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住宅購入者に緊急警報。新型コロナの影響で「トイレ・キッチン未設置のまま引き渡し」トラブルの原因に

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新型コロナウイルス流行の影響で、トイレやキッチンが未設置のままでも「完成」した住宅として引き渡しできる特例措置が導入されたという。

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新型コロナウイルスは各界に大きな影響を及ぼしているが、身近な「住宅」の世界でも大きな影響が出ている。

システムキッチン、ユニットバス、ドアなど、中国に生産を依存している水回りの建材・設備部品の供給が滞り、住宅が完成できない状態になっているというのだ。

住宅が完成しないと、3月に引っ越しを済ませて4月からは新しい学校や職場に、と計画していた方々の生活に狂いが出るだろう。

もちろんそれだけではない。事業者も住宅の引き渡しができなくなるので、下請け業者などへの支払いにあて込んでいた代金が入ってこなくなり、資金繰りが厳しくなる。水回りをビジネスの柱にしている中小のリフォーム業者は、新規の受注もとれない状態になる。

「柔軟な」特例措置の中身

そんなわけで、中小事業者に対して、政府系金融機関を通じて大規模な資金繰り支援を行う旨の方針が、安倍総理から示された。

大変結構なことだ。

ただ、気になることがある。実はその前の2月下旬、妙な施策が講じられたのだ。

住宅工事が終わったあとに建築基準法に従って役所が行う「完了検査」を、特例措置として「柔軟に」実施することにしたという。具体的には、部材が手に入らず、住宅が未完成の状態でも、完成したとみなして検査の申請を受けつける。

その施策と呼応するように、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)が、住宅ローンの貸し出しを行うための前提条件としている「適合証明書」(=物件検査を経て同機構の技術基準に適合していることを示す)も、未完成の状態で取得できることになった。

簡単に言えば、トイレ・キッチンが未設置の状態でも、住宅ローンが借りられるということだ。

住宅金融支援機構に限らず、多くの民間銀行の住宅ローンでも、完了検査さえ終われば、融資可能な状態にはなる。というか、銀行員は住宅にトイレがちゃんと設置されたかを実際に見に行ったりはしないので、当事者間で引き渡しが行われるなら、検査後に融資を止める理由がない。

「声の大きな」事業者の働きかけ

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住宅工事後は、建築基準法にもとづいて「完了検査」を受けなくてはいけない。

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それにしても、なぜこんな施策が導入されたのか。

その筋に聞いてみると、「さまざまな事情で、未完成のままでも引き渡しを受けたい顧客がいるといけないので」と言われた。

まあ確かに、入学先の手続きなどの都合で、住めなくても家は引き渡してほしい事情の人がいないとは言い切れない。

でもふつうに考えると、トイレやキッチンのない内装中の住宅に、代金だけ先に払ってしまいたい人が多くいるとは思えない。

さらに聞きまわってみると、実情が分かってきた。どうやら“声の大きな”事業者が、兎にも角にも物件を引き渡して代金を払ってもらうために、「柔軟な」対応を働きかけたということのようだ。

大手の住宅事業者なら、資金繰りの問題ではなく、完成扱いをできるだけ増やして年度末に数字をつくりたいという話だろう。一方、地域の工務店など中小事業者ならやはり直接的な理由で、できるだけ早く完成のお墨つきをもらって引き渡し、代金の支払いを求めたいということだろう。

実は、中小事業者がこの特例措置を使って適合証明書を取得し、住宅ローンを前倒しで借りさせ、客とトラブルになる事例が出てきているそうだ。

住宅金融支援機構はトラブルの責任はとらない

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新型コロナウイルスの影響は住宅建築にも大きな影響を及ぼしている。

Getty Images

そもそも中小事業者の資金繰りの問題は、冒頭で紹介したような政府系金融機関などを通じた支援で対応すべき話だ。完成していない住宅を「柔軟に」完成したことにして、物件検査を通してローンを貸すなど、いかにも不自然なやり方だ。

この件に関する住宅金融支援機構の通知文書を読むと、適合証明書をもらうにあたり、融資利用者に次のような事項の確認を求めている。

  1. トイレ等の設置工事が完了する前に適合証明書が交付されると、取扱金融機関が住宅ローンの融資を実行するので、その契約にもとづいて返済も始まること
  2. 請負業者や住宅販売事業者が工事資金を受け取ることになっている場合、融資の全額が交付される(=未完成部分の融資だけを留保することはできない)こと
  3. トイレなど未設置のまま住宅ローンが実行されたことで起きるトラブルは、すべて融資利用者と工事請負業者のあいだで解決すること

さらに、これらの確認事項について、融資利用者と工事請負業者の双方が署名捺印した「申出書」を検査機関に出しなさいということになっている。

簡単に言うと、適合証明書が出たらローンは全額貸します、でもその後の責任はとらないので、了解したことを捺印して確認してください、ということだ。事業者側の都合でやることなので、機構としてはあとで借り手と揉めないように一筆とっておく、というのが申出書の意味合いだろう。

