株安も円高ドル安も「起こるべくして起こった」。コロナショックで動揺する市場を冷静に眺めると…

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2月24日、独デュッセルドルフ市内の光景。新型コロナウイルスの感染拡大、それがもたらす経済停滞は全世界に広がっている。

Lukas Schulze/Getty Images

3月9日、ドル/円相場は101円台と約3年4カ月ぶりの安値をつけた。新型コロナウイルスの全世界的な感染拡大への懸念に加え、サウジアラビアの歴史的な増産計画発表を受け、リスク回避ムードが強まったことで一気にドル安が進む展開となった。

「動かない相場」を当然視するようになってきた近年、今回の動きで、多くの市場参加者が痛手を被ったのではないかと推測する。

変動相場制である以上、勝手な思い込みで「動かない相場」を新たな常態などと決めつけるべきではなく、長すぎるドル高の揺り戻しを警戒すべきだと筆者は考えてきた。

その意味で、きっかけはコロナショックでも、後述するように起こるべくして起こったドル安(円高)と言っていいだろう。株安もやはり、起こるべくして起こったと言える。

企業収益は悪化しているのに、主要株価指数が最高値を更新する状況が続いてきた。いざとなれば米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げで応戦してくることを当て込んでいたからだ。利下げ余地の小ささに焦点が当たるいま、株安が続くのはある意味自然でもある。

「利下げカード」はもう残り少ない

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急激な株安、円高ドル安に、市場が揺らいでいる。

REUTERS/Stoyan Nenov

いずれにせよ、不測の事態が相次ぐ中、市場参加者が政策当局、とりわけ中央銀行に寄せる期待は膨らむ一方だ。

現在、3月17~18日の連邦公開市場委員会(FOMC)に関し、約8割が▲75ベーシスポイント(bps、1ベーシスポイント=0.01%)の利下げを、約2割が▲100bpsの利下げを織り込んでおり、▲25bpsはおろか、▲50bpsの利下げも、文字通り「眼中にない」異様な状況にある。

むしろ、ここまで織り込んだ上で、ドル/円相場が100円を割り込まず守り切れたことが驚きだ。

しかし、今後もこの安値を守れるだろうか。

あと▲75bps下げれば、たった2週間で7枚(25×7=175bps)あった手札のうち5枚(125bps)を使うことになる。その場合、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は「0.25~0.50%」となる。仮にそうなれば、カナダ(1.25%)とは大きく差が開き、ニュージーランドドル(0.75%)やオーストラリアドル(0.50%)と同水準になる。

2019年にFRBが3回利下げしてもドル高相場が崩れなかったのは、利下げしてもなおアメリカの金利が相対的に高かったからだ。しかし、もはや「高金利通貨だからドルを買う」という大義は立ちそうにない(下の【図表1】参照)。

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【図表1】主要国の政策金利。

出典:ブルームバーグ等各種資料より筆者作成

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた市場の動揺に、利下げという手段を割り当ててしまった以上、事態が収束するまで市場は延々と同様の対応を求めるはずだ。

利下げでコロナウイルスは殺せないのだから、中央銀行は本来、時間稼ぎに注力すべきはずだが、なぜかわざわざ臨時会合まで開いて2枚(▲50bps)の利下げカードを使ってしまった。臨時会合そのものがサプライズなのだから、カードは1枚(▲25bps)で十分だった。

それでも市場不安を鎮静化できたのであればまだよかったが、むしろ緊急利下げを契機として「そこまでマズいのか」と市場不安が高まり、その不安を見てFRBがさらなる利下げに踏み切るというループに入っているように見受けられる。

かつてアラン・ブラインダー元FRB副議長はこうした状況を評して、「自分の尾を追う犬」と例えたことがあるが、まさにその状態である。中央銀行としては完全に主導権を奪われた状態と言える。

