2015年に新卒で入社した4人。左からCOSIC取締役COOの若月厚志氏、SHE取締役CCOの福田恵里氏、リクルート在籍で、住宅領域のデータ分析グループマネジャーの杉浦太樹氏、日常消費領域を中心にデータスペシャリストとして活躍している西村直樹氏。
認知されていないことも多いが、リクルートには優秀なIT人材が揃っている。高い技術的専門性とビジネスのスキルを身につけた彼らは、リクルートに何を期待して入社し、何を学んだのか。
2015年にリクルートに入社し、データサイエンティストとして活躍する現役社員の西村直樹氏、杉浦太樹氏、リクルート退社後に起業したSHE取締役CCOの福田恵里氏、経営者となったCOSIC取締役COOの若月厚志氏が、リクルートで学んだビジネスの「守破離」について語り合った。
前編「現役・元リクルート社員が語る「会社を使い倒す」方法」はこちら。
リクルート流ビジネスの「守破離」
(写真左)若月厚志さん。COSIC取締役COO。慶應義塾大学大学院理工学研究科卒業後、2015年リクルートホールディングス入社。プロダクトマネジャー、UXディレクターとして「ゼクシィ」を担当した。2019年10月から現職。(写真右)福田恵里さん。SHE取締役CCO。大阪大学在学中に米国、韓国に留学。帰国後に初心者の女性限定のウェブデザインスクールを立ち上げる。2015 年リクルートホールディングスに新卒入社。2017年4月から現職。
——若月さん、福田さんはすでにリクルートを退社して、現在は経営者として活躍しています。リクルート時代の経験で今に生きていることがあれば教えてください。
若月厚志さん(以下、若月) 僕は入社後「ゼクシィ」に配属され、2年目には当時立ち上がったばかりの「ゼクシィ恋結び・縁結び」というマッチングサービスに手を挙げて加わりました。まだメンバーは3〜4人でしたね。その後、ゼクシィのプロダクトマネジメントの中心を担って、一通りITビジネスの守破離の“守”、つまり“型”を教えてもらいました。
一番頑張ったのは、2年目以降に手がけたマッチングサービス。競合が多いなか、3カ月ほどでCPA(顧客獲得単価)を半分にできた。自分で目標設定して有言実行する大切さや、戦略を戦術に落とし込み、周囲を巻き込んでやり切ることの大切さ、難しさを学びました。
福田恵里さん(以下、福田) 私も“型”を学んだと思う。リクルートのビジネスって組織によってバラバラの事象を抽象化して誰でも汎用的に使えるようにメソッド化して横展開していく。その意識が徹底されて組織に根付いているので、リーダーが抜けても組織が回っていくんです。そこにリクルートが長年、強い組織であり続けている理由があると思っています。自分が起業してからも、何をするにもまず「“型化”(かたか)して横展開する」ことを心がけています。
——福田さんは入社前から「いずれ起業する」と考えていたそうですが、最初から「リクルートでこれを身につけよう」という目的意識があったのですか。
福田 ありました。入社時はほかの同期よりもビジネスの知識がなかったので、UI/UXに閉じず組織全体がどう回っているのかを知りたいと考えていました。他部署と協業するなかで、視点の違いやそれをどうやって共通プロトコルに落とせば同じ方向を向くことができるのか、コミュニケーションの技術も含めて学ばせてもらいました。
若月 人や組織のモチベーションをどうコントロールするかという経験は、今も役に立っていますね。
福田 スタートアップを起業して2年目に入って人事評価制度を作りました。元リクルートの人材と仕事をすると、その優秀さに驚きます。リクルートの、新卒のまっさらな状態から人材を育てるフォーマットや研修制度は起業後も参考にしています。
周囲に感化され、やりたいことを発信するように
(写真左)杉浦太樹さん。早稲田大学大学院先進理工学研究科卒業後、データ解析エンジニアとして2015年リクルートホールディングス入社。データ分析グループマネジャー。(写真右)西村直樹さん。東京工業大学大学院社会理工学研究科経営工学専攻卒業後、データ解析エンジニアとして2015年リクルートホールディングス入社。データサイエンティストとして、データ施策やR&Dに取り組んでいる。
——現在も社員として活躍されているデータサイエンティストの杉浦さん、西村さんは、入社前から高いデータ分析のスキルを持っていました。リクルート入社後に、仕事を通して変化したことはありますか。
杉浦 データ分析しているだけではお金にならないんです。どういう構造で売り上げにつながっているかを把握して、それが“型”に落ちて、使い続けてもらって初めて価値になる。なので、ビジネスでは全体を俯瞰した上で、クライアント、コールセンター、訪問営業担当⋯⋯社内外のステークホルダーそれぞれとの接点を大切にし、巻き込みながら、事業として新たな価値を生み出し続ける必要があります。そこを考えながら仕事をする点は、学生時代との大きな違いですね。今後は自分がうまくできたこと・失敗したことを伝えて、組織として価値を創っていけたらいいなと思います。
