「新型ウイルスは4月終息」期限示し我慢受け入れさせた83歳専門家と2つの対策

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中国では3月に入り、新型コロナウイルスの感染者が激減している。

3月10日に確認された感染者は、武漢で17人まで減少。軽症者を収容するために体育館などを転用して開設した武漢のコンテナ病院も、同日に14施設全てを撤収した。上海ではディズニーランドの一部が営業を再開するなど、経済活動も徐々に正常化に向かっている。

中国で感染対策において重要な役割を担っているのが、衛生当局専門家委員会のトップを担う、83歳の鍾南山氏だ。2003年に中国で大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)で、現場のトップとして奮闘。SARSを軽視、または隠ぺいしようとする政府に異を唱えたことで知られる鍾南山氏は、“建国以来最大の感染症”の対策で再び表舞台に登場した。

「政府の発表も、メディアのニュースも、何が正しいか分からない」中国で、SARS対策で実績を持つ鍾南山氏への信頼は絶大だ。

大学の通知に「毎日、鍾南山氏の発言をチェックしなさい」と記載され、中学生が書いた鍾南山のイラストがSNSでバズる。彼がメディアに出るとSNSで若い世代から「かわいい」「頑張れ」「癒される」とコメントが殺到する。

疲れきってうたた寝している場面をメディアに報じられても、批判されるどころか応援される鍾南山氏は、もはや国民的インフルエンサーだ。初動の遅れで国内外から猛批判を浴びる中、鍾南山は中国政府にとっても救世主になった。

希望を与え我慢を受け入れさせる

鍾南山氏

広州市の商業施設に掲示された鍾南山氏の垂れ幕(2月10日撮影)。

Reuters

調査研究から、国民への正しいマスクの付け方の動画指南まで、鍾南山氏の感染症対策に対する役割は多岐にわたるが、日本と比較して感じる鍾南山氏の最大の役割は、「具体的な目標と期間を提示して、国民に希望を与えながら我慢を受け入れさせること」かもしれない。

1月18日に武漢で現地調査を行った鍾南山氏は、20日に初めて専門家委員会の会見を開き、「今は感染の初期段階」「春節前後の40日は感染者が拡大する」と明言し、覚悟を迫った。

2月初旬には、メディアのインタビューに、「これまでの抑え込みの効果が見えるのは2月20日前後」と述べた。

そして2月11日には、ロイターのインタビューに対し「4月に終息させたい」と述べた。中国でもメディアのぶら下がり取材の際に「4月終息プラン」を語っていたが、ロイターに発信することで、世界に中国の見通しを示した。

鍾南山氏はこれらの「期限」と共にその論拠も明らかにしているが、その目的は、国民と「具体的な目標」「我慢の期間」を共有することで、次の政策を発動しやすくする地ならしにあるように見える。彼の発言には常に、先行きの「厳しさ」と「希望」が含まれているからだ。

鍾南山氏は直近では2月27日に広州市で「これまでの総括」とも言える記者会見を開いている。以下は、その時の会見での内容だ。人民日報や南方日報の詳報、動画ニュースを基に日本語訳した。

2つの方法で感染ピークを抑え込んだ

このところ、自分の言葉をメディアがそのまま報道してくれる。だから私はメディアをとても信頼している。

1月20日に我々は「人から人」「医療従事者の感染」を明確に認めた。中国政府の新型肺炎対策にとって、非常に重要なことだった。

武漢では大規模なパンデミックが起きたが、その他の都市ではそうなっていない。

おそらく新型コロナウイルスは、1人から2~3人に感染する。感染のスピードは速く、より感染力が強い患者も見られる。

(権威ある医学雑誌)『ランセット』に掲載された論文に、2月初めには中国の感染者が16万人に達するとの予測が示された。

ただし、我々のチームはこのモデルに「政府が強力に関与すること」「春節の後半の移動ラッシュをなくすこと」の2つの要素を加えることで、2月中旬から2月末の感染ピークを抑えられると考えた。2月15日に感染者数の数字が下がり始めたことで、我々は4月末に終息が可能だと自信を持った。

