3月10日、新型コロナウイルス関連のニュースを伝えるニューヨーク証券取引所内のモニター。トレーダーたちに先行きは見えていない。
REUTERS/Andrew Kelly
- ドイツ銀行のチーフストラテジスト、ビンキー・チャダによると、新型コロナウイルス流行に端を発する株価の乱高下と世界経済の減速は、過去の歴史が示す4パターンのいずれかに帰結することになる。
- そして、いずれの道を歩んだとしても、世界の富がさらに失われることは間違いないようだ。
- ウイルス流行前の時点で、チャダは2020年中に得られるリターンは限定的だと予想していた。
ドイツ銀行のビンキー・チャダは、新型コロナウイルスの大流行を、ウォール街が歴史上経験してきた4つの局面に重ね合わせて分析している。
彼は、これからますます被害が拡大するであろうウイルス流行に対する市場の反応と、その世界経済への影響の「パターン」に注目する。
ここ数週間にわたって市場は揺れに揺れたが、チャダに言わせれば、表面のホコリやカスをようやく払いのけたようなもので、(本丸である)その経済的な帰結と対峙することになるのはこれからだ。
「中国で発生したウイルスが国外に感染していく前は、ファンダメンタルズ(経済指標などの基礎的条件)に比べて市場が過大評価されすぎていました。それが、まあまあ適度なところまで落ちてきたのがいまの状況。株価はまだ社会全体の停滞を織り込んだ水準までは落ち込んでいないし、企業活動の停滞から想定されるほどには各社の業績も落ち込んでいません」
つい数カ月前、チャダは2019年末のS&P500(=アメリカの主要企業500社)株価指数のターゲットを「3250」と予想したが、市場関係者からはそれでも弱気とされた。ちなみに、米ブルームバーグによる対象ストラテジストの平均ターゲットは「3318」だった。
そうした見方を前提に、チャダはこの市場の停滞、減速は次の4パターンのいずれかへと進んでいくと予測する。
【パターン1】地政学的ショック
新型コロナウイルスの大流行と、実弾が飛び交う戦争あるいは貿易戦争は、明らかによく似ている。きわめて大きな不確定性がつきものだからだ。
%!(EXTRA string=「戦争であれ、貿易戦争であれ、潜在的に大きな、しかし定量化が難しいリスクを伴うのが特徴です」)
貿易戦争のような国際問題は確かに大きな脅威ではあるけれども、経済の視点から見れば、一気に片づくことが多い。
もし新型コロナウイルスによる株価下落がこのパターンをたどるとすれば、史上最高値を記録した2月19日と比べて16.5%程度の下落、S&P500株価指数で言えば「2825」が底になるとチャダは予測する。
その場合、3週間で株価下落は終わり、その後3週間は上昇が続くという。
【パターン2】ボラティリティ・イベント
世界中で感染拡大を続ける新型コロナウイルス。グローバル経済への波及はまだ始まったばかりだ。
REUTERS/Brendan McDermid
株価が安定性を保っている時期に突如として下落するのが「ボラティリティ(変動性)イベント」。思い起こされるのは2011年半ばの株価下落だ。また、そのときほど深刻なものではなかったが、2018年前半にも同じようなことが起きている。
チャダの見立てによると、今回の株価下落がこの歴史の示すパターンにしたがってくり返されるとしたら、株価は6週間にわたって15%下落し、S&P500株価指数は最低「2875」に達する。もとの水準を回復するまでには4カ月を要する。
%!(EXTRA string=「予想変動率が(極端に大きくない)一定以下の水準に抑制されていることは、投資家にとって重要な前提条件であり、システムトレードと裁量トレードのいずれかを問わず、リスクマネジメントモデルを組み立てる上で不可欠なインプットなのです」)
チャダは、今回の新型コロナウイルス流行による株価下落は、流れからするとこのパターンに当てはまると指摘する。しかし、株価指数や回復までの時間は彼が想定する以上の規模になりそうだ。
【パターン3】経済成長の減速
ウイルス感染拡大がグローバル経済を直撃しようとしている現状をみると、経済的な帰結(の規模)としてはこのパターンになりそうだ。
株価の下落幅は20%まで想定されており、そうなれば2019年に市場が得たすべての利益が吹き飛ぶことになる。S&P500株価指数は「2700」まで下がり、2019年1月に記録したのと同じ水準まで落ちこむ。
株価の下落および停滞はおよそ3カ月にわたって続き、回復までに4カ月以上を要する。第2四半期の終わり(6月末)までは成長は見込めず、株価が底を打つのも第2四半期中(4〜6月)になる。チャダは言う。
%!(EXTRA string=「市場は現在の成長の鈍化に敏感に反応し続けるが、株価が底を打てば、それは回復に転じたサインと見ていいでしょう」)
【パターン4】リセッション(景気後退)
このシナリオへと進んだ場合でも、チャダが注目すべきこととして強調するのは、リセッション(景気後退)のスパンが劇的に短くなるということだ。典型的なリセッションでは、S&P500株価指数は14〜15カ月にわたって最大30%下落するが、今回の株価下落は7カ月程度で景気後退のフェーズが終わると彼は考えている。
%!(EXTRA string=「今回の動きをみていると、典型的なリセッションより突然かつ急激に株価下落が進んでいる。言い換えれば、景気後退の発現と株価の急落に至るタイムラインが相当に圧縮されている。ですから、景気上昇に転じるまでのスパンも圧縮されて短くなるでしょう」)
S&P500株価指数は「2370」まで下がり、2017年4月の水準に戻ることになる。
しかし、チャダはそこまでの事態に陥るとは考えていない。とはいえ、ここ数週間の動きを分析してその中身がはっきりしてくれば、事態は急激に変わる可能性ももちろんあるという。
(翻訳・編集:川村力)