マイクロソフトの取締役を退任したビル・ゲイツ。
Mike Cohen/Getty Images for The New York Times
- ビル・ゲイツは3月13日、自ら運営にかかわる慈善事業に専念するため、米マイクロソフトの取締役を退任する考えを明らかにした。
- 翌3月14日、マイクロソフトはゲイツ退任を正式に発表した。
ゲイツがマイクロソフトの会長を辞任し、サティア・ナデラが最高経営責任者(CEO)に就任したのは2014年。ゲイツは当時、時間の3分の1以上を「プロダクトチームと対話する」ことと「次なるプロダクトを定める」ことにつぎ込みたいと語っている。
それは具体的には、ナデラにSlack(スラック)の買収を断念するようアドバイスすることや、LinkedIn(リンクトイン)の買収に向けて共同創業者リード・ホフマンとの会合をお膳立てすることを指していたとされる。
前者は、のちにマイクロソフトのビジネスチャット「Teams(チームズ)」が生まれ、成功するきっかけとなった。後者は、2016年12月に262億ドル(約2兆9000億円)という巨額の買収案件として実現に至っている。
いずれにしても、それらはあくまで私たちが知り得るほんの一例にすぎない。
ゲイツは取締役を辞任するだけでなく、ビル&メリンダ・ゲイツ財団での慈善事業に専念するという。マイクロソフトに傾ける時間は激減することになるとみられるが、一方でゲイツは、同社の未来のためにナデラへのアドバイスは続けるとも語っている。
「マイクロソフトについては、取締役は辞任するものの、会社から距離を置くという意味ではまったくない。マイクロソフトは私の大切なライフワークであり続けるし、サティアやテクノロジー部門の幹部らとは今後も連携して、会社のビジョンを描き、より大きな目標を達成できるよう協力していきたい」
スラック買収を止めた「ツルの一声」
2017年9月、SDGs関連のイベントで対談するビル・ゲイツ(右)、妻のメリンダ・ゲイツ、バラク・オバマ米前大統領。ゲイツはこうした慈善事業に専念するという。
Jamie McCarthy/Getty Images for Bill & Melinda Gates Foundation
ゲイツは2008年7月に非常勤の会長となり、経営の一線からはすでに身を引いているものの、マイクロソフトの経営判断に対しては決定的な影響力をもち続けてきた。
ゲイツからの支えや導きの多くは目に見えない形のものだと、ナデラはしばしば語ってきたが、現実には経営判断に直結する介入を行ったケースも知られている。
2016年、ビング(Bing)やオフィス、スカイプを統括していた当時エグゼクティブ・バイスプレジデントのチー・ルーが、80億ドル(約8800億円)でスラックの買収を検討していたとき、ゲイツは割り込んでいって、2011年に買収したスカイプに新たな機能を付加してビジネス向けプロダクトを開発するのに投資したほうがいいと提案している。
ゲイツの提案は受け入れられ、その判断からビジネスチャットのチームズが生まれた。チームズのデイリーアクティブユーザー(DAU)はすでに2000万人を突破し、スラックを追い抜いた(ただし、スラック側はマイクロソフトの計算方法に疑問を投げかけている)。
同じく2016年、ゲイツはリンクトインの買収についても水面下で動いた。
米証券取引委員会(SEC)に提出された書類から、ゲイツがリンクトインの共同創業者リード・ホフマンとプライベートで接触したことが明らかになっている。
買収の進捗やリンクトインの成長戦略、取締役ポストの提示などについて話し合ったとみられる。実際、ホフマンは2017年にマイクロソフトの取締役に就任している。
ゲイツの取締役退任に際して、ナデラは声明を発表し、ゲイツがマイクロソフトのプロダクトやサービスへのアドバイスを続けることを強調した。
「ビルは、ソフトウエアがもつ民主化の力を信じ、社会の最も切迫した課題を解決したいという情熱をもってマイクロソフトを創業した。おかげでマイクロソフトも世界も発展した」
「マイクロソフトの経営は、ビルのリーダーシップとビジョンから多くの恩恵を受けてきた。そしてこれからも、彼の尽きることのないテクノロジーへの情熱と、プロダクトとサービスを向上させる的確なアドバイスから、恩恵を受け続けるだろう」
(翻訳・編集:川村力)