気鋭の広告クリエイター、三浦崇宏。彼の熱く鋭いメッセージは若者を魅了してやまない。今回の「GO三浦の生き様道場 いいからいけよ」は、Business Insider Japan主催のビジネスカンファレンス「BEYOND MILLENNIALS 」で行われた山内奏人さん(ワンファイナンシャルCEO)とのトークセッションの様子をリポートする。
「才能」の正体とは何か
三浦崇宏(以下・三浦)
今回は、おれが本当に天才だと思ってる起業家の奏人くんと話したいなと。ちなみに、おれは「天才クリエイター」みたいに紹介されることもあるけど、本当は「天才に見せかけるのがうまい、かなり優秀な普通のクリエイター」ね(笑)。ところで、奏人くんはいくつだっけ?
山内奏人(以下・山内)
18歳です。
三浦
おれが今36歳なんで、ちょうど半分か。どんな会社をやってるか、改めて、説明してもらっていいかな。
山内
WEDという会社で――僕は「当たり前を超える会社」って呼んでるんですけど――当たり前を超える、極めて普通ではないことをやっています。一番有名なサービスだと、レシートを買い取る「ONE(ワン)」というアプリを2018年の6月にリリースしました。
三浦
すごく話題になったよね。
山内
1週間で30万人ぐらいにダウンロードして使ってもらったので、けっこう面白いことが起こったなと。
三浦
今日は、「才能」とは何だろうって話をしたいんだよね。まずおれの考えを言うよ。才能って、欲望の「距離」と「解像度」のことだと思う。
山内
「距離」と「解像度」ですか。
三浦
たとえば、元ZOZOの前澤友作さん。彼、月に行きたいって言ってたけど、月に行きたいなんて普通は思わないじゃん。つまり「月に行きたい」って欲望できていること自体がすごい。イチローさんだったら日米4000本安打を達成しようとか、ウサイン・ボルトだったら100mを9秒台で走ろうとか。
山内
たしかに。
三浦
落合陽一もそう。自然環境の中でデジタルが一体化した世界観を作ろうだなんて、普通の人の常識では考えつかないでしょ。それくらい大きな理想を欲望できるということが、まず、すごい。
これが欲望の「距離」ってやつ。
山内
解像度というのは?
三浦
欲望の距離だけだと妄想で終わってしまうので、実現までの道のりを丁寧に考えられること。それが解像度。
この2つを持ち合わせている人が、天才。そういう意味で奏人くんは天才だと思ってるよ。「天才に見せかけるのがうまい」だけなのかもしれないけど(笑)。
クリエイターとプログラマー。分野は違えど、お互いの才能には興味がつきない。
才能とは「現実をねじ曲げる力」
山内
(笑)。三浦さんの定義はその通りだなと思いつつ、僕、「才能」って、現実をねじ曲げる力だと思います。「常識的に考えたら、現実的に考えたら、そんなことできないでしょ?諦めるでしょ?」なんてことをまったく考えずに乗り切ってしまう。それが才能であると。
三浦
我々の会社GOも、企画を考えるときは「前提をぶっ壊すのが前提」と考えるようにしてるよ。なぜなら我々は天才じゃないから。前提を与えられると、その前提のなかで、常識の範囲内で物事を考えてしまうから。
ところが、一部の天才は、常識の向こう側にあるものが、初めから見えてる。あたかもそれが普通のことのように、息を吸うように、現実の向こう側にあるものに手を伸ばせる。それが天才の条件じゃないかな。
おれはよく、おかげさまで「三浦は天才だよねと」言っていただくことがあるんだけど――あ、ネットに自分で書いてるわけじゃないよ(笑)――それはおれが常に、「常識の向こう側に行こう」って意識してるから。毎朝、「前提をぶっ壊すのが前提だ」って3回言ってから出社してるんだよ。
山内
そうなんですか!!
三浦
噓だよ(笑)。
山内
嘘ですか(笑)。
三浦
そのくらいの気持ちってこと。でも奏人くんは、普通の人には見えてる壁が見えてないかのように、向こう側に手を伸ばせる。そこがカッコいいなと思って見てます。
山内
意識してそうしてる部分もありますけど、僕は社会人として働いたことがないからこそ、できてるのかなとも思います。 いい意味でも悪い意味でも常識がないので、それをアドバンテージとして使おうと。
三浦
GOに若いクリエイターが入ってきた時に、どこまで「型」を教えるかは悩むよ。おれも一応10年博報堂でやってきたので、なんとなく発想法みたいものはある。だけど、例えばGOに新卒1期生で入社してきた飯塚政博っていうヤツは、ケンドリック・ラマーの黒塗りの広告とかを作ったんだけど、やっぱりおれにはない発想を持ってるんだよね。
もちろん技術は教えるよ。だけど教えすぎることで、その技術が彼にとっての新しい「常識」になって、古い固定観念に囚われてしまったら、師匠であるおれとしてはギルティ(有罪)だなと思ってる。
使いこなせる道具としての技術と、彼の世界観や才能を爆発させるための技術、その違いの見極めは超大事。だから、天才って簡単に殺されるんだよね。
「原理」こそ正義
山内
あと、天才は炎上もしがちですしね。
三浦
「そんなことやったら危ないよ」と外野から言われる。
山内
それで言うと、僕はわりと、事業を作る時にビジネスモデルを一切作らないんですよ。
三浦
もう面白いじゃん!
