撮影:鈴木愛子
Business Insider Japan読者にも多い「30代」は、その後のキャリアを決定づける大切な時期。幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。
この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
転職・異動・出向などで新しい職場へ。さて、その初日の挨拶、皆さんは既存メンバーに向けて、どんな「自己紹介」をしますか?
最初の自己紹介の仕方によって、新しい職場へのなじみやすさ、人間関係の築きやすさが大きく変わってきます。そこで今回は、新しい職場での自己紹介で何を伝えるべきかについてご紹介します。
雑談を生みやすい「ネタ」を
まず、皆さんが職場で「新メンバー」を迎え入れる場面を想像してみてください。
「初めまして。今日からお世話になります、〇〇と申します。以前は××社で□□の仕事をしていました。こちらでは△△を担当させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
新メンバーがこんな自己紹介をしたとして、お昼休みの休憩時間などにその人が近くに来たら、あなたはどう話しかけるでしょうか? どんな話題を切り出すでしょうか?
「以前は××社にいらっしゃったんですね」
「はい。そうなんです」
「……」
そんな感じで会話が盛り上がらないケースが多いのではないでしょうか。
相手の情報は、前の会社と職種だけ。前の会社をどんな事情で辞めたかも分からないので、前の会社の話題を出すのもためらわれるものです。うまく話題を見つけられないと、「あえて話しかけない」ということもあるかと思います。
では、新メンバーがこんな自己紹介をしたとしたらどうでしょうか。
「出身は○○県です。中学時代からサッカーをやっていて、今も社会人フットサルチームに入っています。体力が落ちないように、1時間のランを日課にしています。時々ハーフマラソンにも参加しています。家族は妻と3歳の娘と猫1匹です」
こう聞いたら、あなたは自分との「接点」を発見し、それを切り口に話しかけたくなるのではないでしょうか。
「○○県、旅行で行ったことあるよ。□□の景色に感動した」
「僕もサッカーやってた。ポジションはどこ? 今はどこのチームにいるの?」
「ハーフマラソンはどの大会に出場したの? 私もチャレンジしたいと思ってるんだけど、どんなトレーニングをすればいい?」
「うちの息子も3歳。まだイヤイヤ期が終わらないんだけど、あなたのところはどう?」
「私も猫飼ってる。種類は何?」
つまり、新しい同僚たちは「自分との接点」「共通する興味ポイント」を切り口に話しかけやすくなるというわけです。
ですから、自己紹介では、前職・コアスキル・担当職務を話すだけで終えるのではなく、「雑談ネタ」をなるべく多く提供することをお勧めします。
例えば、出身地・出身校・得意なスポーツ・学生時代の部活動やサークル活動・家族構成・趣味・特技・休日の過ごし方・好きな映画や本のジャンルなど。一言ずつでもいいので、なるべく多くの情報をアウトプットしておくといいでしょう。
ちなみに私自身の自己紹介はこんな感じです。
「故郷は滋賀県。『猿の惑星』のような大群の猿が出没する田舎で生まれ育ちました。当時地元は豪雪地帯で、中学時代、冬の間は寄宿舎生活を送りました。
中高ではソフトボール部のピッチャー、高校時代に『スクールウォーズ』にはまり、大学では体育会ラグビー部のマネージャー。マッチョ好きが高じ、主人は元アメフト選手で「リクルートシーガルズ」というトップリーグに所属していました。
今は高校生と小学生の男の子2人のママでもあります。今年まさに100年人生の折り返し地点を迎えますが、フルマラソン出場を目標に週末走ってますので、ぜひ皇居ランご一緒できそうな方は声かけてください」
このように、皆さんから関心を持ってもらえるように、見た目の印象とのギャップや意外性を意識したメッセージを心がけました。
「得意技」を上手にアピール
撮影:鈴木愛子
自分が得意としていて、「人に教えてあげられること」「人にアドバイスができること」を発信するのも有効です。
例えば、「ラーメン通です。〇〇エリアのラーメン屋は制覇しているので、お好みに応じてお勧めのお店をご紹介します」「趣味でファイナンシャルプランナー資格を取得しました。特に不動産投資や外貨預金に詳しいです」といったように。
私の以前の職場では、ある新入社員が「『ふるさと納税』を研究し尽くしました」と自己紹介していました。当時は制度ができたばかりで、メディアで話題になり始めた時期。後で、その人はメンバーたちから質問攻めにあっていました。
このように「得意なこと」を伝えておくと、「ちょっと話を聞かせて」「相談したい」と話しかけてもらいやすくなります。そして、相手の役に立ち、喜んでもらえれば、一気に心の距離が縮まるでしょう。
「年齢不明」だと距離を詰めにくい
なお、意外と抜けがちなのが「自分の年齢」の紹介です。
皆さんも隣の部署の中途入社者などであれば、「そういえばあの人って何歳なんだろう」ということがあるのではないでしょうか。
年齢が分かっているかどうかも、「声のかけやすさ」を左右します。中途入社してきたこの人は、自分より年上なのか年下なのか——それが分からないと、「敬語を使うべき?」「どんなトーンで話せばいい?」と迷い、話しかけるのを躊躇してしまうかも。新しい同僚があなたに対する適切なトーン&マナーを判断しやすいようにしてあげてください。
また、同い年の人がいれば、「同級生だよ」と話しかけてくれる可能性も大。そうなれば、あなた自身も同い年がいることに安心感を持てると思います。もし実年齢を言うことに抵抗があるなら、世代が分かるように「高校時代は○○(アーティストやドラマ、流行など)にはまってました」と言えば、だいたいの世代を察してもらえると思います。
初めての組織に入ったばかりの頃は、自分から既存メンバーにどんどん話しかけていくのはハードルが高いもの。このように、「向こうから話しかけてもらえる」ようにしておくと、早く組織になじめるでしょう。
朝会などで自己紹介を求められた際に話すほか、メンバー全員にメールで送る、社内SNSやチャットツールに投稿するなどして、自分の「話のネタ」を提供してみてください。
困った時にすぐ聞ける環境をつくろう
「自分の職務さえこなせればいいんだから、職場の人間関係は重視しない。雑談のコミュニケーションは必要ない」——そんなふうに考えている方もいるかもしれませんね。
しかし、他のメンバーから話しかけてもらいやすい関係性をつくるメリットは、「メンバーと早く打ち解けられる」ということだけではありません。仕事の進め方や組織のルールのキャッチアップがスムーズになります。つまり、早い段階から仕事のパフォーマンスが上がるようになるのです。
それはなぜか。組織にはさまざまなルールがあります。仕事の進め方もそうですし、備品の置き場所やツール・システムの使い方、細かなところでは「デスクでお菓子を食べていいのか」「あのコーヒーサーバーは来客用なのか自分も使っていいのか」など。
そんな疑問にいちいちつまずいていると、なかなか仕事に集中できませんよね。疑問が生じた際、すぐに周囲の人に「気軽に聞ける」という環境をつくることはとても大切です。
早い段階で、雑談によってコミュニケーションをとり、ある程度お互いのパーソナリティをつかんでおけば、些細な質問もしやすくなります。
相手にとっても、「まだ得体の知れない人」よりは「ある程度キャラが分かった人」のほうが、質問を受ける時の心のハードルが下がるはず。相手から、「よく知らない人の相手をするのは面倒くさいな」ではなく、「力になってあげたい」「職場に早くなじめるように協力してあげたい」と思ってもらえるようにしたいものです。
自分にとって働きやすい環境を早い段階でつくるためにも、「最初の自己紹介」をフル活用してくださいね。
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※本連載の第9回は、3月30日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。