新型コロナウイルスの影響で在宅ワーカーが増え、ビジネスチャット「Slack(スラック)」を導入する企業が増えている。
Reuters
- 新型コロナウイルスの世界的大流行で、在宅ワーカーは社内コミュニケーションをチャットツールに頼るようになっている。
- ビジネスチャット「Slack(スラック)」が浸透するにつれ、社内のチャンネルでネットスラングが使われるようになっている。
- 下品なスラングは避けるべきだが、同僚と気楽なコミュニケーションをとることで親交が深まるかもしれない。
- Slack上のあらゆる発言は上司や経営陣が閲覧できることを忘れずに。注意を要する情報を持ち出すべきではない。
良くも悪くも、Slackは職場のコミュニケーションを一変させた。
新型コロナウイルスの世界的大流行で在宅ワーカーが増えるにつれ、職場でのコミュニケーションがSlackに代替されつつある。だがSlack上では周囲の反応が直接見えないため、自分のメッセージが誤解を招く事態が起きやすい。
筆者の場合は、Slack漬けの職場で上司にうっかり悪態をついてしまった。私のキャリアに衝撃的な変化をもたらす事実を前もって伝えようと、上司がSlackで話しかけてきたとき、何と言ったかは正確に思い出せないが、その知らせに動揺して本能的に「JFC」と入力したのだ。
その略語の意味を上司にたずねられた瞬間、私は恥じて顔が火照るのを感じた。「JFC」とは「Jesus f*cking Christ(何てこった!)」の略で、キリストの名を軽侮するだけでなく、ひどい罵りの言葉だ。
コミュニケーション上の問題以外に、Slackは従業員にとって集中力の妨げになる面もあるし、SNSと同じようにSlackが職場での不適切な行動を助長する可能性もある。
カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールの講師で、生産性に関する研究を行っているルーカス・ミラーはこう指摘する。
「リアルタイムでコミュニケーションがとれるのはもちろん便利ですが、迷惑な存在でもあります。いつ緊急の連絡が入るか分からず、つねに何かを見逃しているかもしれないという状況では、仕事に集中することが難しくなります」
そうした難点があるとはいえ、チャットツールはいまや職場に欠かせない存在だ。Slackのデイリーアクティブユーザー数(DAU)は、わずか4年間でゼロから800万人にまで増えている。ちなみに、競合するマイクロソフトのビジネスチャット「Teams(チームズ)」は、それ以上の速さで成長を遂げているとみられる。
Slackを使えば、メールよりも気軽にコミュニケーションをとれるし、チャットを通じて同僚との交流を深めることもできる。一方で、下品な言葉など、チャンネルから完全に閉め出さねばならないこともあるので、注意しなくてはならない。
職場でSlackを使う際の「究極のエチケット」を以下に紹介しよう。
1.下品な言葉を含むネットスラングを避ける
「みんな、キッチンには近寄らないで、ゴキブリがいるみたいなの!」「WTF(What the F*ckの略、なんてこと!)」
Allana Akhtar/Business Insider
個人的には残念な話だが、筆者が取材したキャリアの専門家たちは、どれほど広く使われていようと、下品な言葉を含むスラングは職場のSlackでは許されないと口をそろえた。
『ユーモアの効用(The Humor Advantage)』の著者でビジネスコーチのマイケル・カーは、たとえ大半の人が意味を理解し、さほど気に留めないと思われる表現であっても、SlackではNGだと指摘する。
「多くの人が見ていることを忘れてはいけません。将来、そうした言葉づかいを不快に感じる人が閲覧する可能性を意識する必要があります」
2.転職活動、病歴、銀行口座、同僚の悪口はNG
「元気?」「まあね、今日も上司がウザくて。あいつ、マジで嫌い」
Allana Akhtar/Business Insider
会社が従業員のSlackやメールを閲覧できることは周知の事実だ。テクノロジーの進歩とともに従業員の行動を追跡することが容易になり、踏み込んだ対応をとることもある。ウォールストリート・ジャーナルが雇用問題に詳しい弁護士に取材したところ、会社は職場内や仕事用のデバイスを使ったコミュニケーションに合法的にアクセスできる。
