「ロボットと人間のバランスが重要」パナソニックAugLabが目指すウェルビーイングな社会

Aug Labリーダーの安藤健氏

近年のロボティクスの発展は誰もが知るところ。技術革新が進んで開発コストも低下し始めたことで、ロボットはさまざまな分野に浸透。特に、工場や物流現場でのロボットの伸びは顕著で、業務の効率化や労働力不足の解消にも大きく寄与している。

2019年4月にスタートした「Aug Lab(オーグ・ラボ)」は、パナソニックが新しいロボットの価値を考える中で生まれた組織だ。社外の研究者やクリエイターなどとも積極的に共創し、ロボティクス(ロボット工学)の新たな可能性を探るという。

パナソニックはなぜ、Aug Labを立ち上げたのか。同ラボのリーダーを務める安藤健氏に、背景やビジョンについて聞いた。

人がやることと、ロボットに任せること。その境界は?

話をする安藤氏

パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 総括の安藤健氏。工学博士の肩書きも持つ。

「ロボット技術は、特に工場を中心に導入され、Automation(自動化)によって生産性を飛躍的に高めることに貢献してきました。このことが経済発展などにつながり、世の中を良くしたことは確かです。しかし同時に、少なからぬ人が『何でもかんでも自動化した世界が良いのだろうか?』という疑問を抱えています。パナソニックがAug Labを開設した背景には、『自動化すべきことと、人が自分でやるべきことのバランスをとるのが重要なのではないか』という問題意識があります」(安藤氏)

Aug Labのリーダー、安藤健氏は、ラボ設立の背景をこう話す。Aug Labという名称は、英語の「Augmentation」に由来する。日本語では「拡張」と訳されるのが一般的で、これに関連した技術であるAR(Augmented Reality:拡張現実)はよく知られている。Augmentationを通じて、人や暮らしがより豊かになる「Well-Being」な社会を実現していこうというのが、Aug Labが掲げるビジョンだ。

社内外との共創から生まれた500を超えるアイデア

ゲーミング掃除機

これまでAug Labで製作されたプロトタイプの1つである「ゲーミング掃除機」。日々繰り返している掃除の作業を、ゴミをモンスターと見立て、発見したら攻撃し、モンスターを倒していく体験に変化させる。

提供:パナソニック

「Augmentation を通じたWell-Beingと簡単に言っていますが、実際に何をすればこれが達成されるのか、我々もまだわかっていません。『わからないなら、みんなで考えるしかない』ということで、社外の人材とも積極的に連携するオープンイノベーションに取り組んでいます。Aug Labのコアメンバーは10人ほどですが、これまでに社内外から100人以上の研究者やデザイナー、クリエイターの人たちに集まってもらい、ワークショップなどを行ってきました。共創によって生まれたアイデアは500を超えています」(安藤氏)

こうして生まれたアイデアの中から、「人のどんな欲求や悩みに、どう応えるものなのか」が明確になったものが、次のプロトタイピングのフェーズに移る。これまでAug Labで製作されたプロトタイプの数は約20個。家族や恋人の心臓音やぬくもりを感じられるネックピローや、ごみをモンスターに見立てて掃除することで倒していくゲーミング掃除機など、ユニークなプロダクトが並ぶ。

「こういったプロダクトは、通常の事業化プロセスだとアイデア段階ではねられ、プロトタイピングまで進まないことが多い。しかし、Aug Labでは、まずプロトタイプにして実際に動かしてみようという姿勢を基本にしています。人がどういう行為をしたらどう感じるのかを自らが体験して検証すること、人が喜ぶとか楽しむとはどういうことなのかについて失敗しながらも知見を蓄積していくことが大切だからです」(安藤氏)

ブレストで出たアイデアに対して否定や批判はしないというのは一般的な話だ。Aug Labではこれに加えて、プロトタイプを作ってみるまでは否定や批判はしないというルールが徹底されているのだという。

子どもの自然な姿を撮影するロボット

babypapa(ベビパパ)

東京・汐留にあるAug Labで、開発が進む「babypapa」。家庭内で笑顔を生み出し、それを思い出として残す役割を持つコミュニケーションロボットだ。

Aug Labのスタートから約1年が経過した2020年2月時点で、プロトタイピングの次のフェーズに進むプロダクトも出てきた。

その1つが、話す相手によって鳴き声や表情を変えたり、遊んでいる子どもの自然な姿を撮影してスマホに転送するといった機能を備えるコミュニケーションロボット「babypapa(ベビパパ)」だ。3体のロボットが勝手に歌ったり踊ったりすることで、人との自然なコミュニケーションが生まれるのが特徴となっている。家庭内で笑顔を生み出し、それを思い出として残す“新たな家族”のような存在を目指している。

「このフェーズでは、グローバルな展示会などで多くの人にプロダクトを見てもらい、我々が練り上げたコンセプトが伝わるのかを検証します。同時に、プロダクトやサービスにお金を払う価値を認めてもらえるかも重要なポイントです。世の中にプロダクトをオープンにすることで、一緒に事業化を進めたい企業などからも声がかかると思いますし、長期にわたる実証実験のパートナーを探すという意味合いもあります」(安藤氏)

「ロボット研究を通して、人への理解を深めたい」

話をする安藤氏

安藤氏は、大学の教員として理工学部と医学部でロボット研究に没頭。パナソニック入社後も、ロボティクスの要素技術の研究開発や事業開発に一貫して携わってきた人物だが、「実は、ロボットよりも、人が好き」なのだという。

「ロボティクスの道に進んだのは、ロボットの研究を通して、人を理解しようと考えたからです。昔から人が好きで、人を理解したいという気持ちを強く持っていましたが、これこそが私の研究者としてのモチベーションになっていますね」(安藤氏)

Aug Labの今後の展開だが、プロダクトの社会実装に向けた動きも、より加速させていくという。「スピードは非常に重要」と言う安藤氏は、できれば2020年度内に少なくとも1つのプロダクトは、長期にわたる実証実験の段階にまで進めたいと話す。

「これまで自動化をメインの目的にして進化してきたロボティクスですが、人に寄り添う、あるいはユーザーを中心に考えるという視点でも、発展できる余地は必ずあると思っています。それを見つけて実現させるには、エンジニアの力だけでは足りない。多様な知見やバックグラウンドを持つ人たちと手を携えながら、Well-Beingな社会の実現に向けて、努力を続けていきたいですね」(安藤氏)


2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標=SDGs」への社会的な関心が高まるなかで、企業の取り組みにも変化が見えてきた。これまで家電やAV機器などのコンシューマー製品から、車載部品や産業デバイス、放送機器、電設資材といったB2B製品まで幅広く手がけてきたパナソニックも、さまざまな角度からSDGsに配慮した活動をしている。

「ロボットで自動化すべきことと、人が自分でやるべきことのバランスをとるのが重要」と言い、社内外と共創しながら人に寄り添うロボット開発に注力する安藤氏。Aug Labは技術を通して、人がより生きやすい社会の実現を目指している。

パナソニックAugLabについて詳しくはこちら

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