西村 僕は人と会ったときに「変わった」と言われることが増えました。以前はアクティブなタイプではなかったんですが、やりたいことを自分から発信するようになった。リクルートには、自分のやりたいことを明確にして、周囲を巻き込みながら実現していく文化があり、その影響を受けているんだと思う。自分から「やりたい」とチャレンジしてみて、失敗してもロスが少なく、成功するとインセンティブが大きいんです。尊敬できる人が社内にいて真似ていくことで近づいている気がするし、自分自身の考え方の変化も気に入っています。
「新規事業を手掛けたい」と意気込んで入社したが⋯⋯
——学びがたくさんあるということは、大変だったこともたくさんあるのでは。
杉浦 ステークホルダーが多岐にわたるがゆえに、難しいなと思うことはありましたね。例えばクライアントの課題を解決したいと思っている営業担当は、個社のためのツールをつくったほうがいいものになると考える。でも、個社のためよりも横展開したほうが会社にとっては意味があるものになる場合もある。皆が一緒に目指せるゴールを見つけるにはどうすればいいか。
「どっちがいいですか」と聞くと、リクルートの社員は「どっちも」と言うし。
一同 言うね(笑)。
杉浦 すべて底上げしなければいけない。そこは特に苦労しましたし、鍛えられた。
西村 そうですね。単純にいいアルゴリズムをつくるだけでなく、クライアントを含め意思決定者みんながOKとするラインに持っていかなければならないところが苦しい。でも、最近は楽しめるようになりました。そこを越えて初めて分析が価値になるのを実感できるから。
若月 僕の場合は、入社前は「新規事業ばかりできる」と期待していたんですが、リクルートは大規模なサービスを展開しているがゆえに、既存事業の変革寄りの仕事が多い点にギャップを感じました。例えば4年目に「開発生産性を2倍にする」というミッションを手掛けたんですが、それは今まで正しいと思っていたやり方を否定して変革するような仕事。ビジネスをスケールさせて存続させるには、こういった泥臭い仕事も必要になるんですよね。
福田 私が難しいと思ったのは、大企業なので気をつけないとベクトルが上司に向いてしまうという点。自分自身、報告資料に手をかけすぎてしまうとか、もっと効率化できたと思います。
もうひとつは、新人のときに「育ててもらおう」という甘い意識があって、それでは成長しないと気づいたことですね。圧倒的当事者意識をもって自分から知識やスキルを身につける行動を取り、やりたいことに手を挙げなければ、リクルートですら何も与えくれないと思う。
多様な刺激を求める人材にリクルートを推す理由
——新卒で就職先を選ぶ際、選択肢が色々あるなかでリクルートを選んだわけですが、これから就職先を考える学生にもリクルートを勧めますか?
福田 OB訪問に来る学生には「絶対リクルートがいい」と勧めています。理由のひとつは多様性。データ分析のプロフェッショナルや大学生の頃からすでに年商何百万円と稼いでいる人などそれぞれ専門性、強みを持った人が集まっているので、みんなのいいところを盗める機会がたくさんある。あとは人材のつながり。私たち同期もそうですが、“卒業”後もつながって新しいチャレンジを応援してくれる。それは財産ですよね。
杉浦 在籍時から仲が良かったわけでなくても、ゆるくつながっていて刺激をもらえるし、何かあったら相談したいと思う。
福田 それと、人に興味を持って目をかけてくれる会社でもある。先ほど「育ててもらおう」という意識ではだめだと言いましたが、やりたいこと(WILL)があれば、手厚くその人の成長やWILLに向き合ってフォローしてもらえます。「面倒をみてあげよう」という愛情を部署全体からひしひしと感じる。
若月 自分で変わろうとする力をひき出す期待のかけかたをするマネジャーが多いし、失敗しても否定せず次に期待してくれる文化もいい。歴史ある会社なので、育成の“型”を持っていると思います。
——杉浦さんと西村さんのようなデータサイエンティストにとって、リクルートで働く醍醐味とは?
杉浦 ユーザー側のデータだけでなくクライアント側のデータも持っていて、動いている金額感が大きいところも面白いです。ちょっと改善したときにもインパクトが出せる。
西村 データのプロジェクトは中長期的に見ていかなければいけないことがあります。例えば産学連携やR&Dなどは短期で結果を求められると難しい。その点も理解してやらせてもらえるのは助かる。それは僕が今もリクルートに居続ける大きな理由です。