キャリア情報サイト「The Ladders(ラダーズ)」のマーク・セネデラ最高経営責任者(CEO)は、従業員がSlack上で病歴や銀行口座の詳細といった個人情報を話題にしないようアドバイスしている。疾病や健康状態にもとづく従業員の差別はそもそも違法だが、プライベートな情報はできるだけ伏せておくに限る。
さらに、昇進を望んでいるのなら、あるいは解雇の対象になりたくないなら、上司の悪口はSlack上で口にすべきではない。セネデラはこう指摘する。
「Slack上のあらゆるチャットが保存されているという意識が欠けています。プライベートな情報や個人的感情をSlackで必要もなく開示すべきではありません」
3.Slack上で争わない
「昼休みにコーヒーでもどう?」「うーん、できれば遠慮したいんだけど、まあ」
Allana Akhtar/Business Insider
『クラッシャー上司を手なずけろ(Tame Your Terrible Office Tyrant)』の著者で、職場環境の問題に詳しいリン・テイラーは、普段なら面と向かっては使わないような言葉が、チャットルームだと飛び出すことがあると指摘する。その結果、例えば、スマートフォンを使う子どもたちの間で「ネットいじめ」が増えている。
ビジネスパーソンがあからさまに同僚をいじめることはまずないが、Slack上のコミュニケーションだと、対面なら使わないような「受動的攻撃」(=怒りや不安をネガティブな態度や行動で表現すること)コメントで応じることができてしまう。
「Slackは、受動的攻撃の意図(をもつ言葉)を同僚や上司に向けるのにふさわしい場所とは言えません。そうした言葉を発する前によく考えることです。5分後に、自分の席や冷水器の近くでまさにその同僚や上司に遭遇するかもしれないので」(リン・テイラー)
4.同僚をほめるならSlackが最適
「素晴らしいレポートね」「ありがとう、でもあなたのデータ分析のおかげ。チャートがすごくよかった」「ありがとう!」
Allana Akhtar/Business Insider
否定的であることは、どんな職場にもふさわしくないあり方だ。一方、前向きなフィードバックをチームメンバーに伝えるには、Slackは良い場所かもしれない。
前出のテイラーによると、Slackのメッセージは何週間も表示されるため、チームのチャンネルやグループに書き残すことで、成果を目に見える形で残しておける。
さらには、会社の上層部がSlackをチェックするとき、あなたのチームの働きぶりを目にすることになる。
「Slackではコミュニケーションが形として残ります。感謝を伝えてその記録を残しておくのに最適な場所と言えるでしょう」
5.絵文字を使いすぎない
「(絵文字×4)」「何?」
Allana Akhtar/Business Insider
絵文字はすでに職場でも市民権を得ている。前出のカーによると、それは必ずしも悪いことではない。
絵文字のサムズアップ(親指を立てるジェスチャ)は、メッセージの受領や発言への賛同を上司に伝えるとき、わざわざメッセージを送らずに済むため、非常に便利だ。笑顔の絵文字を使えば、友好的な姿勢を同僚に伝えることもできる。
しかし、例えば8つの絵文字を連続で並べるとか、「読む人がヒエログリフのように解読しなくてはならないのでは困る。友人に宛てるメッセージのように、絵文字に凝り過ぎてはいけません」とカーは警告する。
会社の上層部に宛てるメッセージや深刻な話題の場合は、絵文字は絶対に避けるべきだ。
6.チャンネルを使って会社の友だちを増やす
「#ネコ(チャンネル)ネコの写真、ネコについて語りましょう。ネコに関することなら何でも」
Allana Akhtar/Business Insider
入社したばかり、あるいは異動してきたばかりの人は、仕事に慣れるまで友だちをつくる余裕がないのが普通だ。しかし、慣れてくるにつれて顔見知りが増え、友人をつくりたいと思うようになる。
そんなとき、Slackは役に立つ。
会社内では、子育て中の従業員、大学の同窓会、在宅ワーカーなど、特定のメンバーに向けたさまざまなSlackチャンネルが用意されていることが多い。こうしたチャンネルは同僚と親しくなるための重要な場だ。
