ビザスク創業者の端羽英子氏。
撮影:横山耕太郎
スポットコンサルのマッチングサービスを運営する「ビザスク」は2020年3月10日、東証マザーズに上場した。上場時の公開価格1500円に対し、初値は1310円をつけた。時価総額は109億2700万円(10日午後3時)となった。
今でこそ、副業が当たり前に語られるようになった日本だが、ビザスクが設立された2012年3月はまだまだ一般的ではなかった。
それでも時代に先駆け、隙間時間を利用した副業サービスに挑戦した理由は、創業者・端羽英子CEO(41)が、「人手不足の日本で、働きたいのに働けない人がいるというのはおかしい」という強い思いを持っていたからだ。
ゴールドマン・サックス1年で退社
新型コロナウイルスの影響で、東証での上場セレモニーが中止になったため、社内で記念のイベントを行った。
提供:ビザスク
ビザスクの売り上げの8割を占める主力サービス「ビザスクinterview」は、新規事業の開発に取り組む企業や、市場の分析を行うコンサル会社などが、1時間単位で知見を持つ個人(アドバイザー)に意見を聞けるサービス。
アドバイザーの登録者は、約500業種、計10万人まで成長。パナソニックやトヨタなどの大企業や金融機関、コンサル会社など法人契約しているクライアントは423にのぼる。マッチングの累積数は4万7000件。
同社を率いる端羽氏は、外資系企業などを渡り歩いた経歴を持つ。
東京大学卒業後にゴールドマン・サックス証券に入社。長女を出産後、米国公認会計士の資格を取得し、日本ロレアルへ。その後、マサチューセッツ工科大学に留学しMBAを取得、ユニゾン・キャピタルに勤務。33歳でビザスク(当時の社名はwalkntalk)を起業した。
輝かしい経歴だが、本人は「何とか強みを作らないといけないと必死だった」という。
「ゴールドマン・サックスにいたのは1年だけで、自分には売れるものがなかった。資格を取って自分で働き方を作らないといけないと思っていました」
個人が売り手になれる世界
ビザスクが起業したのは、日本でまだシェアリングエコノミーが広く知られる前だった(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
「いつかは起業したい」と思っていた端羽氏が影響を受けたのが、2010年に出版された『シェア からビジネスを生み出す新戦略』 (レイチェル・ボッツマン著)だ。
当時の日本では知られていなかった、Uberなどシェアリングエコノミーを紹介した本で、起業のきっかけになったという。
「個人が売り手になれる時代がきたと感じた。一人1人が自分のスキルを売り出す世界で勝負しようと決めました」
「やっと時代が追いついた」
撮影:今村拓馬
2013年11月にサービスをスタートした当時は、副業という言葉がマイナスな意味で使われることばかり。2014年は登録数が伸びない苦しい時期が続いた。
それでも事業をあきらめなかったのは、「確実に時代が変わる」と確信していたからだ。
「日本の労働人口が減っていくのは間違いないのに、働きたくても働けない人がいるのはおかしい。そこを変える何かがあるはずだし、ないなら自分で作ろうと。絶対に何か起きないとおかしいと思っていました」
追い風が吹き始めたのは2015年前後。政府が「一億総活躍推進室」を発足させるなど、国も働き方改革に本腰を入れ始めた。企業側も外部の知恵を導入することに、前向きに変化してきた。
「やっと時代がきたなと。時代が追いついてきたと感じました」
「とにかく知ってもらいたい」上場決める
ビザスクは2019年2月期に初の黒字化を達成した。
出典:ビザスク「成長可能性に関する説明資料」
サービスは成長しているものの、営業利益は2019年2月期に2407万円の黒字化を達成したばかり。なぜ今、上場なのか。
「一番はとにかくサービスを知ってもらいたい。上場してチェックを受けることで、社会の公器として信用され、たくさんの人が参加してくれるプラットフォームになりたい」
目指すのは「働いている人はみんなビザスクに登録している社会」だ。
「今すぐ副業、転職を考えていなくとも、自分にどんなニーズがあるのかを知ることができる。もっとライトなプラットフォームでありたい」
競争激しいシェアリングサービス
様々なシェアリングサービスが生まれ、競争が激しくなっている(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
スキルのシェアリングサービスは参入も多く、競争が激化している。
インターネット上で仕事を受発注できるプラットフォームを運営するクラウドワークスは、副業を希望する人材と企業をマッチングする新サービス「CrowdLinks(クラウドリンクス)」を2020年1月に開始し、すでに3000人以上が登録している。
登録ユーザー同士が、企業に適した友人や知人を紹介するサービス「Spready(スプレディ)」も、2019年5月にサービスを開始するなど、参入が続いている。
ビザスクが成長するためには、サービスを利用する企業の掘り起こしも必要だ。
「現在はコンサル会社の利用と、BtoBのメーカーなどの事業会社の利用は半々程度。特に世の中には事業会社の数は多いので、ブルーオーシャンだと感じている。
いかに早く、いかに遠くまで成長し続けられるか、ファーストムーバー(先行者)としてのメリットをちゃんと享受していきたい」
海外アドバイザーの体制整備
サービス開始以降、アドバイザーの登録数を伸ばしている。
出典:ビザスク「成長可能性に関する説明資料」
今後は新しいサービスの拡充も目指す。2020年1月にはシンガポールに初の海外拠点を設置し、海外アドバイザーとリアルタイムにやり取りできる体制を充実させた。現在、海外事案の割合はわずかだが、中期的には利用の2割まで伸ばしたいとしている。
また一度に多くのアドバイザーの知見が得られるアンケートサービス「ビザスクexpert survey」も浸透を目指す。2018年1月に開始したサービスで、「新しく開発した技術をどう生かせるか」など、複数のアドバイザーにアンケートを行える。
アドバイザーの登録が増えることで、より質の高い調査ができるようになるため、成長が期待できるという。
「まだまだ女性のリーダーが少ない」
「これからも成長していきたい」と笑顔で話す端羽氏。
撮影:横山耕太郎
「女性社長」として、注目されることも増えてきた端羽氏。
日本では女性のリーダーが少ないことで、弊害も少なくないと指摘する。
「『端羽さんのお嬢さんは、あなたに気を使っている』と仕事先の男性に言われたことがあります。悪い母親だと言われた気がしましたが、どうやら娘と私をほめたかったようです。
悪気がなくても、働く女性の罪悪感を刺激する発言をする男性がいるのは事実で、何より男性が知る努力をしないといけない。そもそも働く女性が罪悪感を持つこと自体がおかしいのですが。
そういう意味でも、女性の痛みを知る人がリーダーになるのはいいことだと思っています」
2012年に起業して以来、時代の要請を受けながら、成長を続けてきたビザスク。端羽氏は、「上場後も走り続けたい」と語る。
「来年の今頃、今日の私を見て本当に甘かったと思っていたい。ものすごくたくさんのことを学んだら、1年前を振り返った時には、今の私は何も知らなかったと思うはずだから」
(文・横山耕太郎)