コンテナ病院

軽症者を収容するため武漢の14カ所で開設されたコンテナ病院は、3月10日に全て閉鎖された。

Reuters

4月末には、仕事も元通りになるだろう。これは国内の状況だ。海外のことは今は何とも言えない。

国内の感染源である武漢では、感染者の洗い出しと隔離に膨大な労力を割いている。現時点で(重症者を収容するために突貫工事で建設された)火神山医院、雷神山医院は既に空きベッドが出ている。退院が進んでいるからだ。適切な隔離は本当に成否を分ける問題だ。

当初、武漢には感染疑いの病人が多数いて、いかに迅速に診断するかが差し迫った問題だった。アメリカのインフルエンザが爆発したときも、死者が多数出た。

だから我々は、研究開発と臨床診断を加速させた。いかに短時間に新型コロナウイルスとインフルエンザを識別するかがとても大事だった。

確定診断を進めるために、PCR検査以外にも、新型コロナウイルスの抗体検査にIgMとIgGを入れた。IgM抗体が陽性を示すなら、感染して日が経っておらず、IgG抗体が陽性なら、少し前に感染したか、感染したことがあるという判断だ。国家食品薬品監督管理局2月22日深夜2時、この2つの抗体検査キットを承認した。

治療プランも複数があった。

ウイルスの転移時間は5~7日で、10日は超えない。この時期に安全が認められた薬を使ってみるのは完全に正しい。いくつかの薬の中で、我々は抗マラリア薬の一種「リン酸クロロキン」の治療効果がみられることを確認したが、まだ色々確認しないといけないことがある。

「再陽性」の患者の再感染の可能性は低い

一般的に、感染した患者の体内のIgG抗体が4倍以上に増えたことが確認されると、その患者は治癒後に再び感染・発病しないと判断している。

今、重視しているのは、感染者が治癒後再陽性になったときに、もう一度他の人に感染させる可能性があるかだが、それは確定できていない。

また、再び陽性になる要因はいろいろある。

PCR検査は最近発展したもので、検査キットそのものも検査の方法も影響した可能性もある。家で隔離中に検査して再び陽性になったらどうするかだが、その場合は24時間後にもう一度検査して、陽性だったら病院に行くべきだ。

ただ、正確に回答するなら、新型コロナウイルスに感染し、抗体も確認された患者が治癒後に陽性になったとしても、再感染した可能性は低い。

世界は共同で体制をつくる必要がある

2003年の鍾南山氏

2003年、世界保健機関(WHO)から派遣されたイタリア人医師と会話するSARS現地責任者の鍾南山氏。

Reuters

中国の感染増加のペースは海外を下回るようになった。

海外では韓国、イラン、イタリアが深刻だ。中国のやり方は何かヒントになるかもしれない。だから私は週末、欧州の呼吸器学会にオンラインで参加し報告する。これは人類の病気で、国家の病気ではない。広州の大学、ハーバード大学、トロント大学も臨床試験の薬品を持ち寄っている。

中国は流行のピークに達してから、感染者の減少が急速に進んだ。これは簡単ではないことだ。もし感染拡大している国に中国の知見をシェアできるなら、早期発見、早期隔離が重要だと言いたい。

日本はクルーズ船からの下船を許さず、隔離したが、隔離が長引くにつれ患者が増えた。このやり方は何か問題があったと言えるだろう。

韓国の感染拡大は非常に速く、国際連携を強化する必要がある。経験をシェアし、世界は共同で感染対策の体制を構築しなければならない。早く発見すれば85%以上は状況は悪くならない。高血圧、腎臓病などの基礎疾患を持つ患者は、リスクが何倍もある。日本と韓国は感染が広がりつつあり、我々は支援を忘れてはならない。

