いありません。それは大まかに約30あり、『世界標準の経営理論』ではそのすべてが解説されています。

世界標準の経営理論

入山先生の近刊『世界標準の経営理論』。うっかり肘置きにしそうな分厚さだ。

撮影:今村拓馬

ですから僕は、この連載を通じて真理法則を学んでもらうことで、読者のみなさんが自分で考えるきっかけとなればいいと思っています。そういう意味では経営理論とは、みなさんのこれからのキャリアや人生を考えるうえでのヒント、あるいはコンパスに当たるものなのです。

繰り返しですが、これからは複雑で状況が刻々と変わる、答えのない世界を生きていかなければなりません。地図もない混沌とした世界だけれど、前に進まなければいけない以上、コンパスだけは必要です。世界標準の経営理論はそのコンパスの一つになりうるはずなのです。

自分の頭で考えよう

先ほど、「僕の若いころは考えずに済んだ時代だった」と述べましたが、考えないことにもメリットはあります。それは脳に負荷をかけないので、脳みそが楽をできるということです。その代わり、成長は期待できません。いまのビジネスパーソンは多忙を極めていますから、できれば余計なことを考えたりして脳みそに負荷をかけたくないというのが本音でしょう。

しかし僕は、ミレニアル世代の方にはぜひ考えてほしいと思います。

例えば、みなさんはいままでの人生で、ビジネスに限らずさまざまな経験を積んでいます。自分が経験してきたことや見聞きしたことを通じて、言語化されてはいないかもしれないけれど、自分なりの考えや思いを持っているでしょう。それを言語化してくれるのが経営理論なのです。

今までそれなりに懸命悩んできた人なら、僕が「こういう理論がありますよ」と紹介するものを読めば、その中に必ず1つか2つは、「これは自分のモヤモヤを言語化してくれている」とか、「ああ、自分がやってきたことは経営理論ではこんなふうに説明できるんだ」と腹落ちするものがあるはずです。

入山章栄

撮影:今村拓馬

経営理論とは複雑な経営事象を、人間の性質に基づいた角度で切ってみせる、鋭利なナイフのようなものです。ですから「こうすることが正解」とか、「こうすれば役に立つ」というものではなく、あくまでも事象の断面を見せてくれるものにすぎません。

しかしナイフでスパッと事象を切り取ると、モヤモヤしていた考えがきれいに言語化されてスッキリする。もちろん、ただスッキリして終わりではなく、ぜひその理論を使って考え続けてほしいと思っています。

経営理論を「共通言語」に

さらにいえば、経営理論を能動的に学ぶことで、自分なりの「思考の軸」をつくることも可能です。それにはただ受け身で文章を読むのではなく、能動的に読んでほしい。例えばある経営理論について考えたことを文章にまとめてみる。そうすることで「自分ごと」にできます。

ベストなのは、気軽な勉強会を開いて他の人と議論をすること。実際に僕の本をテキストに用いた勉強会がいくつか開かれていますが、これは経営理論を実践的に使い倒すための最もよい方法です。

勉強会の参加者はさまざまな業界から集まっているとベストです。実際の勉強会でも、毎回、実に活発な議論が起こります。普通、業界が違うと単なる空中戦になってしまうものですが、経営理論はあらゆる会社で普遍的に通用する原理原則であることが多いので、議論をする際の「共通言語」として最適だからです。

勉強会

経営理論を能動的に学ぶ方法のひとつは勉強会。入山先生の著書をベースにした勉強会は毎回参加者の熱量も高いのだそう(写真はイメージです)。

Shutterstock

この連載では、各回を通して読者のみなさんとできるだけ創発的なやりとりが生まれることを目指しています。毎回の記事を議論のたたき台にして、ぜひバーチャルに活発な議論を交わしていきましょう。

そのための試みとして、僕から毎回「お題」を出題させていただきます。そのお題を通じて考えたことや疑問に思ったことを、ぜひ記事末尾のアンケートフォームからお寄せください。日々の仕事を通じて感じている課題でもかまいません。集まったご意見には目を通させていただき、今後の連載の中でも紹介させていただきたいと思っています。

それでは、この連載を通じて「思考の軸」をつくり上げるトレーニングをしていきましょう!

今週のお題

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(構成・長山清子、撮影・今村拓馬、連載ロゴデザイン・星野美緒、編集・常盤亜由子)


入山章栄:早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所に勤務した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』など。

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