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グーグルが日本向け「GIGAスクールパッケージ」で“無償”を主軸にした理由。狙うは根強いOffice信仰の打破か

Chromebook

グーグルのChromebookの売り場。写真はニューヨークの量販店のものだが、国内でも一部量販店では売り場設置する店舗も現れている。

撮影:小林優多郎

グーグルが日本の教育市場向けに見せた「攻め」の姿勢は、成功するだろうか?

グーグルの日本法人Google Japan(以下両方合わせてグーグル)は、文部科学省が2019年に発表した小中学校にインターネット回線と生徒一人一台PCの実現を目指す構想「GIGAスクール構想」に向けた同社の取り組み「Google GIGA School Package」(以下GIGAスクールパッケージ)を発表。3月17日にオンライン記者会見で概要を報道陣に説明した。

グーグルのGIGAスクールパッケージは、以下の3つの柱からなるパッケージだ。

Google GIGA School Package

Google GIGA School Packageの解説スライド。3つの柱で構成されている。

出典:グーグル

今回グーグルは、記者発表の中で何度も「G Suite for Educationは無償だ」という言葉を繰り返した。対抗するクラウドサービスOffice 365を「特別価格」とはいったが「無償」とは言わなかったマイクロソフトとの差を際立たせた形だ。

米国では60%超の「教育市場シェア」も、日本では浸透できず

GIGAスクールパッケージの説明スライド

2月4日にマイクロソフトとパートナー企業が発表したGIGAスクールパッケージの説明スライド。

出典:マイクロソフト

文部科学省が推進しているGIGAスクール構想には、ICTのプラットフォーマー大手3社が選定。それに基づいた製品とクラウドサービスが、各都道府県や市町村などの教育委員会などに提案されている。3社とは、iPadなどの端末を提供するアップル、Chromebookベースの端末の提供を行なうグーグル、そしてWindowsベースの端末を提供するマイクロソフトだ。

マイクロソフトのGIGAスクールに向けた取り組みは、2月4日に東京都内で行なわれた記者発表の中で説明されている。

2月4日の会見の中で、マイクロソフトは同社のOEMメーカーと協力して5万円弱の価格設定のGIGAスクール向けWindows PCと、クラウドサービス・Office 365を特別料金で提供すると明らかにした。

今回、グーグルが発表したのは、マイクロソフトの教育向け施策に真正面から対抗するものだ。というのも、両社の本拠地であるアメリカの教育市場において、双方激しい競争を繰り広げているからだ。

Google for Educationディレクター、ジョン・ヴァンヴァキティス氏

オンライン会見でグーグルの日本向けの取り組みを説明する、Google for Educationディレクター、ジョン・ヴァンヴァキティス氏。

出典:グーグル

米グーグルが「Chromebookはここ3年、アメリカの教育市場でトップシェアを得ており、60%を超える市場シェアを持っている」(Google for Educationディレクター、ジョン・ヴァンヴァキティス氏)と語る通り、米国の教育向け市場でChromebookは、マイクロソフトのWindows OSベースの機器を上回る教育市場シェアを得ている。

スライド

グーグルによる、各国でのChromebookのシェア。アメリカ市場で圧倒的な強さを持つ一方、他の地域ではそこまで強くないエリアもまだ広がっている。

出典:グーグル

アメリカ教育市場におけるChromebookの勢いは強力だ。マイクロソフトがChromebookと同じように使えるバージョンのWindows 10(Windows10S)を発表したり、教育向けのWindowsライセンスを思い切った低価格にするなどの対抗策を講じたが、現実には「実を結んでいない」状況だ。

一方、日本国内市場は真逆の状況だ。マイクロソフトは、2月時点の会見で国内のシェアは85%と説明、教育向け市場ではマイクロソフトの強みが未だ続いている。

マイクロソフトのOffice 365に対抗する「G Suite無償提供」

図

Chromebookに国内参入する6メーカー。それぞれ4万5000円以下という価格は一見魅力的だが、マイクロソフトも5万円以下のラインナップを揃えてきており、ハードウェア単体で大きな差をつけられるわけではない。

出典:グーグル

こうした状況を覆す狙いもあり、今回グーグルは、「教育に使うサービス(アプリ)や、現場向け教育プログラムの「無償」施策を大々的に打ち出す」という、かなり思い切った手を打ってきたわけだ。

ヴァンヴァキティス氏は「Chromebookは4万5000円を下回る価格で提供する、6つのOEMメーカーから14のデバイスが提供される」と述べ、多数の選択肢と低価格が売りだと説明した。

ただし、この点はマイクロソフトが5万円以下のノートPCを多数そろえてきた状況とあまり違いは無い。

一方、特にクラウドベースの生産性向上ツール「G Suite for Education」の無償提供はインパクトが大きいと言える。マイクロソフトはOffice 365を廉価で提供すると説明したが、無償とは言っていないからだ。

スライド

G Suite for Educationの特徴。ビジネスなどで使われるG Suiteとは異なり、クラス管理など教育機関向けの管理機能が入っている。

今回文部科学省はGIGAスクール構想の柱の2つのうちの1つとして校内ネットワークの整備を挙げ、その中で「クラウドサービスへの移行」を強く訴えている。

しかし、各自治体は予算との兼ね合いもあり、どのクラウドサービスと契約すれば良いのか頭を悩ましている。

そうした中で、「グーグルなら無償」「教員向けの研修も無償」というのは、魅力的に映るのではないか。

「無償」にしてまで崩したいのは、日本で根強い「Office信仰」?

スライド

グーグルはGIGAスクールパッケージの中で、教員向けの研修も無償を打ち出した。

出典:グーグル

もちろん、これらのコストはグーグルが自前で負担するわけで、「大きな持ち出し」になる。しかし、今後子どもたちが社会人になったときに、子どものころから、(Officeではなく)G Suiteに触れて育った、というメリットは決して小さくないだろう。

グーグルにせよ、マイクロソフトにせよ、子供達が自社サービスのIDを持つということは、そうしたユーザーを子供の頃から囲い込むことになる。その意味では、決して高い投資ではない、と判断したのではないか。

グーグルがこの無償でマイクロソフトの牙城である日本の教育市場に食い込めるかは、教育委員会なり、自治体の意思決定層に「無償」で訴えかけられるかにかかっている。

その先に狙っているのは、おそらくは教育現場を通じて、日本における「Office信仰」を打破すること、ではないだろうか。

(文・笠原一輝)

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