適合証明書の申請はふつう、事業者が代理でやってくれるので、住宅の購入者が直接的に手を下すことはない。事業者がたくさんある書類と一緒に「申請書」を持ってくれば、深く考えずにハンコを押す人は少なくないだろう。

住宅の購入代金も、昔と違って銀行振り出しの小切手で払ったりすることはなく、金融機関から工事請負業者や販売事業者の口座に直接振り込まれることが多いから、下手をすると融資が行われたことに気づかないことすらあるかもしれない。

仮に住宅購入者が納得済みだとしても、なぜトイレやキッチンが設置されていない未完成の住宅を引き取り、ローン返済まで始めなければならないのか。合理的な理由がどうしても思いつかない。

事業者の資金繰りのために、顧客に金を借りさせる

住宅金融支援機構のローンは、実際には、銀行やモーゲージバンクといった民間の金融機関が融資を取り扱う。取扱金融機関は適合証明書の提示を受ければ、それが特殊な扱いの結果得られたものかどうかを知るすべがない。

融資を求められれば、書類が完備している限りは実行するしかない。仮に良心があっても、「本当に代金を全額支払っていいんですか」と聞く機会がないということだ。

こうしてみると、どうもこの施策は、住宅事業者の資金繰りを支援するために、顧客に前倒しで金を借りさせることにした、と説明するのが一番のようだ。

では、住宅購入者の側はどう対応すればよいのか。

実は、住宅金融支援機構には、物件完成までに事業者に内金を支払ったり、土地の購入資金を先に借りたりするときのために「融資保険」という別の制度がある。

すでに書いたように、住宅ローンは完成時に全額を借りることしかできない。それまでのあいだを民間金融機関のつなぎ融資でまかなう場合に、住宅金融支援機構が保証してくれるのが、融資保険だ。

本来ならこの制度を活用して、トイレやキッチン部分を減額した代金をつなぎ融資で払っておき、全体が完成したところで住宅ローンを全額借りて、つなぎ融資の返済と残りの代金支払いに充てる形にすべきだろう。

筆者が聞いた限りでは、そのような対応は一切考えていないということだった。捺印した申出書が出される以上、顧客はリスクを理解しているはずだから、というのが理由だ

ウイルス流行が続くと問題は深刻化する

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中国製の水回り部品の供給再開が遅れれば、いつまでもこのままということも……。

Getty Images

住宅ローンを借りて先に代金を支払っても、ちゃんとした業者なら最終的に問題ない。

しかし、新型コロナウイルスに起因するこの問題のいやらしいところは、じわじわ深刻化していくことと、問題がいつまで続くか見えないことだ。

事業者がこの年度末を無事に乗り切ったからといって、そのあとも問題が続かない保証はどこにもない

部材の供給が元に戻らず、(トイレやキッチンがなくて)住めないのにローンの支払は容赦なく続く事態も考えられる。

また、部材が届かず新たな受注もままならない現状が続けば、ちゃんとした事業者であってもそのうち経営が苦しくなって、最後には住宅を完成させられなくなる……といったことがないとは言い切れない。別業者に頼んで完成させてもらったとしても、代金は二重払いになる。

これらはすべて穿った見方かもしれない。しかるべき人に聞けば、もっとしっかりした説明があるのかもしれない。でも筆者には、借りる側よりは、事業者の都合で借りる側に負担をさせる仕組みをいち早く導入したという説明が、やはり一番素直に思えてしかたない。

民間銀行ならちゃんとやってくれるかというと、そうとも言い切れない。工事請負業者や住宅事業者が融資先だったりすると、それを早く回収するには住宅ローンに切り替えたほうがいいといった思惑が働き、事業者と銀行の利害が一致する可能性もある。

住宅を建築中の方々に緊急メッセージ

そんなわけで、久しぶりとなるBusiness Insider Japanへの本寄稿を通じて、読者の皆さんに緊急メッセージを送りたい。

もしいま住宅を建築中で、中国から部材が入らないのでまだ住めない状態だが、とりあえず完成したことにさせてくださいと言われたら、どうしても早く引き渡しを受けたい事情でもない限り、ローンを借りて代金を支払わないこと。

それで苦しくなる事業者の資金繰り支援については、安倍総理のイニシアチブのもと、ちゃんと別の仕組みが用意されるはずなので、何も住宅ローンを前倒しで借りて業者を支援することはない。家は住めて初めて家なので、その状態になってから代金を支払ってほしい。

ただし、こういう時節なので、工事遅れの責任が事業者にあるわけではない。遅延損害金を要求するといったことについては、それこそ柔軟に考えてあげてほしい。

住宅金融支援機構や銀行は最近、あまり個人のことを考えていないように見えることが多い。いろいろ面倒なことが日々起こるなか、どうか自己防衛だけはしっかりとお願いしたい。


大垣尚司(おおがき・ひさし):京都市生まれ。1982年東京大学法学部卒業、同年日本興業銀行に入行。1985年米コロンビア大学法学修士。アクサ生命専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学教授を経て、青山学院大学教授・金融技術研究所長。博士(法学)。一般社団法人移住・住みかえ支援機構代表理事、一般社団法人日本モーゲージバンカー協議会会長。

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