従業員が自分の好きな話題について率直に会話ができるように、猫好きやプロバスケのファン向けチャンネルをつくっている企業もある。そうした空間では、上司に送るメッセージや仕事用のチャンネルよりも気軽な言葉を使える。
「入社して最初の週に、自分が好きなヒットソングについて話したいと思う人はいないでしょう。けれども、その歌手のファン専用のチャンネルがあれば緊張が多少ほぐれて、ほかのメンバーと気楽に会話ができるのでは」(マーク・セネデラ)
7.立て続けにメッセージを送るのはタブー
「ねえ」「ジュリアナ」「それで」「今日は人と会う用事があって」「早めに会社を出たいの」「お願いしてたファイル、16時までにもらえる?」「OK。いまちょっと立て込んでるので、あとでやるわ」
Allana Akhtar/Business Insider
友だちにメッセージを送るとき、筆者は5つか6つの短いメッセージを立て続けに送ることが多い。
「元気?」
「ちょっと教えて」
「クリスティーナがどこにいるか知ってる?」
「インスタではニューヨークにいるみたいなんだけど、滞在先が分からない」
「金曜日に会えるかなと思って」
だが、Slackで短いメッセージをいくつも送るのは完全にタブーだ。立て続けに送ると、相手に意味もなくたくさんの通知が届き、急ぎの仕事の邪魔になる。いわばSlackを使った攻撃だ。
「相手には大迷惑です。Slackはショートメッセージではないので、勘違いしないように」(マイケル・カー)
8.Slackで長文を書かない
「ジュリアナ、週末は楽しんだ?(以下、長すぎるので省略)」
Allana Akhtar/Business Insider
短いメッセージを連発する攻撃が御法度なのと同じく、むやみに長い文章も避けた方がいい。
カーによれば、Slackはショートメッセージとメールの中間に位置づけられる。詳細な返事を要する長文を送る場合や、数段落におよぶ文章を書く必要がある場合は、メールを使うべきだ。
「メールの使用回数を減らすのがSlackを使う本来の目的であることを忘れてはなりません。Slackのメッセージはメールほどフォーマルでも構造的でもないのです」
また、ある話題についてやり取りが行われている最中に急に話を脱線させると、そのチャンネルの誰も反応しなくなるおそれがある、とテイラーは指摘する。
「そういう場合はメール(やダイレクトメッセージ)を使うべきです」
9.スラングに注意する
2015年ごろ、On fleekは「イカしてる、クール」を意味する流行語だったが、いまや死語だ。最近はyeetやstan(上の画像にも出てくる)が使われる。
Allana Akhtar/Business Insider
友人との間でスラングを使う人は多いが、スラングは変化が速く、誰もが最新のスラングを知っているとは限らない。
流行語は賞味期限が短い。たとえ自分と経歴が似ている同僚たちであっても、スラングの最新事情をフォローしていないかもしれない。Slackでスラングを使うことが不適切とまでは言えないが、言いたいことが伝わらない可能性があることには留意すべきだとセネデラは言う。
「スラングはすべて避けるべきということではありませんが、大流行の最新スラングほどすぐに使われなくなるものです」
10.相手に合わせて言葉づかいを選ぶ
「今日のプレゼンは一緒にできて最高だったね。今日は仕事のあと、ヒマ?ハッピーアワー行かない?」「ありがとう!行く行く」「やった!」
Allana Akhtar/Business Insider
ハッピーアワーに一緒に飲みに行く同僚と話すときは、ほとんどの人が会社のCEOと話すときよりずっとくだけた話し方をするだろう。
Slack上でも、そうした言葉の使い分けがあるのは同じだ。親しい同僚であれば気軽な口調でチャットしても問題ないだろう。例えば、大学を卒業してから3年以内の従業員ばかりのスタートアップのような社風であればなおさらだ。
だが、上司や経営陣とのチャットであれば、ビジネスパーソンらしい言葉を使うべきだ。
「唯一の、どこでも通用するSlackの正しい使い方などというものは存在しません。自分の職場で手がかりを得て、それに従うしかないのです」(マーク・セネデラ)
(翻訳:山崎恵理子、編集・キャプション:川村力)