ここまで来ると、市場はFRBのカードがなくなるまで(=ゼロ金利になるまで)利下げを要求する可能性がある。もらえるものはすべてもらいに行こうとするのが金融市場だ。

FRBは「企業債務の質の悪さ」を懸念

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【図表2】アメリカ経済における各経済主体の債務状況。

出典:FRB等各種資料より筆者作成

なお、これほど迅速かつ大胆に利下げする背景には、歴史的高水準に達している企業債務への配慮があるのではないかとの指摘もある。

上の【図表2】に示されるように、アメリカ経済における債務の積み上げ状況を見ると、家計部門はいまだにバランスシート調整の途上にあるが、企業部門は順当に債務を積み上げてきた。

とりわけその債務の「質」が良くないものであることは、これまでもひんぱんに指摘されてきた。

2月7日にFRBが公表した金融政策報告書でも、資金調達環境におけるリスクとして、投資適格級で発行された債券の約半分が格付け「BBB」という事実に言及があった。仮に経済環境が悪化した場合、投機的等級(「BB」以下)に格下げされる企業が相次ぎ、社債市場で大量の売りが発生する可能性を懸念したものだった。

経済・金融情勢の悪化が五月雨式に社債市場の底割れにつながり、企業部門の消費・投資意欲を毀損する経路をFRBは懸念していたのであり、そうした事実を思い返せば、今回の電撃的な利下げも理解できる。

しかも、そのようなハイイールド(低格付け)債を発行している企業の多くが、足もとの原油価格急落に苦しみそうなエネルギー関連企業であることも不安に拍車をかけている。

利下げは今後も続く

だとすれば、積み上がった企業債務を尻目に、今後も利下げが重ねられる可能性は低くない。それに付随するドル安も想定すべきだろう。

冒頭でも言及したが、筆者は現下のドル安は、そのスピードこそ異常であるものの、方向感自体は必然の帰結だと考えている。足もとのドル安の契機はコロナショックに違いないが、遅かれ早かれドル高の修正は不可避だったというのが筆者の従前からの基本認識である。

米金利の動きに照らしたドル相場の動きを見ても、明らかに高止まりが放置されてきた。具体的には、過去1年半あまりでアメリカの長期金利は4分の1(2018年10月の3.2%から、2020年3月の0.8%へ)になったにもかかわらず、ドル相場は高止まりしてきた。

この「ねじれ」に気持ち悪さを覚えていた向きは少なくないはずだが、今回のコロナショックでようやくそれが解消に向かったと考えたいところだ。

「長すぎたドル高」の終えん

目下の読者の興味は、ドルの対円相場の水準だろう。

さまざまな考え方があると思われるが、100~105円のレンジが国際機関の算出する購買力平価(PPP)に近いことはよく知られている。

例えば、経済協力開発機構(OECD)の2019年試算値は103円、世界銀行の2018年試算値は101円。最近定期的に取り上げられる日本経済研究センター試算の均衡レートは、107~108円と示されることが多い。やや円安気味であるものの、それでも「110円以上の円安は過剰」という共通認識は感じられる。

筆者は今後1年間(2021年3月末まで)の下値を100円、着地を103円と想定してきたが、混乱の発端となる疫病リスクの先行きがまったく見えないなかで、これを割り込む可能性も視野に入り始めている。

3月にも2014年6月当時のFF金利(0.00~0.25%)に戻る可能性がささやかれる現在、ドル/円相場がいまだに100円を回避できていること自体、不思議だという目線で評価すべきだろう。

重要なことは、素人が思索をめぐらせても分からない疫病の先行きよりも、「もともと存在した米金利とドル相場の歪みがようやく解消され始めた」という目線で、現状と展望を描くことだ。

2014年6月以降、6年弱にわたってドル高相場が続いており、そもそも長過ぎる。それが逆回転すること自体は、変動為替相場の歴史に照らせばふつうのことであって、何よりその裏付けとなる米金利の急低下もある。

過去に比べれば、日本の対外債権は証券投資ではなく直接投資主体の構造に変化しているため、外貨建て資産が売却されて円に戻ってくる「リスクオフの円買い」は発生しにくいはずだ。したがって、2009~11年ほど苛烈な円高局面にはならないだろう。

だが一方、長過ぎたドル高局面がようやく終えんを迎えようとしているのだとすれば、当面は、円高ドル安で推移することもまた致し方ないのではないか。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。


唐鎌大輔:慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。

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