佐藤浩市が語る、時代の「リーダー」に求められる資質とは

1960年生まれの佐藤浩市さん。今年で還暦を迎える名優が語る「人生の積み重ね方」とは。

1960年生まれの佐藤浩市さん。今年で還暦を迎える名優が語る「人生の積み重ね方」とは。

撮影:ERIKO KAJI

東日本大震災の津波に襲われた福島第一原発を舞台にした映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)が3月6日に封切りされた。タイトルは、震災後に現地で対応にあたった約50人の人々を指して海外メディアが用いた言葉に由来する。

主演の佐藤浩市さんは福島出身の技術者で、原子炉近くの中央制御室で現場を指揮したリーダー「当直長」の伊崎利夫役を演じた。

時代劇から現代劇まで、これまでさまざまな作品に出演してきた佐藤さんも今年で60歳。時には壁にぶつかったこともあると吐露するが「遠回りもあながち悪くはないよ」と説く。若い世代に伝えたい「人生の積み重ね方」を、還暦を迎える名優に聞いた。

「先の見えない危機」に対応した “現場”にスポットを

『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)より。

『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)より。

(C)2020『Fukushima 50』製作委員会

—— 今回演じたのは、福島出身の福島第一原発の作業員で、現場をまとめる当直長という役どころでした。役をお引き受けになるのにあたって葛藤はありましたか。

若松節朗監督は今回の作品で「最前線の現場にいた人たちにスポットをあてたい」と。その言葉を聞いて出演を決めました。僕らが演じた当時の作業員の人たちは、2011年3月の震災直後に死の淵と背中あわせで、先の見えない危機に立ち向かっていました。

当時の現場の人たちが抱いていた「この先どうなるか分からない」という気持ちを理解し、表現するのは本当に難しいことだと思います。

もしかしたら(当時の)何十分の1、何百分の1にもならないかもしれない。だけど、当時の現場の人々の気持ちや危機感を、どうにかして「今」のお客さんに伝える表現や方法はないだろうか。

僕自身も最低限のこととして、撮影前に他の原発の施設見学をさせていただいたりしましたが、出演をためらった方もきっといたでしょう。撮影現場ではみんなが葛藤していました。

時代によって「リーダー」に求められる資質は変わってきた

「上下の付き合い方も、個々人にあったスタンスやスタイルでやり方を変えることが求められる時代なのだと思います」

「上下の付き合い方も、個々人にあったスタンスやスタイルでやり方を変えることが求められる時代なのだと思います」

撮影:ERIKO KAJI

—— 佐藤さんが演じる現場の当直長のほか、渡辺謙さんが演じる吉田昌郎所長など、この作品にはさまざまな「リーダー」が登場しました。

リーダーというのは、置かれた状況や立場の中で、組織を動かすのが役割です

僕が演じた伊崎は福島出身の技術者。原子炉に近い中央制御室で、たまたま当直長だったタイミングで震災があった。そこで、部下とともに現場でできる仕事を全うした。

もちろん自分の決断が半目に回る場合もあるということもあるのだと思います。ですが大切なのは、与えられた職責を全うすること。それに尽きると思うんです。

過去に「上司にしたい著名人」で名前が挙げられていた感想を聞くと、佐藤さんは照れくさそうに笑った。

過去に「上司にしたい著名人」で名前が挙げられていた感想を聞くと、佐藤さんは照れくさそうに笑った。

撮影:ERIKO KAJI

—— 佐藤さんご自身は、過去に「上司にしたい著名人」でよく名前が挙げられていました。

そんなこともありましたね(笑)。ただ、時代によって上に立つ「リーダー」に求められる資質が変わってきていることは感じます。

役者の世界でも、僕らが当たり前だと思っていた方法論が、今の若い人たちに通用するとは限りません。

どんな仕事でも、人それぞれが抱えている課題があると思います。下の世代に何かを教えたり伝えたりするにしても、昔から引き継がれてきた一辺倒なやり方や、自分のやり方を押し付けるわけにはいかない。

上下の付き合い方も、個々人にあったスタンスやスタイルでやり方を変えることが求められる時代なのだと思います。

でも、その中でも本質的に伝えるべき内容というか変わらないものもあります。

「近道は、近道じゃない時がある」

「近道は、近道じゃない時があるからね。遠回りすると、余計な時間を費やした分、余計なものを見てこられた。それが自分の財産になる」

「近道は、近道じゃない時があるからね。遠回りすると、余計な時間を費やした分、余計なものを見てこられた。それが自分の財産になる」

撮影:ERIKO KAJI

—— 還暦を迎える佐藤さんが、若い世代に伝えたいと思っていることは。

僕が若い人たちによく言うのは「近道は、近道じゃない時があるからね。遠回りすると、余計な時間を費やした分、余計なものを見てこられた。それが自分の財産になる」という考え方です。

「遠回りもあながち悪くはないよ」って。それを信じてやってきましたね。回り道をすると、見ることのない景色が見えることがあるんですよ。それはキャリアとしてではなく、メンタルとしてね。

「自分の演技の全てに疑問を持つこともあったし、これで良いのだろうかとずっと悩んでいた時期もありました」

「自分の演技の全てに疑問を持つこともあったし、これで良いのだろうかとずっと悩んでいた時期もありました」

撮影:ERIKO KAJI

—— メンタルとしての「遠回り」ですか。時代劇から現代劇に至るまで、さまざまな作品に出演されている佐藤さんでも、遠回りをしたり壁にぶつかったりする瞬間はあるのでしょうか。

若い頃はもっとありましたね。自分の演技の全てに疑問を持つこともあったし、これで良いのだろうかとずっと悩んでいた時期もありました。

それは(積み重ねてきたそれまでの)キャリアで補えることもあれば、「自分の引き出し」にしまっていた要素で克服できることもありました。でも、あえて引き出しを開けずに勝負することもありました。そういう積み重ねですね。

ただ、僕自身の努力というよりも「ツキ」があったこともあると思います。自分が最も変革しないといけない、自分を変えなきゃいけないという時に、それを実現してくれた人や作品に出会えています。

「今思えば、自分が「今、変わらなければいけない」という時にこそ、そういう出会いがあったんですね」

「今思えば、自分が「今、変わらなければいけない」という時にこそ、そういう出会いがあったんですね」

撮影:ERIKO KAJI

20代で『魚影の群れ』の相米慎二監督に出会えたり、30代で『トカレフ』の阪本順治監督もそうです。今思えば、自分が「今、変わらなければいけない」という時にこそ、そういう出会いがあったんですね。

ただ、自分を変える出会いがあったにも関わらず、スルーしてしまうときもある。そういうときには、後から考えて気付くのでもいい。それだってきっと自分を変えるきっかけになるのだと思います。


佐藤浩市(さとう・こういち)1960年東京・新宿区出身。81年に「青春の門」で映画初出演。1994年「忠臣蔵外伝 四谷怪談」と2016年「64-ロクヨン-前編」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞。「壬生義士伝」「クライマーズ・ハイ」「新選組!」などに出演

(文・吉川慧)

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