「明日どうなるか分からない」NYレストラン経営者も涙目、米国襲うコロナ経済ショックの衝撃

トランプ、記者会見の様子

トランプ米大統領は3月11日に「国家非常事態」を宣言。国を挙げて対応にあたる姿勢を見せた。

Getty Images

外出禁止、レストラン、バーの営業禁止、学校閉鎖——。経済大国アメリカが一斉にその繁栄にブレーキをかけ、停止すると思った日である。新型コロナウイルスの拡大で、日本が経験していない領域だ。

3月16日(米東部時間)、新型コロナウイルス拡大の懸念でニューヨーク市場のダウ平均は、約3000ドル暴落と過去最大の下げ幅を記録し、取引が一時停止となった。

アメリカ経済のけん引役、グーグルなどハイテク企業が集積するカリフォルニア州のシリコンバレーでは同日、全米で一番厳しい外出禁止が発令された。トランプ米大統領は、「全てが落ち着くのは7月か8月」という見通しさえ示した。

全米最大の都市ニューヨーク市の消費圏であるニューヨーク、ニュージャージー、コネチカット州の3州では、学校閉鎖、高齢者施設の部外者との接触禁止に続き、3月16日夜からレストラン、バー、カフェの営業が、テイクアウトとデリバリー以外は禁止となった。人々がランダムに接触し、新型コロナウイルスに感染するのを防止するためだ。

店を開けているのにもかかわらず……

空となった肉売り場

ニューヨーク市クィーンズのスーパーの様子。安い鶏肉からなくなり、肉売り場は空となっている。

撮影:柏原雅弘

「明日どうなるかわからない。一両日中に廃業するかどうか決めないと。テイクアウトだけでは経費を払えないし、私たち経営者の給与ももはやゼロ。私は2児のシングルマザーだし、共同オーナーはお腹が大きくて明日産まれてもおかしくない状況で……」

と話すクリスタル・ウイリアムズさんは、涙目だった。ニューヨーク市クィーンズ区の「ジュリアズ」のオーナー兼シェフで、特にワイン好きな女性に支えられて5年間、「夢のレストラン」を仕切ってきた。

しかし、3月11日のトランプ大統領の国家緊急事態宣言以来、「閉店になるのかも」と思われたのか客数が減り続け、近所のレストランバーは14日土曜日に客足が伸びなかったのをきっかけに次々に閉鎖。2日後の16日にもジュリアズは営業していたが、筆者が行った時も客は1組だけだった。

計り知れない経済への影響、失業する人も

「なんでもやります」という張り紙

街中には黄色い張り紙に「ご近所で助け合い。なんでもやります」」という内容が。

撮影:柏原雅弘

バーカウンターでは、彼女が解雇して最後の小切手を渡したばかりのヒスパニック系シェフが、「くそ、くそっ。コロナウイルスのやつめ」と言いながら、パソコンを開き、新しい職を探してオンライン就活インタビューの順番を待っていた。「つながった!」と振り返った時の目に涙が光った。

ウイリアムズさんらレストラン業が、経営存続の危機にあるだけでなく、3月16日午後8時にニューヨーク州と隣接するニュージャージー、コネチカット3州では映画館、カジノ、ジムなどが全て閉鎖された。この瞬間に、ジュリアズのヒスパニック系シェフのように「無職」となった人々が無数にいるのは間違いない。今の時点でデータはないが、従業員だけでなく、清掃やサプライの職員などサービス業に関わる数えきれない人々が、レイオフ(解雇)になっている可能性がある。

解雇されたり、解雇される不安を抱えた人たちが、一斉に消費を控えるのは確実だ。家に閉じこもり、3月末に家賃も払えないとなるとどうなるのか。筆者の近所の友人は、レストランの従業員が多く、4月分の家賃について家主と交渉に入ると話す。

フレンチレストランのウェイトレス兼バーテンダーのセリーナは、こう言う。

「少しは蓄えがあるけど、もし2週間でお店がオープンしなかったら、アメリカに住むことを考え直さないといけない。アフリカの新型コロナウイルスがないところに行って仕事でもする」

粛々と静まり返るニューヨーク市

マック

ニューヨーク市内のマクドナルドで、客が座らないように貼られたテープ。店内での飲食はできなくなっている。

撮影:柏原雅弘

ニューヨークは、ローマ、パリなどに続いて事実上「戒厳令」状態に入った。その打撃は計り知れない。観光客を失い、普通はまっすぐに歩けないほどの観光名所タイムズ・スクエアや5番街が、ガラガラの状況だ。

国際会議、スポーツ、コンサートなども3月上旬から、次々に中止・延期となり、ホテル、航空会社などが影響を受け始めた。それに加え、さらにニューヨークの市民文化の中心でもあるレストラン、バー、イベントが中止となる。観光客だけでなく、市民の顧客も失い、従業員もクビになるという二重三重の打撃となる。

今や、新型コロナウイルス拡大=アメリカ経済崩壊になるかもしれないという瀬戸際だ。

ブラックマンデー以来の株価暴落

NY証券取引所

ニューヨーク市の証券取引所の様子。あまりの事態にフロア全体がパニックに陥っていた。

REUTERS

ニューヨーク株式市場のダウ平均は、下落率が12.93%と、1987年10月の大暴落「ブラックマンデー(暗黒の月曜日)」以来(22.61%)の下げ幅となった。

弱気相場から景気後退、さらには不況に突入するのを恐れた連邦準備制度理事会(FRB)は3月15日、1%の緊急追加利下げを決定したと異例の発表。主要政策金利を年0〜0.25%とし、事実上のゼロ金利政策をいきなり導入する。ニューヨーク連邦準備銀行は翌16日、短期金融市場へ5000億ドル(約53兆円)の追加資金供給を発表した。

「癌治療でキモセラピーを受けている高齢の母と二人暮らしです。株をやっていますが、このままでは治療代が払えません。株をどの金融商品にしたら、母の治療を続けていけるでしょうか」

MSNBCのニュース番組が急遽始めた相談コーナーにこんなメッセージが届き、スタジオに集まった医療関係者がしばし沈黙した。

トランプ大統領も16日の記者会見で、景気後退(リセッション)の可能性について尋ねられると「ありうるかもしれない」と答えた。

最悪シナリオでは1.8兆ドルが失われる

米有数のシンクタンクであるブルッキングス研究所が出した報告書で、アメリカの国民総生産(GDP)は、パンデミックが抑えられなかった最悪のシナリオの場合、1.8兆ドルが失われるとする。

日本に比べ、GDPに占める割合が大きいアメリカの消費を、新型コロナウイルスが侵食した今。この侵食度合いをいかに最小限に食い止めるかというのが、ウイルス拡大と共に課題になった。

ニューヨークやカリフォルニアなど人口が集中する地域で、人々の移動を極端に制限することで、新型コロナウイルスの感染スピードを抑えようという州ごとの政策が功を奏するのか。

2020年11月にある大統領選挙での再選が 「コロナ不景気」から危機にさらされているという懸念から、トランプ大統領が全米の外出禁止令を発するというフェイクニュースもこの1週間ほどチェーンメールなどで広がっている。

それが発動されなくても、現時点でのアメリカ経済と市民生活への影響は、前代未聞のものとなる。

(文・津山恵子)

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