山内
「原理」が正義だと思ってるんです。
三浦
人間の原理ね。
山内
最近アメリカでは、イーロン・マスクが言ってる“ファースト・プリンシパル・シンキング”って考え方が流行ってるんです。2つの意見や2つの意思決定が対立した時に、じゃあ原理に立ち返って考えてみようという。僕も昔からそういうのが好きで。
三浦
その考え方を、生まれながらにして持ってたの?
山内
はい。なんか、「理解できない」みたいなことが怖くて。
三浦
理解できないことが怖い?
山内
できるだけたくさん理解したいし、分かるようになりたいじゃないですか。
三浦
ああ、だから直感的に理解できる原理が好きなんだね。
山内
たとえば、「ドラえもんのひみつ道具があったらいいな」というのは原理なわけですよ。あったらいいなと思うものを、ただ作る。それを心がけています。そんな時、ビジネスモデルってある種の障害でしかない。
三浦
マネタイズできないからやめようとか、お客さんが集まらないかもしれないからやめようとか。
起業家にとっては常識的なビジネスモデルの発想が、理想的なものを世の中に送り出すときには邪魔になってしまう、と。
山内
なので、とりあえず作ってみて、どういう人が使っているか、それが結果的にどういう価値を生み出したかを確認してから、マネタイズしたほうがいいかなと。
三浦
そういう考え方って生まれながらにあるの? 努力したり工夫したりすることで獲得するものなの?
山内
たぶん、試行錯誤していくなかで生み出してきたんじゃないでしょうか。
三浦
でも奏人くんは18歳でしょ。 試行錯誤してきた時間ってそんなに長くないよね。
山内
12歳の時から働いているので、一応6年くらいは(笑)。でもある種の年齢ハラスメントは受けて生きてきました。やっぱり若いから説得力がないんですよね。だから相手を納得させようと思ったら、経験に照らし合わせるんじゃなくて、「世の中の倫理ってこうだから」と説明する。
三浦
つまり原理だ。
山内
はい。僕にとっては、信頼を築いていくにあたって原理が非常に有効だったんです。人の信頼を得る、納得感のある意思決定を行うには、原理が強い。そして、原理があることによって、自分が間違っているとも認めやすいんですよね。人間の考えと原理だったら、原理のほうが強いから。
三浦
年齢とか法律って、土地とか共同体が作った偏見、独自のルールだよね。
あらゆるルールってどこかのローカルルールだから、そういったものを全部ぶっ飛ばして、人間本来が求めるものとか、人間が必ず欲しいものを考えるようにしているわけだ。
山内
そうです。
三浦
おれなんかだと、意識的にそういう風にしないとダメ。一生懸命意識して考えて、やっとそういう境地に達せるわけ。だけど奏人くんはナチュラルにできているのが素敵だなと思う。
空手の試し割りってあるじゃない。あれって、 板を割ろうと思って殴っても割れないんだよ。板の向こう側にある胸板を殴ろうとした時、初めて割れる。
つまり、常識を打ち破ろうと思っているうちは、常識は打ち破れなくて、常識なんか最初からないかのように振る舞って、初めて常識を打ち破れる。奏人くんみたいに。
山内
三浦さんは、それを意識して行動しているんですか。
三浦
言ったでしょ、「前提をぶち壊すのが前提だ」と朝3回言うって(笑)。人間って、繰り返しやればクセがつく。そういう思考をしよう、発想をしようと、意識して考えて、「自分の思考の型」をつけていけば、自然とできるようになる。傍からはナチュラルにやっているように見えるんだけど、おれの場合は努力の賜物なんだよ。
※本連載の後編は、3月27日(金)の更新を予定しています。
(構成・稲田豊史、 連載ロゴデザイン・星野美緒、 撮影・伊藤圭、編集・松田祐子)
三浦崇宏:The Breakthrough Company GO 代表取締役。博報堂を経て2017年に独立。 「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞をはじめ、CampaignASIA Young Achiever of the Year、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル ゴールドなど国内外数々の賞を受賞。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブの力で企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援する。初の著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』が発売中。発売前から予約でAmazonのビジネス書で1位に。
山内奏人:2001年生まれ。WED CEO。6歳のときに父親からパソコンをもらい、10歳から独学でプログラミングを始める。2016年現ワンファイナンシャルを創業。 レシート買い取りアプリ「ONE」が、大きな反響を呼ぶ。