我々はいくつか世界にシェアできることがある。

まず大事なのは感染の「川上」をしっかりと抑え、早期予防、早期発見、早期隔離を徹底すること。病人を専門病院で診ること。一般病院では人的リソースと物品を消耗する恐れがあり、急性感染症の治療には専門性が必要だからだ。

特に重篤な患者は、感染病学以外に、総合的な知見を持って治療に当たらなければならない。

疾病対策部門の地位が低すぎる

武漢の子ども病院

武漢の子ども病院で新型肺炎に感染した赤ちゃんを世話する医療スタッフ。3月撮影

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今回のような突発性の公共衛生事案には、多くを投入しなければならない。新型肺炎は12月31日にはっきりと確認され、1月3日にワクチン株が分離され、7日に国連に提供もした。だが、我々は発表しなかった。

中国の中国疾病対策センター(以下、中国CDC)の地位は大変低く、ただの技術部門にすぎない。CDCは重要機関と見られておらず、上層部への報告も、一つ一つ段階を経てしかできなかった。

中国CDCはまず地方政府に報告し、それから地方政府は対応を決定する。今後もこのような状況だと、深刻な事態が起きる。(新型肺炎を早期に警告しながら「デマ」を流したとして処分され、自らも新型肺炎で死亡した)李文亮医師もこの異変を早くから警告していた。今の体制は絶対に変えなければいけない。

そもそも、感染症対策を軽視しているし、持続して研究する体制も整っていない。誰もが、新型肺炎の治療に関してなすすべがないという感じだった。こういうものは長期的な蓄積が必要だ。

経済活動活発化で感染拡大はもう一山来る

現在は企業が操業を再開する時期にある。我々は以前、企業再開後にまた感染のピークが現れると予測した。今日は2月27日だが、この後にもう一山あるだろう。

今は列車、飛行機すべてを検査する必要がある。ウイルスの自然な拡大は抑え込んだ。だから企業再開はすべきだが、それでも厳格な管理下でやるべきだと考えている。

例えば、鴻海精密工業は数万人が3000平方メートルのスペースで働いている。我々は従業員をPCRとIgMの2段階で検査し、同時に工場の全ての水道、下水道を清潔にするよう指示した。今は、ウイルスが消化器を伝わって感染するとは証明されていないので、呼吸器官の防御をきちんとするべきだ。

野生動物を食べる習慣を改めるべき

中国の全国人民代表大会(全人代=国会)の常務委員会は2月24日、野生動物の違法取引と野生動物を食べることを全面的に禁止すると決定した。野生動物を食べるという古い習慣をやめて、人の命と健康をしっかり守ろうという決定だ。この政策は、突発性の感染症対策にとって重要な意味がある。

人と動物の関係が密接であるほど、生態系の破壊は大きくなり、ウイルスが人に感染しやすくなる。今回は浙江省舟山群島のコウモリがウイルスの宿主で、華南農業大学はセンザンコウも中間宿主の可能性があると発見した。

野生動物の禁止は、全国で禁止してもなかなか止まらない。特に広東省だ(野生動物の取引が活発だ)。

大半の動物はウイルスに感染していても発症しないが、人への感染リスクはある。SARSではハクビシンが重要な中間宿主だった。当時、広州のある市場で取引されていたハクビシンの80%はウイルスを持っていた。

野生動物を食べるのは人類の古い習わしだ。

21世紀に入り、既に3度コロナウイルスの感染が起きている。コロナウイルスはただちに拡散を防止しなければならない。我々が2019年12月初めから今年1月に厳格に防御措置を取っていたら、病人はもっと減っていただろう。


鍾南山氏は3月9日、新型コロナウイルスが欧米でも拡大していることに対し、「世界的な流行は6月まで続く」とも述べている。

浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。現在、Business Insider Japanなどに寄稿。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。

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